『鬼滅の刃』で注目の深夜アニメ だが昔は早朝に集中していたことをご存じか

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『鬼滅の刃』で注目の深夜アニメ だが昔は早朝に集中していたことをご存じか

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昼間たかし

ルポライター、著作家

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深夜アニメから注目され、大ヒットにつながった『鬼滅の刃』。一方、昭和時代は真逆の早朝にアニメが集中していたのをご存じでしょうか。ルポライターの昼間たかしさんが解説します。

早朝の子ども向け再放送番組が盛んだった時代

 東京は街を散歩していても、お店に入っても、テレビをつけても、今やどこもかしこも『鬼滅』『鬼滅』『鬼滅』の文字だらけです。
 
 漫画『鬼滅の刃』は2016年から2020年まで『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて連載されていましたが、人気に火が付き始めたのは、深夜放送のテレビアニメから。この流れから原作や関連商品が売れていくのは、もはや基本的なビジネスモデルと言えるでしょう。

TVアニメ『鬼滅の刃』(画像:(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable、エクシング)



 アニメはかつて晩ご飯前の時間帯に放送されていましたが、現在は深夜放送の存在感が際立っています。子どもをターゲットにした作品は土曜日夕方や日曜日朝の放送も少なくありませんが、メインは深夜になっているような印象です。

 そんなアニメですが、放送時間が早朝に集中し視聴率戦争になっていた時代がありました。

 早朝の視聴率戦争が激化したのは1970年代後半です。1979(昭和54)年夏頃の番組表を見ると、フジテレビは『ゲゲゲの鬼太郎』、テレビ朝日は『一休さん』。さらに『ど根性ガエル』、特撮では『ウルトラマン』が朝の6時から7時の時間帯にかけて放送されていました。

 これらはすべて再放送番組でした。すなわち、子ども向け作品を早朝に再放送して視聴率を争う戦いだったのです。

1970年代、視聴率低迷に悩んだ朝番組

 それまで、朝のテレビ放送は「時計代わり」となるような番組で構成されていたものの、1970年代中盤になると朝の情報番組は視聴率が伸び悩んでいました。理由は、人びとの生活スタイルが多様化し、視聴者の出勤時間に合わせられないまま番組を続けられていたからです。

朝食のイメージ(画像:写真AC)

 当時のテレビ各局は考えました。そこで取った作戦が、番組の内容を変えるのではなく再放送で視聴率を取ることでした。そんななか、確実に視聴率を取れるという理由からアニメや特撮といった子ども向けの番組が選ばれたのです。

 まだ当時はビデオデッキも普及していなかったため、子どもたちはアニメや特撮を見るために早起きしてテレビにかじりつくようになりました。これらの番組を見れば、学校ですぐに友達とおしゃべりできるわけです。

 ちなみに『ウルトラマン』は再放送で再び人気に火がつき、その結果『ザ・ウルトラマン』や『ウルトラマン80』が制作されています。

流れを変えたビデオデッキの普及

 しかし再放送が増えたおかげで恩恵を受けたのは、子どもよりもむしろ大人でした。子どもが午前6時頃からテレビにかじりついていた一方、大人は午後4時頃からの再放送にかじりついていたのです。

昭和時代のイメージ(画像:写真AC)

 この時間帯に放送されていたのは『水戸黄門』『大都会』『細腕繁盛記』など、夜の時間帯にかつて放送されたドラマでした。

 これらが人気となったのは、夜の時間帯に勤務するが多かったためです。というわけで、各社とも午後4時頃からの視聴率を狙って作品を投入していました。

 とりわけ人気の作品は何度放送しても視聴率を取れるとあって、再放送どころか再々放送、再々々々放送も当たり前でした。そして平成の初め頃までには、ごく当たり前の存在となりました。

 この流れを終わりに向かわせたのは、ビデオデッキの普及でした。これにより視聴者は放送時間にテレビの前に座っていなくても番組を見られるように。加えて、多くのアニメやドラマは放送後、ビデオ化されるようにもなりました。

「見逃し配信」の普及とその弊害

 こうして再放送はテレビから消滅していきました。そして現在は各種の配信サービスが登場したことで、録画していなくても番組を後から見ることは容易になりました。

配信サービスのイメージ(画像:写真AC)



 テレビ局も見逃した視聴者のためにわざわざ配信しているくらいですから、テレビをあえて放送時間に見るのは一種の趣味的な行動になっています。

 配信サービスが普及して「番組を見逃しても後で見られる」という環境は確かに安心感があるでしょう。ただ危機感がないためか、どうしても漫然とした視聴となっているような気もします。

 やはり、「二度と見ることはできないという意識」は今でも必要なのではないでしょうか。そして、そこまで熱くなれる番組にまた出会いたいものです。

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