たけしアートとこだわりの食器「壹眞珈琲店」|老舗レトロ喫茶の名物探訪(6)
神保町に初号店を開業後、銀座に進出してさらに3店舗を展開する壹眞(かずま)珈琲店。それぞれにレトロで落ち着いた雰囲気の店内は多様なアートで彩られ、オーナーこだわりのカップで飲むコーヒーの味も格別です。食器に並々ならぬこだわり、五感を潤すコーヒー ドイツの名窯「マイセン」の白いカップに映える漆黒のコーヒー。カップの縁の波打つようなデザインと側面のレリーフのエレガントさに心奪われながら、口をつけたコーヒーの美味しさに思わず嘆息しました。まさに五感で楽しめる一杯を提供してくれたのは、「壹眞(かずま)珈琲店」の晴海通り店でした。 晴海通り店で使用しているマイセンの「ホワイトリリース」シリーズのカップ(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影) 筆者が初めて訪れた壹眞は、都内に4店舗あるうちの初号店、神保町店でした。神保町の駅界隈の喫茶店は、平日は学生やサラリーマンなどが話に花を咲かせて賑やかなことが多いですが、同店はそれとは一線を画す落ち着いた雰囲気。 覗き込んだ店内に吸い込まれるように席に着き、カウンターに目を向けると、壁際にたくさんのカップが並んでいました。それらは、ウェッジウッドやジノリほか日本でもよく知られる欧州の老舗ブランドの数々。 「開業当時(1983年)の神保町はスポーツ用具の店が多かったので、学生さん以外にも若い方がたくさん訪れる地でした。その一方で、本を探しに来る年配の方も多く、そういった方々にゆっくりと落ち着いて美味しいお茶を飲んでいただきたい、との女性オーナーの想いからカップにもこだわりました。当時の喫茶店で、世界中の国々のカップを集めて実際に店で使用しているというのは珍しかったようです」と総支配人の岩田 悟さんは語ります。 オーナーのこだわりはカップにとどまらず、水用のグラスもオリジナル。見た目もシャレていて口当たりも良いうえに、持つ部分が平坦になっていることで不思議なほど手になじみます。 ヨーロッパの有名ブランドのカップが並ぶ神保町店のカウンター(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影)神保町店のテーブル席(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影)女性オーナーがデザインした、水用のオリジナルグラス。販売もしている(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影) 神保町店開業の10年後にオープンした晴海通り店は、食器をマイセンで統一しています。ヨーロッパの磁器のなかでも最高峰といえるブランドで、銀座という土地柄、同社のものを選んだとのこと。3軒めとなる、銀座の中央通り店も全てマイセン、4軒めの並木通り店はアンティークのカップを使用しており、食器への並々ならぬこだわりが伝わってきます。 晴海通り店はマイセンの食器がそろう(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影)。並木通り店はアンティークカップで提供。座席背後には画廊のように絵が並ぶ(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影)。 コーヒー豆は創業以来、神戸にある老舗店から炭火焙煎したものを取り寄せ、ブレンド(マンデリンベース)の配合量については都度、味見をしてベストなものにしているといいます。また、豆はこまめに新しいものを取り寄せる、注文を受けてから豆を引くなど、何よりも「鮮度」を大切にしているそうで、カップがその色艶、風味をさらに引き出します。この五感で楽しむコーヒーが壹眞の名物といえるでしょう。 ビートたけしの不思議な絵がいっぱい、女性目線で居心地を追究 店内は「レトロ」がコンセプト。カウンターや柱などに古材が使われていて、築100年以上の古民家のものを再利用したものもあるそうです。なかでも、晴海通り店のカウンターは、古材の一枚板がひときわ目を引き、天井のむき出しの長い梁もダイナミック。そうかと思えば、古木の扉にはめ込まれたガラスのエッチングは繊細で、可憐。 また、同店はリヤドロのポーセリン(磁器)の人形コレクションが見事で、アートフラワーやたくさんの絵が飾られているなど、ことのほかアーティスティックな空間が広がっています。 晴海通り店の一枚板を使用したカウンター。古材を利用した天井の梁がレトロ感を演出(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影)どの店も店内の至るところにビートたけしさんの絵や版画が飾られている。写真は晴海通り店(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影) 壹眞に飾られている絵の数々をよく見ると、全て「ビートたけし」のサインが入っていることに気づきます。聞くと、オーナーがビートたけしさんと親しく、作品を借り受けて店に飾らせてもらっているそうです。どの絵も色彩豊かで、ピカソを思わせる抽象的な表現に、その意図を探るべく思わず見入ってしまいます。 版画は裏側から色付けされており、後ろから光を当てると、蛍光色となって全体が輝く不思議な効果が見られます。ビートたけしさんは晴海通り店の常連で、自身の絵に囲まれた席で、毎度同じものを注文するそうです。 後ろから光を当てると蛍光色となって絵が浮かび上がる、ビートたけしさんの版画。(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影) 喫茶用に提供している食べ物は業者に特注しているケーキのみで、モンブランやシフォンケーキ、チーズケーキといった王道ものは全店にあり、店ごとに違うケーキも2種類ずつ用意しています。 一番人気というシフォンケーキは、ダージリンブレンドを煮出した茶葉を生地に練りこんでおり、風味の豊かさが後を引く一品です。コーヒーのみならず紅茶ともよく合います。モンブランも人気で、上品な味わいのマロンペーストの上に盛った、細かく切った栗の食味が全体に冴えわたります。 一番人気のシフォンケーキ 650円(税込、以下同)。ブレンド珈琲またはブレンド紅茶とセットで1590円(銀座の3店舗)(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影)一番下のロールケーキ台にもマロンが入っているモンブラン 650円。ブレンド珈琲またはブレンド紅茶とセットで1590円(銀座の3店舗)(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影)。キャラメルムースをフランス産の洋梨で仕上げたキャラメルポワール 650円(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影)。 銀座にある3店舗は、銀座4丁目の交差点からほど近い場所にあり、それぞれ異なる雰囲気です。神保町店は、場所柄、コーヒーやケーキが銀座の店舗よりも安い金額で楽しめます(各種ケーキ520円、ケーキセット1050円〜)。 中央通り店入口(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影)中央通り店の店内は漆喰の壁で席が仕切られていて、個室のような雰囲気(2018年10月16日、宮崎佳代子撮影) どの店も「オーナーのこだわりのひとつ」という、女性用化粧室のレトロ感も意匠が凝らされていて、女性目線で居心地の良さを追求していることが端々に感じられます。それが男性にとっても心地よい空間を創り出すことにつながっているようです。 さて、今日は壹眞のどの店に行こうか。その選択が、あまりに悩ましく楽しい。 ●壹眞珈琲店 <神保町店> ・住所:東京都千代田区神田神保町1-8 山田ビル B1 ・アクセス:各線「神保町駅」A5番出口から徒歩約1分 ・営業時間:月曜〜木曜 11:00〜22:30、金曜 11:00〜23:00、土曜 12:00〜22:00、日曜・祝日 12:00〜21:00 <晴海通り店> ・住所:東京都港区中央区銀座5-7-19 銀座フォーリー4F ・アクセス:各線「銀座駅」A1番出口から徒歩約2分 ・営業時間:月曜〜木曜 11:00〜23:00、金曜 11:00〜23:30、土曜 10:00〜23:30、日曜・祝日 10:00〜22:00 <中央通り店> ・住所:東京都中央区銀座5-8-16ナカヤビル4F ・アクセス:各線「銀座駅」A3番出口から徒歩約2分 ・営業時間:月曜〜木曜 12:00〜22:00、金曜 12:00〜23:00、土曜 11:00〜22:00、日曜・祝日 11:00〜21:00 <並木通り店> ・住所:東京都中央区銀座5-4-7 銀座サワモトビル B1 ・アクセス:アクセス:各線「銀座駅」B5番出口から徒歩約3分 ・営業時間:月曜〜木曜 12:00〜22:00、金曜 12:00〜23:00、土曜 11:00〜22:00、日曜・祝日 11:00〜21:00 ※営業時間は時期により、前後することがあります。 ※表示の金額は銀座の3店舗のもので、神保町店は異なります。
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