日曜ドラマ「美食探偵」も人気 東村アキコの作品にほぼ必ず「東京タワー」が描かれるワケ

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日曜ドラマ「美食探偵」も人気 東村アキコの作品にほぼ必ず「東京タワー」が描かれるワケ

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増淵敏之

法政大学大学院政策創造研究科教授

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たびたびドラマ化されている東村アキコの漫画作品。作中にはよく東京タワーやスカイツリーが描かれています。そこには、どのような意味が読み取れるでしょうか。法政大学大学院教授の増淵敏之さんが解説します。

東京の象徴としての建物・塔

 ここ数年、漫画家・東村アキコ作品が相次いでテレビドラマ化されています。

日本テレビ系で放送中の「美食探偵 明智五郎」番組サイト(画像:日本テレビ)



 テレビドラマや実写映画は近年、漫画原作のものが増えたと言われていて、オリジナルの作品が面白い脚本に巡り合えないのではないかという危惧も持たれているようです。

 しかし筆者(増淵敏之。法政大学大学院教授)は、単純に漫画作品のなかに映像化したくなるものが増えているということなのだろうと解釈しています。

 2020年5月現在、日本テレビ系で日曜日の夜22時30分から放送しているドラマ「美食探偵 明智五郎」も東村アキコ原作です。この作品はコミック誌「ココハナ」(集英社)に2015年に読みきりで掲載され、その後、連載化されました。「グルメ + 探偵もの」という切り口が新鮮で、単行本もすでに6巻刊行されています。

 主人公の探偵、明智五郎は東京・表参道で「江戸川探偵事務所」を営みながら、「東京美食倶楽部」も主宰しています。

 つまり彼は探偵でありながら、美食家でもあるのです。美食に対する決めせりふは「悪くない」「最後の晩餐の候補に入れておこう」です。

 相棒は明智の探偵事務所の向かいでワゴン販売の弁当屋「イチゴ・デリ」を営む小林苺(いちご)です。彼女の作る弁当を明智は高く評価しており、ただツケでそれを買うという癖があり、彼女は迷惑がっています。しかし明智が彼女を「小林1号」と呼び、時には調査の助手も務めたりもします。

 この設定は、江戸川乱歩の明智小五郎ものを踏襲しています。「名探偵コナン」もそうですが、江戸川乱歩、恐るべしです。現代でも乱歩作品はいまだに大きな影響を持っていることが理解できると思います。やはり日本では探偵ものの古典といえるべき存在になっているのでしょう。

「タラレバ」も「偽装不倫」も

 さて、テレビドラマの方は明智に中村倫也、苺に小芝風花という旬の役者が演じています。

 テレビドラマもロケ地は東京とその周辺、ただ明智の探偵事務所は原作と違って恵比寿になっています。夜の東京タワーを背景にしたシーンもあり、「美食探偵 明智五郎」は原作もテレビドラマも東京を描いた作品といえるでしょう。

ドラマ化もされた東村アキコ原作「東京タラレバ娘」第1巻(画像:(C)東村アキコ/講談社)



 振り返ってみると東村アキコの作品でテレビドラマ化されたものには、東京が舞台になっているものが多いかと思います。そこで注目してみたいのが彼女の作品に登場する東京をイメージさせるアイコンです。

 例えば2017年に吉高由里子主演で、日本テレビでドラマ化された「東京タラレバ娘」が記憶に残っています。

 この作品は「Kiss」(講談社)に2014年から2017年まで連載された同名漫画が原作で、単行本も9巻が刊行され、漫画もヒットしました。

 2020年に東京オリンピックが開催されるとき、オリンピックをひとりで見たくないというアラサー、アラフォーの独身女性たちの悪戦苦闘を描いた物語でした。その後、「東京タラレバ娘シーズン2」が「Kiss」(講談社)に連載中です。

 マンガの「東京タラレバ娘」では東京のアイコンとして東京タワー(港区芝公園)を使っています。単行本の表紙の大半には東京タワーが描かれていますし、タイトルロゴの「東京」の「東」という文字のデザインも東京タワーを想起させるものになっています。

 テレビドラマでも番組タイトルにこのロゴが使われています。このロゴはまさに不変の東京のアイコン、東京タワーの存在感を象徴しています。

 また2019年にテレビドラマ化された「偽装不倫」は杏が主演を演じています。原作は2017年に漫画アプリ「XOY」に連載され、途中で「LINEマンガ」に移り、2019年に終了しました。

都市イメージをつくる実体・構造・意味

 この作品は派遣社員が婚活疲れで、ひとり旅をしようとするところから始まります。そしてその飛行機のなかで出会った男性に、うっかりミスで自分は既婚者だと告げてしまいます。

 原作では出会いのきっかけになる飛行機は韓国・ソウル行きだったのですが、テレビドラマでは福岡行きになっていて、東京が舞台の中心になっています。単行本の1巻の表紙には東京スカイツリー(墨田区押上)が描かれており、テレビドラマのキービジュアルにはキャストの背景にやはり東京タワーが映り込んでいます。

 都市のイメージ形成に関しての古典的な研究に都市計画家ケヴィン・リンチの「都市のイメージ」(1960年)があります。彼はそこで人々が周辺環境に対して抱くイメージそのものを、

・アイデンティティー(実体)
・ストラクチャー(構造)
・ミーニング(意味)

という三つの成分に分けています。そしてミーニングを除く以外の2成分に焦点を当てて分析しています。

 すなわち住民が都市の環境に抱くイメージを、

・パス(街路)
・エッジ(境界線)
・ノード(結節点)
・ディストリクト(地域)
・ランドマーク(目印)

の五つの要素に分類し、その特徴と相互関係を分析、都市デザインに「イメージアビリティ(都市のイメージのわかりやすさ)」という独特な概念を提示しました。

 もう少し具体的にいうと、パスは街路、散歩道、運河、鉄道など、エッジは海岸、鉄道線路の切り通し、開発地の緑、壁など、ノードは駅やバスセンター、ロータリーなど、ディストリクトは中心市街地、住宅地など。そしてランドマークは、人々が外から見る目標物といえばいいでしょうか。

東京を象徴する建物のひとつ、東京タワー(画像:写真AC)



 やはり東京のランドマークとしては、東京タワーやスカイツリーが代表なのでしょう。パリがエッフェル塔、上海が東方明珠電視塔というように天空に向かって屹立(きつりつ)するタワーは印象的ですし、魅力的でもあります。大阪の通天閣や札幌のテレビ塔も同様かもしれません。

人々を都市へといざなう入り口の役割

 塔は確かに目印にもなります。このような塔が都市のイメージのアイコンになっている事例は決して少なくはないでしょう。

「美食探偵 明智五郎」では東京が舞台になっているものの、単行本の表紙ではグルメが中心に描かれています。しかし「ココハナ」2016年3月号には明智のバックには銀座の服部時計店が描かれています。やはり明智小五郎を意識してなのか、少々、レトロな雰囲気を醸し出しています。

 これまでも数々のコンテンツ作品に登場しているこの建物も、塔でこそないですが、銀座のランドマークといえるでしょう。ほとんどの人が銀座といえば服部時計店の建物をイメージするのではないでしょうか。

 リンチのいう「イメージアビリティ(都市のイメージのわかりやすさ)」が、東村アキコの作品にも反映され、東京のランドマークである東京タワーやスカイツリーがアイコンになっているように思います。

2012年5月に開業した東京スカイツリー(画像:写真AC)



 特に都市の魅力度において都市イメージのわかりやすさは重要です。東京といえば東京タワーやスカイツリー、パリでいえばエッフェル塔、ロンドンでいえばロンドン塔、ニューヨークでいえば摩天楼がその都市のイメージを象徴するアイコンになっています。

 それらが多くの人々をその都市に誘う入り口になっていくのです。

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