周波数調整は職人芸 みんながラジオにかじりついていた「BCLブーム」を覚えていますか
海外ラジオ局の電波を拾った時代 新型コロナウイルスの影響で、なかなか外出しにくい日々が続いています。そんなとき、久しぶりに聞くと楽しいのがラジオです。 東京都内はFM局だけでもTokyo FMやNACK5、J-WAVEなどが聞け、それに加えてコミュニティーFMもあるので、選択肢が多くてうれしい限り。 アナログBCLラジオの名機「クーガ2200」(画像:パナソニック) 現在のラジオ放送はパソコンやスマートフォンでも聞けるため、卓上タイプの製品は激減していますが、かつてはソニーやナショナル(現・パナソニック)など、名だたるメーカーが多数の製品を発売し、ラジオだけでカタログが一冊成り立つ時代もあったのです。 最新のラジオは、コンパクトサイズで高性能です。しかし、そうではないラジオに多くの若者たちが憧れた時代がかつてありました。 そう、1970年代の「BCLブーム」です。BCLとは「Broadcasting Listening(もしくはListeners)」の略で、遠距離のラジオ局の放送を聞くこと。とりわけ海外ラジオ局の電波を拾うことを指します。 電波の中に詰め込まれたロマン電波の中に詰め込まれたロマン まだインターネットがなかった時代、現地の情報をダイレクトにキャッチできるのはラジオだけでした。多くの国では、遠くまで電波が届く「短波」を用いてさまざまな外国向け放送を行っていました。 これらの放送は単に聴いて楽しむだけではありません。どこの放送局でも受信状況を郵便で報告すると、「ベリカード」と呼ばれる絵はがきのような受信認定証を送ってくれました。 1975年に出版された『世界のベリカード―BCLコレクション』(画像:国際コミュニケーションズ) 声でしか聞いたことのない国と国際郵便でやりとりすることに、今では考えられないほどのロマンがあったのです。 ブームは1970年代後半から まだ東西の冷戦が続いていた1980年代まで、各国の短波放送は敵対陣営に向けての宣伝放送の意味がありました。毎日、日本語放送を実施している北京放送や朝鮮中央放送では、日本であまり聞かないような物騒な言葉もしばしば使われていました。 そればかりではなく暗号放送のようなものも当たり前に受信できるなど、違った意味でロマンをかき立てられたものです。 そんなBCLがブームになったのは、1970年代後半です。当時のラジオはアナログだったので、周波数はダイヤルのつまみを回して調整。大人気だったソニーの名機「スカイセンサー5900」には、周波数のダイヤルがふたつも付いていました。 ソニーの「スカイセンサー5900」(画像:ソニー) まずメインダイヤルで大まかな周波数を合わせてから、スプレッドダイヤルで細かい周波数を合わせるのです。 ダイヤルの調整テクニックは職人芸ダイヤルの調整テクニックは職人芸 短波放送は、地球を覆う大気中の電離層の反射によって遠距離に電波を届ける仕組みとなっているため、大気の状態などで受信感度が変わります(太陽の活動が活発になると、普段は聞けない放送局の電波を拾うことができたそうです)。 そのため、良好な受信のカギとなるのはダイヤルの調整テクニックです。スカイセンサー5900の場合、目盛りが10kHzごとに刻まれており、微妙な操作によって5kHz単位で調整できると言われていました。 ダイヤル調整テクニックのイメージ(画像:写真AC) それでも遠くから届く電波は雑音が多く、聞き取ることは困難。スカイセンサー5900が大人気になったのは、その問題に対応していたからです。ふたつのコントロールボタンで音声のトーンを制御。さらに大口径のスピーカーを搭載し、テクニック次第で良好な放送を受信できるようになっていたのです。 多くの機能を備えているため、ラジオのサイズは自然と巨大になります。ソニーと競合していた各社の製品も同様でした。そんな巨大ラジオに向き合い、必死に放送電波を拾うことがとてつもなく楽しかったのです。 筆者(昼間たかし。ルポライター)はブームから10年ほど遅れた1980年代後半に楽しんでいたので、微妙な職人芸を体験していません。その頃にはラジオはデジタル化し、数字を入力するだけで目当ての周波数を拾えるようになっていたからです。 ネット時代におけるラジオの価値とはネット時代におけるラジオの価値とは そんな時代でも、まだカタログをめくるとワクワクしていたものです。中でも、ソニーの「CRF-V21 ビジュアルワールドバンドレシーバー」は魅力的でした。 「CRF-V21 ビジュアルワールドバンドレシーバー」はラジオだけでなく、気象衛星の画像も受信できるという、ソニーの技術力を結集したような逸品でした。 ソニーの「CRF-V21 ビジュアルワールドバンドレシーバー」(画像:ソニー) いったいどれだけの数が売れたのでしょうか。今だったら買えるのではないかと思い、オークションサイトでチェックしていますが、出品はまずありません。 ソニーは多くの海外放送がインターネットに移行した今でも、それらを受信できるラジオを生産しています。いつ役に立つかはわかりませんが、一家に1台あってもいいかなと思うのは筆者だけでしょうか。
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