まんまるおめめに鋭い歯 伊豆諸島で密かに人気上昇中、謎の美味魚「シャビ」とは
黒い見た目が悪かったり、小骨が多かったりで伊豆諸島の地元民すら敬遠していた謎の魚「シャビ」。実は大変美味でした。その魅力について、伊豆諸島紀行作家の斎藤潤さんが解説します。
食べると美味、でも見た目が……
伊豆大島の元町地区にある、「雑魚や紀洋丸」(大島町元町馬の背)という郷土料理を出す店で献立を眺めていたところ、焼き魚の欄に「島魚(タカベ・サビなど)」と書かれていました。
タカベは伊豆諸島を代表する夏の魚ですが、サビが分かりません。しかし、サビとは恐らく「錆」のことで、きっとアイツに違いないという心当たりはありました。各地でひそかに愛好されている隠れた人気魚に大島でも巡り合えるかもしれないと、胸が弾みます。
早速どんな魚かおかみに聞いたところ、
「食べるとおいしいんですが、黒くて見た目が悪かったり小骨が多かったりで、島でも限られた人しか食べていなかったんです。最近ですね、うちでも出すようになったのは」
正体に関する確信は深まりましたが、今日は肝心のサビが入荷していないとか。
翌日、大島から帰るために島の北部にある岡田港へ行き、遅い昼食をとることにしました。サビ恋しの気分を引きずったまま、港の前のK食堂(最近廃業)に入り、早くできるものを聞いたところ刺し身定食をすすめられました。刺し身定食は当たり外れが大きいので、内容を確認したほうが無難です。
すると今日はシャビが中心で、刺し身、たたき、べっこう(漬け)の3種類もついてくるとのこと。シャビとは、もちろんサビです。それ以外は、クロムツ、アオリイカ、アジだという。もちろん、即断即決です。

注文後、壁の手書きメニューにシャビの肝煮まで発見して、慌てて追加注文しました。そうだ、もしかしたら、
「済みません。もし、さばいていないシャビがあったら見せてもらえませんか」
「ここにはないので、ちょっと待っててもらえますか」
意外にあっさりしているけれど、かみしめて舌の上で転がせば深い味のシャビ肝をさかなにビールを飲んでいると、「お客さん」と声をかけられました。付いていくと厨房(ちゅうぼう)のまな板の上で、皮の色がさびたようなすすけたような全長80cmくらいはあろうという大きく細長い魚が、バットからはみだしています。
クロシビカマスに間違いありません。八丈移民が開拓した南大東島ではナワキリ、紀州ではヨロリ、小田原周辺ではスミヤキと呼ばれていたあの魚でした。

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