人口減少で東京の風景はどう変わる? きちんと考えたいメリット・デメリット

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人口減少で東京の風景はどう変わる? きちんと考えたいメリット・デメリット

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日沖健

日沖コンサルティング事務所代表

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東京一極集中が加速していますが、そんな東京の人口も2025年をピークに減少すると言われています。人口が減ると、社会にどのような影響があるのでしょうか。日沖コンサルティング事務所代表の日沖健さんが解説します。

東京の人口は2025年をピークに減少

 総務省が2020年1月31日(金)に公表した2019年の人口移動報告によると、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)は、転入者が転出者を14万8783人上回る「転入超過」でした。

 東京圏への転入者は54万0140人で、転出者は39万1357人。転入超過は1996(平成8)年から24年連続で、東京一極集中が加速しています。

人であふれる東京のイメージ(画像:写真AC)



 こうしたニュースを聞くと、あるいは再開発が続く渋谷などを目にするとにわかに信じがたいことですが、これから東京でも他の地域と同じく、少子化の影響で人口が減少します。

 東京都の生産年齢人口(15~64歳)はすでに減り始めていますし、総人口も2025年をピークに減少に転じると予測されています。東京都下は、一足早く2020年がピークで減少します。

 徳川家康が江戸に拠点を移した1590(天正18)年から実に430年間、人口が増え続けることを前提にしてきた首都・東京で人口が減り始めるのは、東京都民の生活、さらには日本全体にも大きな影響を及ぼすことでしょう。

 今回は、東京の人口減少の影響について考えてみましょう。

“痛勤“はなくなる?

 人口減少には良い面と悪い面があります。

 まず、人口減少による好ましい変化は、地価が下落し、住宅の販売価格や賃貸住宅の家賃が下がることです。

 現在、首都圏の新築マンションの販売価格は5876万円(不動産経済研究所。2019年12月調査)で、日本人の平均世帯収入551万円の10倍を超えています。人口が減れば、住宅の取得や賃借は容易になり、住環境が改善されるでしょう。

首都圏の新築マンションのイメージ(画像:写真AC)

 都心に近いところに住むのが容易になると、通勤時間が短くなります。

 首都圏オフィスへの平均通勤時間は49分(ザイマックス不動産総合研究所。2019年調査)で、許容範囲と言われる30分台を大きく上回っています。将来は、乗車時間が短縮され、混雑も緩和され、“痛勤”からかなり解放されそうです。

サービスは劣化する

 さらに、医療・子育てなども施設面では状況が改善されるでしょう。現在、医療や子育ての充実のために施設の改善が進められています。しかし人口が減ると、逆に施設が余る状態になると予想されます。

 この他にも交通渋滞、ゴミ問題など、東京の都市問題の多くは、人口過密によるものでした。人口減少で都市問題の多くが解決に向かうと期待されます。

 一方、問題もあります。何より経済活動が縮小し、総所得が減少します。ひとり当たりの所得は、政策次第でそれほど減らないかもしれません。

 また、サービスは確実に劣化することでしょう。経済活動の縮小で税収が減ると、公共サービスが縮小を余儀なくされますし、飲食・小売り・医療などサービス業は労働集約的なので、人手不足で現在のサービスレベルを維持するのが難しくなります。

盛り付けをする飲食店スタッフのイメージ(画像:写真AC)



 すでに東京では、一部の飲食店・小売店が営業時間を短縮するなど、人手不足の影響が目立つようになっています。本格的な人口減少社会では、病院はあるけど医者・看護師がいない、保育所はあるけど保育士がいない、という事態が懸念されます。

増加する外国人労働者

 サービスの劣化について、対策は大きくふたつ。ひとつはロボットや人工知能(AI)を導入し、自動化・省人化を進めることです。ただ、ロボットやAIは開発途上ですし、なかなか実用化しにくいサービスも多いので、根本的な解決策となるには時間がかかりそうです。

AIと東京のイメージ(画像:写真AC)

 となると、もう一つの対策は、外国人労働者を導入することです。すでに、都内のコンビニエンスストアや居酒屋では、たくさんの外国人が働いています。今後はいろいろなサービス分野で、外国人労働者が増えることでしょう。

 外国人労働者が多いシンガポールでは、休日になると外国人労働者が中心部のオーチャード通りに大挙して押しかけ、たむろしています。いま渋谷など都内の繁華街は日本人の若者でにぎわっていますが、10年後には外国人労働者が休日を楽しむ街に変わっているかもしれません。

少子化問題は都市問題

 以上は、遅かれ早かれかなり確実に起こる未来図です。それに対し、不確実ではあるものの東京の姿を大きく変えるかもしれないのが、遷都・分都、いわゆる首都機能移転です。

 日本では、東京の都市問題が深刻になった1960(昭和35)年に早くも首都機能移転が提唱されました。しかし、国会などの議論が迷走し、国民の期待も高まらず、60年たった今も、文化庁・消費者庁など一部の省庁・関係機関が地方移転を決めたにすぎません。

 首都機能移転は、東京だけでなく地方の利害が絡みますし、費用も膨大なので、簡単には進展しないだろうと言われます。

肌着を着た新生児のイメージ(画像:写真AC)



 ただ日本の合計特殊出生率は、沖縄県「1.94」など地方では高い一方、東京都は「1.21」と全国最低です。少子化問題はイコール都市問題なのです。今後、政府が少子化問題に本腰を入れて取り組むならば、首都機能移転ががぜんクローズアップされるかもしれません。

 首都機能移転が東京や日本全体にとって良いことなのか、進めるべきなのか、進めるならどういう形で進めるべきか、などしっかりと議論を深める必要がありそうです。

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