3000円以下で愉しむ、銀座名店の江戸前技光るちらし寿司|江戸グルメ(4)
決め手は「シャリの美味しさと具材の相性にあり」「江戸前寿司」の本家本元で、寿司店の数がとりわけ多い東京。なかでも、日本一の寿司激戦区といわれているのが銀座です。数多の食通やセレブが本物を求めてやって来るこの地で、「名店」と呼ばれる寿司屋に多い江戸前寿司の店に行くのは、多くの人たちが敷居が高いと感じるのではないでしょうか。 寿司激戦区の銀座の寿司名店には江戸前寿司が多い。写真はイメージ(2018年12月、宮崎佳代子撮影) しかし、江戸前寿司の名店にも「ちらし寿司」という、にぎりよりも手頃な価格のメニューがあります。「ばらちらし」や「吹き寄せちらし」が挙げられます。ばらちらしは、お土産など持ち帰りもできるメニューとしても人気です。銀座名店であれば、にぎり寿司よりグッとお手頃なメニューにして、その店の実力を知る目安になるものでもあります。 そうは言っても、5000円もちらし寿司に払うなら、ランチでにぎりを食べた方が、と思う人も多いことでしょう。そこで、江戸前寿司の銀座名店で3000円以下で食べられるちらし寿司を紹介します。ちなみに、「江戸前寿司」とは何かについて、当サイトの別記事「今さら聞けない『江戸前寿司』の意味、海鮮丼とちらし寿司の違いとは?」で紹介しています。そちらを読むと江戸前寿司のちらしの粋について、よりわかると思います。 最初は、銀座6丁目にある「鮨 さゝ木」のばらちらしです。店主で寿司職人の佐々木博章さんは3代目。勝どきから銀座に店を移転して8年になります。 「鮨 さゝ木」の店内。カウンターに立つのが、同店3代目の佐々木博章さん(2018年12月、宮崎佳代子撮影)。 同店のちらし寿司のメニューに、「ばらちらし」と「特製ばらちらし」があります。 ばらちらしは2000円(税込)というお手頃価格。赤い塗りの丼との色合いも考慮した彩の美しい一品です。ネタは漬けにしたマグロとカツオ、酢で〆たコハダ、煮切りの塗られたイカ、蒸しダコ、イクラ。そして出し巻き玉子。常時7〜8種類の具材を載せるそうです。 ひと口食べた瞬間、まず固めのシャリの食感の良さと美味しさが際立ちました。次に、具材それぞれの味と旨みが絶妙なバランス感覚であること。キューブ状にカットした出し巻き玉子も彩り、食感、味わいのアクセントになっています。シャリの上には、刻んだ干瓢(かんぴょう)とガリをちらし、五味が複雑に絡みあって抜群のハーモニーを奏でています。 ばらちらし 2000円(税込)。お椀付き(2018年12月、宮崎佳代子撮影)。 ひとつの丼のなかに、江戸前寿司らしい仕事が多彩に織り込まれていると感じましたが、その決め手は意外にも「シャリですね」と佐々木さんは話します。 「シャリは脇役に見られがちですが、寿司に限らず、ご飯(米)が美味しいというのは、米が国の財政にもなりえたご飯信仰の強い日本人にとって、料理の絶対的美味しさの条件なんです。ちらしはシャリの分量が多いですから、味わいの決め手としてかなりこだわっています」(佐々木さん)。 確かに最初に口の中で際立ったのはシャリの味わい。それが具材の味を引き立て、多層的な旨みを醸し出すという緻密な美味しさでした。 「鮨 さゝ木」では、ばらちらしのワンランク上の特製ばらちらし(5000円、税込)にも、刺身は使っておらず、とことん、江戸前仕事にこだわる正統派。「ちらしは私にとって、派手さがない、手間がかかる、利益が取れない、と悪い要素3拍子です」と言って笑います。ゆえに客はコスパの良さを感じ、その丁寧な仕事ぶりに次はにぎりを、という気持ちにさせられるのかもしれません。 江戸前の合わせ技、名店「青木」のばらちらし江戸前の合わせ技、名店「青木」のばらちらし 2つ目の店は、名高き「銀座 鮨青木」です。店主の青木利勝さんは2代目。急逝した父である先代の跡を継いだのは、青木さんが29歳の時。寿司激選区の銀座で、若い頃から店主として鍛えられてきた腕の持ち主です。 「銀座 鮨青木」の店内と店主の青木利勝さん。青木さんは日本体育大学卒業で、学生時代は柔道の選手だったとのこと(2018年12月、宮崎佳代子撮影)。「青木」には、ばらちらしと吹き寄せちらしがあります。 創業以来の定番メニューがばらちらし(3000円、税抜)。そのトッピングは、大きな煮ハマグリと車海老。薄く切った玉(玉子焼き)に、大振りの煮ダコ。シャリを覆う淡いオレンジ色のおぼろが上品な色合いで、真上から見る彩りが最も美しく、下に何が隠れているのか、ワクワクするちらしでした。 吸物付きのばらちらし 3000円(税・サ別)。仕上げにツメをかける。夏場はハマグリにかわってアワビを使用(2018年12月、宮崎佳代子撮影)。 何から手をつけるか迷い、まずはツメのかかった大玉の煮はまぐり(茨城県鹿嶋灘産)に箸を伸ばしました。にわかに滲み出る貝の旨みとコクのあるツメとの相性がいい塩梅でご飯を誘い、おぼろと共にすくうと、酢れんこん、蒸し穴子、椎茸にかんぴょうの存在がつまびらかに。さまざまな食感が楽しく、口中でコハダに気づき、華やかな味わいに感服。 しかし、ここで感動するのは早かったと言わざるを得ない、玉のレベル高さ。ふんわりとしつつ密度ある歯触り、ふわっと風味が充満して、玉でここまで感動したことがあったかと思ったほど。聞くと、芝海老のすり身入りで、低温で1時間かけてじっくり焼き上げるとのこと。おぼろにも芝海老が使われていて、3つの海老の味わいの競演も見事です。 さらに、極めつきにタコの桜煮。厚切りながら驚くほど柔らかく、さざ波切りの切れ目から口の中であっさりとほどけていきました。 青木さんは、「魚は毎朝豊洲に行って、自分の目で見て、必ず触って確かめます。魚の質にブレのない仕入れと、手を抜かない仕込みがモットーです」と語ります。江戸前寿司にして革新的な一面も持つ「青木」ですが、ばらちらしはクラシカルな味わいを愉しめます。ひとつひとつの具材に手間暇かけた仕事の結実が見事で、まさに、柔道選手だったという青木さんの「合わせ技一本」の逸品でした。 この道46年の寿司職人が腕を鳴らす、吹き寄せちらしこの道46年の寿司職人が腕を鳴らす、吹き寄せちらし 最後に紹介するのは、銀座7丁目にある正統派江戸前寿司の名店「鮨 新太郎」です。店主の斎條真一さんは、店を構えて46年のベテラン寿司職人。神保町で開業し、銀座に1999(平成11)年に移転しました。 敷居をまたぐと、店先に名前の書かれた木札がずらりと並んでいるのが目に入りました。 「新太郎」の店先に飾られている、仲卸業者の名前の書かれた木札(2018年12月、宮崎佳代子撮影)。 これは仲卸業者の名前とのこと。同業者が見れば、「新太郎」がどのレベルの魚を仕入れているのかが、一目瞭然にしてわかるそうです。それを店に堂々と飾っているのは、仕入れ先に自信があることの裏付け。昔は同様に店先に飾っていた寿司屋が多かったそうですが、今はほとんどなくなったと斎條さんは話します。 「新太郎」は、銀座でレベルの高い江戸前寿司をリーズナブルな価格で食べられることでも人気です。「吹き寄せちらし」も1500円(税・サ10%別)という手頃な価格。持ち帰りも可能です。 こちらもかなり具だくさん。この日は、煮穴子に海老、タコは番茶で茹でたあと、3時間蒸しあげるそうです。イクラに煮切りに漬け込んだマグロ、平貝、白身はヒラメ。玉に椎茸、かんぴょう、三つ葉、そしてたくあん。おぼろも入っています。 具材が11〜12種類入る吹き寄せちらし 1500円(税・サ別)。お椀付き(2018年12月、宮崎佳代子撮影) どれも細やかな江戸前仕事で具材の旨みをしっかりと引き出して、具材それぞれの存在の主張をシャリがいい緩和役になって全体を調和させています。煮穴子の風味が際立ち、三つ葉のシャキシャキとした食感とほのかな苦味、小さめに刻んだ玉やたくあんが、ネタとの食感と味わいのコントラストを描き、リズミカルな美味しさに箸が進みます。この価格でこれだけたくさんの味を愉しめるちらしというのも、そうないのではないでしょうか。 斎條さんは、魚の質と江戸前の流儀にとことんこだわる職人気質。気難しいのかと思えば、常連だった開高 健氏を偲ぶ会を30年続ける人情派で、「お客様に喜んでもらう」ことに心血を注ぐサービス精神の旺盛さをも併せ持ちます。「新太郎」の吹き寄せちらしは、「粋」なベテラン寿司職人が織りなす江戸前の「粋」でした。 「鮨 新太郎」の店内と斎條真一さん。撮影時、「私が座ってる姿もいいんですよ」と言ってニッコリ(2018年12月、宮崎佳代子撮影) ばらちらしは持ち帰り可能なため、銀座では歌舞伎界や花柳界から注文を多く受けたそうです。醤油が着物に垂れる心配がなく、時間が経っても美味しく食べられるため、幕間や空き時間にちょっとずつ食べられる。皆で分けることもできる。一見地味に見える料理ではあるものの、歌舞伎界や花柳界からも愛されてきた江戸グルメなのです。 <紹介の寿司屋> ●鮨 さゝ木 ・住所:東京都中央区銀座6丁目5-13 美術館ビル8F ・アクセス:各線「銀座駅」B3番出口から徒歩約3分 ・営業時間:月曜~土曜 11:30~13:30(L.O.)、18:00~ ・定休日:日曜、年末年始(2019年は1月6日まで休み) ・料金:昼/ばらちらし2000円、特製ばらちらし5000円、おまかせ(にぎり、以下同)3000円~ 夜/おまかせ20000円~ ※価格は全て税込 ・予約・問い合わせ:03-3571-1261 ●銀座 鮨青木 ・住所:東京都中央区銀座6丁目7-4 銀座タカハシビル2F ・アクセス:各線「銀座駅」B3番出口から徒歩約2分 ・営業時間:12:00~13:30(L.O.)、17:00~21:30(L.O.) ・定休日:12月31日、1月1日 ・料金:昼/ばらちらし3000円(冬季のみ要予約で持ち帰りが可能)、吹き寄せちらし5000円~、おまかせ5000円~。(土日)15000円~。※ランチメニューは平日のみ数量限定 夜/おまかせ15000円~ ※価格は全て税・サ10%別。予約がベター ・予約・問い合わせ:03-3289-1044 ●鮨 新太郎 ・住所:東京都中央区銀座7丁目5-4 並木通り毛利ビルB1F ・アクセス:各線「銀座駅」B3番出口から徒歩約5分 ・営業時間:月曜〜土曜 12:00~13:30(L.O.)、17:00~21:00(L.O.) ・定休日:日曜、年末年始(2019年は1月6日まで休み) ※祝日は前日までの予約にて営業 ・料金:昼/吹き寄せちらし1500円、おまかせ3000円~ 夜/おまかせ8000円~ ※価格は全て税・サ10%別。吹き寄せちらしは来店の30分前に要予約。 ・予約・問い合わせ:03-3574-9936
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