大海原に突如現れる岩、岩、岩! 名前の由来は仏軍艦、「ベヨネース列岩」とは何か

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大海原に突如現れる岩、岩、岩! 名前の由来は仏軍艦、「ベヨネース列岩」とは何か

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大島とおる

離島ライター

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伊豆諸島最南端の有人島「青ヶ島」からさらに南へ約65km行ったところに、海面から顔を出した岩礁「ベヨネース列岩」があります。フリーライターの大島とおるさんが解説します。

東京都に属する謎多き島の数々

 東京都の離島には、どう見ても上陸できない島がいくつかあります。例えば、2006(平成18)年の映画『硫黄島からの手紙』でおなじみの硫黄島は自衛隊の基地が置かれており、基地関係者以外は基本的に上陸できません。日本最東端の島として知られる南鳥島も同様です。

 南硫黄島も全島が天然記念物に指定されているため、こちらも勝手に上陸できません。なお2017年に学術調査が実施され、翌年にNHKスペシャル『秘島探検 東京ロストワールド』で放送され話題になりました。

 南硫黄島のレアさを証明するエピソードとして、2004年に民間のプレジャーボートが座礁し、救助されるまで島に上陸していたことがありました。

「青ヶ島」からさらに南へ約65km

 とにかくお金をいくら積んでもいいから、レアで交通手段のない東京都の島に上陸してみたい――そんなことを考えたときに、現実的に実行できるかもしれないのが「ベヨネース列岩」です。まぁ難易度は極めて高く、わざわざ上陸しなくてもいいのですが……

 東京都の島にもかかわらず、なんとも異国情緒のある名前を持つ「ベヨネース列岩」。島とはいいますが、正確には岩礁群です。

 その位置は伊豆諸島の南で、東京から約400km。最南端の有人島「青ヶ島」からさらに南へ約65kmの大海原にあります。海面から顔を出しているのは三つの大きな岩といくつかの小さな岩のみです。

ベヨネース列岩(画像:海上保安庁)



 あまりも小さな岩のため、発見されたのは1846年とさほど昔ではありません。名前は発見したフランス海軍の軍艦「J・R・バイヨネーズ」に由来しています。

 フランス語の発音では「ベヨネーズ」の表記が近いのですが、どういうわけか国土地理院や気象庁では「ベヨネース」という表記となっています。

磯釣りの愛好家が目指す場所

 このベヨネース列岩は、海底火山の一部が海上に顔を出したものです。付近にある明神礁(みょうじんしょう)とは同じ火山の一部であることが、調査によって明らかになっています。

 明神礁は活発な火山活動で知られ、ベヨネース列岩付近での火山活動が何度も目撃されています。1946(昭和21)年には活発な噴火活動が見られ、一時は新島が生まれましたがすぐに海中に没しています。

 その後も火山活動は何度も繰り返されていますが、いまだに新島が生まれるには至っていません。

 この海底に潜む火山が円すい形の単独峰であることが確認されたのは、1989(平成元)年のことです。

ベヨネース列岩付近の海底地形図(画像:海上保安庁)



 火山活動は付近を航行する船にとって危険ということもあり、ベヨネース列岩は上陸の価値がある離島でもなく、実のところあまり注目をされてきませんでした。

 ところが世の中にはこの島に向かって、船出する人たちがいます。それは磯釣りの愛好家たちです。

 ベヨネース列岩の岩場は大物が狙える「釣りの名所」として、彼らが一度は目指したい島(岩)となっているのです。

 このあたりで釣り糸を垂らせば、ほぼ間違いなく大物がかかると言われていることからも、その魅力はやまないのでしょう。

かつてはアクセスが比較的容易だった

 ただ、ここまで到達するにはお金がかかります。考えられる手段は、八丈島で漁船をチャーターすることですが、燃料代を含めて100万円はくだらない金額になります。

 かつては、もう少し安くいく方法がありました。熱海港を拠点にしていた遊漁船「スターマリン」です。

 スターマリンは日本で唯一の遊漁船にもかかわらず、「近海航行許可」を取得していました。近海航行許可とは船舶安全法で定められた、その船が航行してよい区域のことです。

 この法律では許可される区域の広さが狭い順に、

平水区域 → 沿海区域 → 近海区域 → 遠洋区域

となります。

「近海区域」の航行区域(画像:日本小型船舶検査機構)



 平水区域は、東京湾の一部や大坂湾などの狭い範囲。逆に遠洋区域は、すべての海域となります。スターマリンが航行許可を得ていた近海区域は

「東は東経175度、南は南緯11度、西は東経94度、北は北緯63度の線により囲まれた水域」

というもの。

 これは、おおむねマラッカ海峡からカムチャッカ半島までを含んでいます。もちろん、そこまで遠出はしていなかったようです。

唯一の手段は自前でチャーターも危険

 そんなスターマリンですが、その迫力ゆえにテレビ東京系列の釣り番組『ザ・フィッシング』にもよく登場していました。

 3泊4日の船旅で約40万円、ベヨネース列岩での釣りが楽しめました。しかし、あまりに高額だったためか、残念ながら今は営業していません。

 加えてスターマリンは、あくまで釣りを行う船です。ベヨネース列岩に上陸しようとすれば、やっぱり自前でチャーターしかないのかもしれません。

ベヨネース列岩付近の地質構造図(画像:海上保安庁)

 実際、釣り人のなかには大物を狙ってチャーターした漁船で上陸を試みる人も実在します。どう見ても危険極まりないのですが、近くまで船を寄せてもらい、後はゴムボートで近づくのでしょう。

 それでも上陸はよっぽど波が穏やかな日にしかできません。わずかにある石のゴロゴロした浜に上陸しても、波にさらわれたら言うまでもなくジ・エンドです。

島になりそうだった過去も

 旅行や冒険の好きの人には、容易に到達できない場所に足を踏み入れることを目指す人も少なくありません。

 その点、ベヨネース列岩はお金さえ用意できれば、近くぐらいなら行けるかもしれないため、ハードルはやや低めでしょうし、何より「ベヨネース列岩にいったんですよ」なんて、一生使える鉄板の話題になるでしょう。

ベヨネース列岩(画像:海上保安庁)



 さて前述の通り、ベヨネース列岩は岩ですが、かつてこれを島に変えようという動きが出たこともあります。

 東京都議会予算特別委員会の質疑で2012年3月に提案されたもので、都民から募って個々の島の名前をつけることが提案されました。当時の石原慎太郎都知事はこの提案に賛意を示しましたが、まだ実現には至っていません。

 そんなベヨネース列岩ですが前述の通り周囲は絶海で大変危険ですので、上陸はもちろんのこと、くれぐれもうかつに近づかないようにしてください。

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