国民1人10万円も 新型コロナ給付金を単なる「生活補償」と捉えてはいけないワケ

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国民1人10万円も 新型コロナ給付金を単なる「生活補償」と捉えてはいけないワケ

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小川裕夫

フリーランスライター

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4月16日、政府は国民ひとり当たり10万円の現金を、新型コロナウイルス対策として給付する方針を固めました。そんな給付金に関する誤解について、フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。

“一億総巣ごもり”の時代が到来

 2020年4月7日(火)、政府は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県を対象に緊急事態宣言を発令しました。これら7道府県は人口が多く特に感染拡大が心配された地域ですが、新型コロナウイルス感染者はその後も増加しています。

 さらなる感染拡大を懸念した政府は、対象地域を47都道府県へと拡大します。これまでの7都府県と北海道、茨城県、石川県、岐阜県、愛知県、京都府の6道府県、あわせて13都道府県を「特定警戒都道府県」に指定。重点的に感染拡大防止に取り組むとしています。これまでは対象だった地域でも、7都府県と同様に不要不急の外出を控えるように呼びかけられてきました。

 緊急事態宣言の範囲が全国に及ぶことになり、外出を控える動きが加速することは間違いありません。在宅勤務をはじめとするリモートワークも、これまで以上に積極的に導入が進められるでしょう。“一億総巣ごもり”の時代が到来します。

懸念される「必須職」の負担増

 他方、緊急事態宣言の発令後も、食料品や日用品の買い出しや病院への通院といった外出はこれまで通りにできます。食料品の買い出しや病院の通院は、私たちの命に関わる行動といえます。不要不急の外出を制限することで、これらができなくなって生命が脅かされたら本末転倒です。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府・与党は国民ひとりあたり10万円を給付することを決めた(画像:写真AC)



 また、医療・介護従事者や物流に携わるトラックドライバー、食料品・日用品・医薬品などを販売するスーパーマーケットやドラッグストアの店員、公共交通機関の職員、上下水道や電気、ガスといったインフラに携わる人たち、私たちが暮らしていくうえで必要不可欠な仕事に従事する人たちーーいわゆる「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる職業の人たちの生活も仕事もこれまで通りです。

 むしろ、緊急事態宣言の対象地域が拡大したことで、彼らにかかる負担が重くなることは確実です。

金銭的支援に消極的だった政府

 コロナウイルス禍が続く中、東京都の小池百合子都知事は4月10日(金)の記者会見で人が多く集まる遊興施設・集会施設などの休業・休館を強く要請。休業・休館に協力する中小の事業者に対して、東京都は最大で100万円の給付金を支給する金銭的な支援を表明しています。

 また東京都に触発される形で、福岡県福岡市も中小企業・小規模事業者に最大で50万円の補助を打ち出しました。

 地方自治体が率先して給付金の支給を決める中、政府は困窮する国民に対して重い腰をあげようとしませんでした。当初、安倍晋三首相は記者会見で「私のような国会議員の収入に影響はありません」と述べるなど、一律の給付金支給に反対する姿勢を見せていました。

 このように、政府は金銭的支援に消極的な姿勢を取り続けてきたのです。

支給対象の年収を精査している時間はない

 しかし国民の声に押される形で、政府は給付金を支給する方向で調整に入ります。それでも、当初は「減収世帯に30万円」という厳しい条件が検討されていました。

 給付金を出し渋る政府に対して、インターネットをはじめとする世論が「一律給付」を強く求めて反発。激しい批判が起こったことで、政府は態度を急変させます。そして、ついに「ひとり一律10万円」を支給する方針を4月16日(木)、固めたのです。

4月7日に記者会見で緊急事態宣言を表明する安倍晋三首相(画像:小川裕夫)



 一律に給付金を支給する政策に対しては、反対意見もあります。一律に支給すると、収入の高低・増減に関係なく誰もが給付金を受け取ることができます。

 明日に食べる物がなく、家賃の支払いにも困窮している年収100万円の派遣労働者にとって、10万円は命をつなぐ給付金です。

 一方、年収100億円の企業経営者にとって10万円はお年玉以下の金額です。「生活に困らない富裕層にも、同じく10万円を支給する必要があるのか」、そんな意見も出ました。

 しかし、今は一刻を争う緊急事態です。年収が高いor低い、減ったor増えたを精査している時間的な余裕はないのです。

給付金は「補償」ではない

 そもそも、今回の給付金は「補償」と捉えるべきものでしょうか?

 支給される10万円の給付金は生活必需品である食料をはじめ、光熱水道費や家賃にほとんど消費されるでしょう。そうした面だけを見れば、10万円は生活支援のための「補償」と捉えられます。

4月7日に開催された安倍晋三首相会見に同席した西村康稔新型コロナ対策担当大臣(画像:小川裕夫)



 給付金を「補償」と捉えると、

「政府に補償を求めるなんて自覚が足りない」
「何でもかんでも国に頼るな」
「政府に金をせびるなんてさもしい」

と、給付金を求める人たちを非難する声にも一定の理があるように感じます。

 しかし給付金を「補償」とみなすことは、政府や東京都をはじめとする地方自治体が支給する給付金の「本来の意味」を見誤ってしまいます。政府や地方自治体は、「補償」という意味だけで給付金を配っているわけではないからです。

 東京都が発表した給付金は、「感染拡大防止協力金」という名称がつけられています。そうした名称からもわかるように、今回の給付金は「補償」を主眼としているのではなく、「不要不急の外出をしない」ための協力金なのです。

「新しい公共事業」としての意味合い

 仮に給付金10万円が減収したことへの「補償」であるなら、公務員やエッセンシャルワーカーといった減収しない労働者に対して給付金を支給する必要はありません。

 現場で奮闘しているエッセンシャルワーカーをねぎらいたいという気持ちは、誰もが持っています。そうした人たちに対して給付金を支給しないなどと言ったら、大きな反発を呼ぶでしょう。

 しかし実際にエッセンシャルワーカーは減収していないため、「補償」は不要です。もし、エッセンシャルワーカーをねぎらうなら、特別功労金という形で金銭的に報償することが妥当です。

エッセンシャルワーカーである、スーパーマーケットの店員(画像:写真AC)

 しかし今回の給付金は収入の多寡、増減に関係なく一律に給付します。あえて例えるなら、政府や地方自治体から「家で過ごしてほしい」という内容の仕事依頼があり、その報酬として「ひとり10万円」が支給されるということです。

 いわば、これは“家にいる”“不要不急の外出をしない”という「新しい公共事業」と捉えるのが妥当かもしれません。

 政府や地方自治体が給付金を支給しなければ、多くの人が生活の糧を稼ぐために働きに出なければなりません。

 多くの人が働くために外出すれば、満員電車が走ることになり、オフィスは人が密集し、街には雑踏が生まれます。それが感染を拡大することは自明です。

「ひとり一律10万円」は合理的

 感染者が増加すれば、病院で検査・治療にあたらなければなりません。医療費は増大しますし、医療従事者に不可欠な防護服、マスク、手袋、消毒液といった消耗品類の経費も増えます。

 また、感染者が出た場所を消毒する費用も発生しますし、感染ルートを特定するための費用もバカになりません。軽症者を隔離するためのホテルを用意するのにも、それなりに手間と費用がかかります。

病院現場は日々ウイルスとの戦いが続いている(画像:写真AC)



 費用面の問題ばかりではなく、医者や看護師、そして病院自体も不足する可能性さえあるのです。時間的に間に合いませんが、医療従事者を新たに養成する資金、病院を新たに開設する方がよっぽどコスト高になります。

 感染拡大によって生じる費用・社会の負担が増すことを考慮すると、ひとり一律10万円の給付金や休業する企業に対して数十万円を支給することによって感染拡大を食い止めることができるなら、かなり安上がりな“経費”といえます。

コロナ禍で試される有権者

 感染拡大を防止するためには初動が肝心になります。

 そのため、「支給を早く!」といった声や、長期戦を視野に入れて「もっと多くの支給金を!」といった声も見受けられます。ここで出し惜しみしてしまうことで感染拡大が不十分に終わり、それが感染拡大につながる懸念もあります。給付金をケチったことで、むしろ支出を増大させてしまう可能性もあるのです。

 給付金が金銭的な生活支援という面を持っていることは事実ですが、給付金の効果はそれだけではなく、多面的な効果を内包しています。

 今回の給付金一律10万円支給が決まったことは、国民の声が政治を動かしたといえる出来事といえます。

 給付金を「補償」と捉えるか、それとも感染拡大を防止するための費用と捉えるのか――いずれにしても、新型コロナ禍という国難に対して、政府や地方自治体がどう対処するのか? そして、どう国民に寄り添うのか? 政治の真価が問われています。

4月7日に記者会見で緊急事態宣言を表明する安倍晋三首相(画像:小川裕夫)

 また同時に、政治家を選んだ私たち有権者も試されているのです。

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