個性派マスターのコーヒーと音楽 「カファブンナ」|老舗レトロ喫茶の名物探訪(5)

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個性派マスターのコーヒーと音楽 「カファブンナ」|老舗レトロ喫茶の名物探訪(5)

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商業施設が軒を連ねる六本木の喧騒とは対照的に、落ち着きと温もりあふれる空間が広がる純喫茶「かうひいや カファブンナ」。その名物は、コーヒーと音楽、そしてマスターの能勢さんそのものといえるようです。

深煎りに魅せられて創業、一番のこだわりはコーヒーの美味しさ

 六本木の純喫茶「かうひいや カファブンナ」を初めて訪れた時、印象に残ったことがふたつあります。ひとつは、オフィスや商業施設が軒を連ねるビル街の味気なさや喧騒とは裏腹に、落ち着きと温もり溢れる純喫茶がこんな駅近にあるということ。もうひとつは、マスターの能勢顯男(あきお)さんの人間味溢れる人柄でした。

カファブンナの昭和レトロな店内(2018年10月2日、宮崎佳代子撮影)。



この道46年のベテランマスター、能勢さん(2018年10月2日、宮崎佳代子撮影)。

「僕はもう82歳になるけど、100mを19秒で走れますよ。身のこなしも早いしね」

 そう言って手元にあるものをあちらこちらへ素早く移動させてみせる様子に、100mをダッシュする能勢さんの姿が浮かんできて、ダンディさとのギャップに思わず笑ってしまいました。

 筆者がケーキを注文した際、切り分けながら「綺麗に切れなかったんでサービスします。こんな形のもので、お代をもらうわけにいかない」と言うも、目の前に置かれたケーキは、端の方が少し欠けているだけ。大都会の真ん中に、こんな気風の良い江戸っ子気質の喫茶店経営者がいると知って、ちょっと嬉しくなりました。

 東京で生まれ育った能勢さんが「たまたまいい物件があった」ことから六本木にカファブンナを創業したのは1972(昭和42)年12月のこと。霞が関のコーヒー専門店で出会った深煎りコーヒーの美味しさに目覚め、豆屋さんでコーヒーの淹れ方を1年間修行した後に仲間とともに開業しました。

 以来、46年間同じ豆を使っていて、店一番のこだわりは「ネルドリップで淹れるコーヒーの味」だといいます。筆者が訪れた際、コーヒーの味見をして「今日の豆は思うような味が出ない」と不満げ。そのあと、淹れ直しては味見をする様子が印象的でした。

マスターこだわりの深煎りブレンドコーヒー 650円。中煎りや浅煎りもある(2018年10月2日、宮崎佳代子撮影)。

 メニューは、コーヒー、紅茶、ココア、そしてケーキとまさに純喫茶の王道。ケーキは能勢さんのお手製で、店の常連だったフレンチのシェフに教わったというムースが中心です。完成前のムースを冷蔵庫から取り出し、慎重ながら慣れた手つきで仕上げていく。それは、パティシエが作るような派手なケーキではないけれど、甘さ控えめで手作りの優しい味わいでした。

慎重に自家製ムースを仕上げる(2018年10月2日、宮崎佳代子撮影)。
写真のケーキはショコラムース 550円。飲み物とセットで注文すると100円引き(2018年10月2日、宮崎佳代子撮影)。

江戸っ子マスター82歳が密かに抱く野心

「僕はね、今が人生のなかで一番楽しい。この年になっても、いろんな人と話ができる環境にある人は少ないとわかって、より仕事に生きがいが感じられてね」

 その言葉通り、こんなにも楽しそうに働いている喫茶店のマスターを見たのは、正直初めてでした。今後の夢を聞くと、半ば真剣に「音楽でスカウトされることだね。誰かスカウトしてくれないかと密かに待ってるんだよ」との答え。

 能勢さんは大の音楽好きで、クラシック、シャンソン、映画音楽に精通しています。5年ほど前から1950〜70年代を中心とした映画音楽の鑑賞会を店で週1回行うようになりました。選曲した17〜20曲をひとつずつ、あくまで「音楽」について解説します。手書きのプログラムは、楽曲のみならず作詞や作曲者などまで綺麗な英字でしたためられていました。それを毎週書くという熱の入れよう。

能勢さん手書きの映画音楽鑑賞会のプログラム。毎週水曜に定期開催している(2018年10月2日、宮崎佳代子撮影)。



 店内には「メロディラインが深い」という能勢さん選曲の洋楽がかかっていて、それが深煎りコーヒーの苦味やレトロな佇(たたず)まいとなんとも言えない調和で、心地よい大人時間に誘ってくれます。

 こういった粋な純喫茶に、ふらりひとりで来て気分転換する。それが「大人の女」なのかもしれない。ジーンズで来るのはご法度。この店には似合わない……。

 そんな考えに耽(ふけ)っていると、筆者が退屈していると思ったのか、能勢さんが話しかけてきました。

「僕は東京生まれの東京育ちだからね、最近ちょっと不快に思ったのが、大江戸線の車内アナウンスに関西弁のアクセントで『地下一階』と言われた時。オイ、こともあろうにここは東京、大江戸線だぞ! って言いたくなったね」と、ひとり漫才のような語り口調。

「この店の名物はコーヒーと音楽」と能勢さんは言います。それに深く賛同しつつ、江戸っ子気質のマスターそのものも加えたいと思ったのでした。

老舗感漂う店の外観。店名は、コーヒーの語源になったといわれるエチオピアの地名「カファ」(諸説あり)と、同国の言語で「豆」を意味する「ブンナ」をつなげたもの(2018年10月2日、宮崎佳代子撮影)。

●かうひいや カファブンナ
・住所:東京都港区六本木7-17-20 明泉ビル 2F
・アクセス:日比谷線「六本木駅」2番出口から徒歩約2分、都営地下鉄大江戸線「六本木駅」4b出口から徒歩約4分
・営業時間:月〜金曜 12:00〜21:00、土曜 13:30〜21:00、日祝日 13:30〜19:00
・映画音楽鑑賞会:毎週水曜 14:00〜16:00 ※奇数月第3火曜の18:30〜20:30にも開催。

※掲載の情報は全て2018年11月時点の情報です。

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