自称「イケてる会社員」は皆持っていた 電子手帳とシステム手帳の懐かしき思い出

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自称「イケてる会社員」は皆持っていた 電子手帳とシステム手帳の懐かしき思い出

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昼間たかし

ルポライター、著作家

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1980年代から1990年代にかけて、手帳にこだわるのが「仕事がデキる」風潮がありました。そんな時代について、ルポライターの昼間たかしさんが解説します。

手帳へのこだわりが「仕事がデキる」な時代

 携帯電話各社による、5Gの展開が始まっています。大容量のデータを高速で通信できる5Gは、これからの通信端末をぐっと進化させる期待の技術です。

 都内では、基地局の設置が既に始まっています。設置はまだ始まったばかりで、5Gを体感できるエリアは少ないのですが、いち早く基地局が増えそうです。こういうとき、都会に住んでいてよかったと思うばかりです。

 さて、そんな最新技術に期待しながらスマートフォン(以下スマホ)を手にしていると、しみじみ考えることがあります。スマホの普及以前は、さまざまなアイテムをポケットやカバンに詰め込んでいたものだと。

 当時は携帯音楽プレーヤーや地図帳、手帳がなくては仕事も遊びも成り立ちませんでした。それが今やひとつの機器に集約されており、時間の経過を感じます。

1993年に発売された、シャープの電子手帳「ザウルス」第1号機「PI-3000」(画像:シャープ)



 かつては、手帳や筆記用具にこだわるのが「仕事がデキる」ことの証しでした。そんな時代を覚えてる人は、いったいどのくらいいるのでしょうか。

触れ込みは「スピルバーグが愛用」

 まだ誰も携帯電話すら持っていなかった、1984(昭和59)年。これまでとはまったく違うスタイルの手帳が日本に登場しました。

 英ファイロファックス社の「バインダー手帳」です。これは1920(大正9)年にイギリスの将校が考案し、軍人や牧師の間に「携帯用事務所」として愛用されていたものです。

バインダー手帳のイメージ(画像:写真AC)



 映画監督のウディ・アレンやスティーブン・スピルバーグが愛用しているという触れ込みで登場したバインダー手帳は、それまでの手帳とまったく異なっていました(実のところ、日本でも似たようなスタイルの手帳が考案されていましたが、まったく話題にはなりませんでした)。

 スケジュール帳や日記、住所録、メモ用紙など、「リフィル」と呼ばれる自分の好きな用紙を購入してカスタマイズして使えたのです。

 この先進的な手帳は、瞬く間に人気を呼びます。1986(昭和61)年時点で、日本国内で販売されているリフィルの数は140種類に及びました。

ヘビ革を使った高級手帳も登場

 しかしバインダー手帳は決して安いものではなく、価格は次のとおりでした。

・スタンダード:3万6000円
・レディース:2万8000円
・トラベル:2万4000円

 さらに、15万円もするヘビやトカゲ革の高級バージョンまでありました。リフィルのほうも用紙が30枚ほどで500円と結構な値段です。それにもかかわらず、バインダー手帳を持っていれば仕事ができる、かつ、「分厚いほど仕事ができる感じがする」と飛ぶように売れたのです。

 バインダー手帳は次第に「システム手帳」という呼称に変わり、国内外の各社がより使いやすく、情報収集に向いている新製品を次々と投入し、競い合うようになります。

1986年に発表された、ノンフィクション作家・山根一眞による『スーパー手帳の仕事術』(画像:ダイヤモンド社)

 1988年頃になると、市場に投入されているリフィルの数は1000種類はくだらないという状況が生まれました。接待ゴルフの記録のためにゴルフスコアのリフィルを買い求めたり、さらにはアラーム付き時計なんてのもあったりしました。

 果たしてそれで本当に情報整理できていたのかは、いまだ謎です。

1988年に定番化

 こうして誰もがシステム手帳を持ち歩くようになると、当然差がつきにくくなります。ならばと、「イケてるビジネスマン」を自称する人たちは新たなアイテムに食いつきます。

 例えば、万年筆。なぜか当時のビジネスマンの間では、「モンブランの万年筆がシステム手帳と抜群の相性」と重宝されました。モンブランの万年筆が1本は持っておきたい逸品なのは間違いありませんが、システム手帳の愛称とはいったい……。

 システム手帳と万年筆。それに使い捨てカメラを手に、目に入った気になるものは撮影して現像したらシステム手帳に保存。ここぞというときには、システム手帳に整理された情報をもとにワープロで企画書を作成。

 もちろん、写真はイメージスキャナーで取り込んで活用するという具合。そう、企画書を手に取引先を訪問するときは、まだ珍しかったプロテックスのチタン製アタッシェケースがベスト。いくらバブル直前の景気のよい時代とはいえ、どれだけの投資が必要なのかーーすべてを活用していた人の話はあまり聞きません。

 ところが、持っているだけで「仕事がデキる」アイテムは移り変わりが早いもの。システム手帳が定番になった1988年には、シャープの電子手帳が発売から1年で100万台を突破し、話題になります。

1987年に発売されたシャープの電子手帳「PA-7000」(画像:シャープ)



 このとき、人気だったのはシャープの「PA-7000」です。330人分の住所録を漢字で記憶。別売りのカードを購入すれば、各種の事典なども使用できるというものでした。

 シャープに続いてカシオが投入したDK-2000も人気を呼び、いよいよ時代は次のステージ……システム手帳か、電子手帳かに移行していったのです。

時代が生んだカオス

 この後、電子手帳はPDA(携帯情報端末)と発展。1993(平成5)年にシャープが発売した「ザウルス」が覇権を握りつつ、各社がにぎわう時代になっていくわけです。

 発展途上だった1990年代前半の状況は、システム手帳のリフィルよりもカオス。情報を読み上げる電子手帳が発売されて大ニュースになりますが、それだけではない、変わり種も登場します。

 ソニーのA4用紙24枚分のデータを手書き入力し、ファクス送信もできる「PTC-500」、エプソンの世界初の光学式英単語翻訳機「EPSON PRO-1000」(印刷された文字を読み取り翻訳)、カシオの4型液晶テレビ付きポータブルビデオ「VF-7000」(なんと重さ4.2kg)なども、こうしたカオスから生まれたものでしょう。

1990年に発売された、ソニーの「PTC-500」(画像:シャープ)



 新技術の発展はさまざまなアイデアを誘引し、カオスの中から新時代を生み出していくもの。これから先も、どんなアイテムが生まれていくのか楽しみです。

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