1991年の追憶 なぜ『東京ラブストーリー』の赤名リカは、明るく真っすぐなキャラだったのか?

約30年前に一世を風靡した月9ドラマ『東京ラブストーリー』について、社会学者で著述家の太田省一さんが時代背景を含め、解説します。


1991年、伝説の「月9」

 2020年 1月24日(金)に発表された「『東京ラブストーリー』が29年ぶりに復活」というニュースを目にしたとき、驚くとともに「もうそんなに前のことになるのか」という懐かしい気持ちに駆られました。

29年ぶりに復活する「東京ラブストーリー」のビジュアル。新たにカンチとリカを演じるのは、伊藤健太郎と石橋静河(画像:(C)柴門ふみ/小学館 フジテレビジョン)



 1991(平成3)年、いわゆる月9枠で放送されたフジテレビのドラマ『東京ラブストーリー』は、最終回に視聴率32.3%(ビデオリサーチ調べ。関東地区)を記録するなど社会現象的人気となりました。そんなテレビドラマ史に残る名作が、2020年春、29年ぶりにリメークされてインターネットで配信されるということです。

 そこでこの機会に、1991年版のドラマと当時の世の中の雰囲気を改めて振り返ってみたいと思います。

自分の意思をはっきり表明する女性像

 1991年版の主演は、当時ともに20代半ばだった鈴木保奈美と織田裕二でした。ふたりが演じるスポーツ用品メーカーの同僚・赤名リカと永尾完治(カンチ)を中心に、有森也実演じる関口さとみと江口洋介演じる三上健一を交えた恋愛模様が展開されます。

東京ラブストーリー Blu-ray BOXの表紙(画像:(C)柴門ふみ/小学館 フジテレビジョン、ポニーキャニオン)

 なんと言っても新鮮だったのは、赤名リカの女性像でした。

 リカは帰国子女で明るくストレートな性格なのに対し、カンチはなにかと周囲に気を使い、はっきりしない優柔不断なところのある性格。そんなふたりの対比のなかで生まれたのが、第3話でリカがカンチに対して発するセリフ「ねえ、セックスしよう」でした。

 いまでも『東京ラブストーリー』と聞いてこのインパクトのあるセリフを連想するひとは多いと思いますが、そこには恋愛において自分の意思をはっきり表明する新しい女性の姿が表現されていました。鈴木保奈美は、一歩間違えば反感を買っただろうこの役柄を魅力的に演じ切り、一躍人気女優の仲間入りをしました。

ドラマにおける「切なさ」の時代の始まり

 実は原作となった柴門ふみの同名漫画では、主人公はリカではなくさとみでした。さとみは清楚(せいそ)で控えめな、いかにも古典的なヒロインタイプ。それをドラマ化にあたってリカに変えたのです。そこにはプロデューサー・大多亮をはじめとしたスタッフの、ドラマのプロならではの勘のさえがうかがえます。

コミック『東京ラブストーリー』(画像:(C)柴門ふみ/小学館)



 またもうひとつのポイントは、ハッピーエンドの物語ではなかったことです。リカとカンチは付き合うようになるのですが、最終的には別々の人生を歩み始めます。3年ぶりにふたりが街で偶然再会する最終回のシーンは、それを象徴するものです。

 それは、ドラマにおける「切なさ」の時代の始まりでした。嫌いになったわけでもないのにカンチと別れなければならなくなったリカ。それでも悲しみを乗り越えて次の一歩を踏み出そうとします。

自分の意思をはっきり表明する女性像

 その切なくもけなげな姿に私たち視聴者は涙を誘われました。小田和正による主題歌「ラブ・ストーリーは突然に」の売り上げ200万枚を超える大ヒットも、そのような「切なさ」を求める私たちの心の琴線にふれたからという面があるでしょう。

『東京ラブストーリー』の主題歌、小田和正の「ラブ・ストーリーは突然に」(画像:(P)1991 Ariola Japan、Sony Music Labels Inc.)

 それまでのトレンディードラマ黎明(れいめい)期の月9は、基本的におしゃれな若者たちが恋愛ゲームを謳歌(おうか)するようなものでした。ところが『東京ラブストーリー』では、別れを乗り越えて生き抜こうとする若者、とりわけ女性の姿が前面に出ています。

 そんな『東京ラブストーリー』の成功は、月9のターニングポイントになりました。例えば、『101回目のプロポーズ』(1991年放送)や『ロングバケーション』(1996年放送)は、そうした新しい月9の作風を受け継いだものです。

 そこには、大きな時代の変化もありました。1991年と言えば、1980年代後半から続いてきたバブル景気が終わった年です。それはいわば、右肩上がりの成長や豊かさを信じることのできた時代の終わりでした。

バブル崩壊が生んだ平成の空気感

 バブル崩壊によって、いつまでも続くかのように思い込んでいた社会の高揚感は突然失われました。

「失われた10年」と後に言われた経済面だけでなく、私たちのこころのなかにも空白が生まれ、それはすぐに埋められることはありませんでした。もはや昔の時代には戻れないが、かといって次の時代を生きるための明確な方向性もなかなか見えてこない。それがすでに始まっていた平成の空気感になりました。

バブル崩壊後のイメージ(画像:写真AC)



『東京ラブストーリー』にはバブルの残り香もあります。しかし一方で、赤名リカというどんなときも前向きに生きようとする女性を主人公にすることによって、そんな混迷し始めた平成の世を生きる私たちにエールを送る作品でもあったのではないでしょうか。

脚本家・坂元裕二の先鋭性

 そのことは、印象的なセリフの数々でリカを見事に造形した脚本家・坂元裕二のその後の軌跡を見てもわかります。

 ほかにも『同・級・生』(1989年放送)、『二十歳の約束』(1992年放送)など多くの月9ドラマを手掛けた坂元でしたが、平成も年を重ねて2010年代になると『Mother』(2010年放送)、『Woman』(2013年放送)、『anone』(2018年放送)をはじめとして、現代における女性の生きかた、親子関係や結婚・家族のありかた、ひいては社会のありかたを鋭く問いかけるような作品を次々と世に送り出すようになります。

 こうしたドラマと『東京ラブストーリー』では、確かに表面上はかなり雰囲気が違っています。しかし、頼るべき指針を見失った平成という時代のなかでいかに生きるべきか、その答えを真摯(しんし)に追い求めるという点では共通しているように思います。その意味では、『東京ラブストーリー』は、時代を先取りした作品でもありました。

「東京ラブストーリー」のホームページ(画像:(C)柴門ふみ/小学館 フジテレビジョン)

 元号は令和に変わりましたが、平成の空気感もまだ残るなか、伊藤健太郎と石橋静河が新たにカンチとリカを演じるリメーク版『東京ラブストーリー』がどのような世界を見せてくれるのか、期待したいと思います。


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