コロナ禍で消費者が「日本回帰」? 外国人客ゼロでも好調「和アイテム」の数々

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コロナ禍で消費者が「日本回帰」? 外国人客ゼロでも好調「和アイテム」の数々

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アーバンライフ東京編集部

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「和」を感じさせるアイテムというと、コロナ以前であればインバウンド(訪日外国人客)需要を想定した商品と捉えられるイメージが強くありました。しかしコロナによって海外渡航が制限された今、むしろ日本の女性たちが再び和の小物に注目するようになったといいます。その背景を探りました。

高まる「ご自愛消費」ニーズ

 コロナ禍で目まぐるしく変化した消費者マインド。そのキーワードのひとつに「回帰」が挙げられます。

 第1波と呼ばれる感染拡大が広がった2020年4~5月頃から、ニュース報道などでしきりに使われた“不要不急”という言葉は、消費者が「自分にとって本当に必要なものは何か」を問い直す契機となりました。

 満員電車での毎日の通勤や、仕事のお付き合いの飲み会、周囲の視線を意識したメイクやファッション――。それらをいったんリセットして、本当に必要なものを自分自身で考える回帰行動は、くしくもコロナ禍がもたらした心身デトックスだったと言えるかもしれません。

 では、デトックスによって空いたスペースに新しく追加されるものは何か? 2020年末から年明けにかけて頻繁に聞かれるようになった「ご自愛消費」「ごほうび消費」という言葉がそのヒントとなります。

 スナックミー(中央区日本橋箱崎町)が25~59歳の男女670人を対象に行ったネット調査(2021年1月)によると、過去半年間に気分転換やストレス発散の目的で「ご自愛消費」をしたと答えた人は全体の86%。理由には「自分へのごほうびに」「日々の楽しみを増やすため」などが並びました。

 ご自愛消費にかける支出は、「1万円以上3万円未満」が22%と最多。その額はコロナ以前の「1000以上3000円未満」から大きく増加しています。旅行や遊興の機会が激減したなか、別のところで自分のための支出を楽しむ消費者の動向が垣間見えます。

コロナ禍で「和」を選ぶ女性たち

 さて、コロナ禍での「回帰」というキーワードで見られるもうひとつの変化は、和を感じさせるアイテムなどの人気の高まりです。

東京都の伝統工芸品として指定されている江戸切子。こうした和のアイテムが、今再び注目を集めているという(画像:室町硝子工芸)



 東京在住・在勤のある30代女性は、勤務する会社がテレワークを本格導入したことから、居住面積の広い郊外の物件へ引っ越しを決意。その際、「和室」がある間取りにこだわったといいます。

「いろいろ不安を感じることが多い日々なので、何かどっしりとして揺るがないものが欲しいと思い、あらためて日本ならではのものの良さに目を向けました。和室は昔ながらの生活を取り戻したようで、何だかホッとできます」

 畳の6畳間を寝室に決め、丸ちゃぶ台を置き、布団を敷いて生活しているといいます。

 住居に限らず小物や装飾品など、和アイテムといえばコロナ以前は主にインバウンド(訪日外国人客)をターゲットにした商品のイメージが強くありました。しかし海外渡航が制限された2020年以降、そのインバウンド需要はほぼゼロに。

 そうした状況の中で、今度は日本の女性たちが和の上質なアイテムを積極的に選んでいるといいます。

江戸切子、職人技が光る繊細美

 たとえば、江戸切子を生かしたガラス製品を販売する室町硝子工芸(中央区日本橋本町)。

 扱うのはロックグラスやぐい飲み、ワイングラスといった食器のほか、ピアスやネックレスなどのアクセサリーも。職人たちがひとつひとつ手作業でほどこした切子の文様は、熟練の技術に裏打ちされた緻密さと端整さが特徴です。

消費者のニーズと職人の技から生まれた、江戸切子のワイングラス(画像:室町硝子工芸)



 同社のECサイトと店舗(港区白金)のオープンは2020年5~6月と、コロナ禍に重なりインバウンド販売は未経験。しかし日本国内の消費者から「普段使うものは良いものを選びたい」「家で過ごす時間をより良いものにしたい」といった声が寄せられ、好調な売れ行きを見せていると言います。

 こうした製品の販売を通して、日本の貴重な伝統文化を国内で継承していくこと、またそれに携わる職人を支援することも同社が掲げる重要な理念です。

「これまで作り手側とお客様の接点はほとんどありませんでした。当社では、職人が確かな技術で作る切子と、お客様が持つ現代的なニーズとを結ぶお手伝いをできればと考えています」(同社担当者)

 その一例が2020年12月に発売したワイングラスのシリーズ。ボウルの底部分と土台部分に切子文様が入った全6種は、「ワインの色を邪魔しない(無色透明な)切子グラスが欲しい」といった客のニーズに応えて生まれたもの。

 各製品は3万円台前後が中心の“高級品”ですが、多くの客が自宅用・自分用として購入していくといいます。

桜柄財布、日本女性からの支持

「花」をコンセプトにしたレザーブランド「AETHER(エーテル)」(ドリームフィールズ、中央区日本橋本町)が2021年3月に発売したのは、ソメイヨシノの柄が印象的な財布3種。ECサイトと実店舗(目黒区自由が丘)でそれぞれ好評を博しています。

 牛革の最高級と呼ばれるキップレザ―を使用し、ソメイヨシノの水彩画をインクジェットでプリント。本物の桜のような色合いと繊細さ、さらに“日本らしさ”と品質の高さが特徴です。長財布は2万9700円(税込み)、ふたつ折り財布は2万7500円と、こちらも高級品に数えられる価格帯ですが、人気のカラーは完売(再入荷待ち)になるほど。

 以前からさまざまな花モチーフの革小物を展開していたエーテル。コロナ禍前はやはりインバウンド需要が高く、和を感じさせる桜柄アイテムは外国人客にも特に人気でした。一方、コロナ禍以降は「お財布だけでも華やかなものを持って気持ちを明るくしたい」などの理由で購入していく日本人女性が多いと言います。

コロナ以前は訪日外国人客からの人気も高かった桜柄のアイテム。現在は日本人女性たちからも好評を博している(画像:ドリームフィールズ)



 客層の中心はアラサー以上の働く女性たち。ECサイトでレビュー欄をのぞくと、「桜が大好きなのでずっと気になっていた商品でしたが、今回コロナ禍で頑張った自分へのごほうびとして買いました。見るたびハッピーになります」といった声が並んでいます。

 日本人の毎春の楽しみだったお花見がコロナで2年連続かなわなくなったことも、女性たちの“桜ニーズ”に拍車を掛けたのかもしれません。

「当ブランドのコンセプトである『花』は、そこにあるだけで空間を潤してくれるような存在です。ほかにはない特別な柄を探していたというお客さまに選んでいただくことも多く、また革のイメージを覆す華やかなカラー展開も喜ばれています」(同社担当者)

日本茶セットやアクセサリーも人気

 コロナ禍で注目を集めた和アイテムはほかにも。

 日本のお茶文化をコンセプトにした「ホテル1899東京」(港区新橋)などでの提供商品を販売する「1899オンラインショップ」では、「おうち時間が増えた今、自宅でゆっくりお茶を飲む習慣を始めませんか?」と提案する日本茶セット(1万1000円)が人気。

 三重県四日市市で作られている萬古焼の急須や湯飲み、静岡県産の緑茶・ほうじ茶・玄米茶などがセットになっており、初めてお茶をいれる人にも好評だといいます。

 また上野マルイ(台東区上野)では、2021年4月1日(木)まで「Beppin Deco(ベッピンデコ)」と題した和のアクセサリーや雑貨などを取りそろえる期間限定ショップが展開中。

2021年4月1日まで上野マルイで開催中の期間限定ショップ「Beppin Deco(ベッピンデコ)」(画像:丸井グループ)



 こちらは中心価格帯が3000~4000円なので、より若い世代にも購入しやすい商品が並んでいます。

 コロナ疲れのご自愛消費と、今だからこその原点回帰が重なって人気となった和アイテム。今後コロナが収束しても、その傾向はある程度定着していくのかもしれません。

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