「インターネット化」する現実社会 ヒントは異様なまでの「うんこミュージアム」人気にあった

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「インターネット化」する現実社会 ヒントは異様なまでの「うんこミュージアム」人気にあった

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中村圭

文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナー

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「体験」や「コト消費」は今や、集客の重要なキーワードになっています。これほどの支持を集める理由は一体何でしょう。文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが、体験・コト消費の最前線をリポートします。

客を呼び寄せ、滞在させるための装置

 近年、「体験」や「コト消費」が集客のキーワードとなっています。さまざまな業態で体験型施設やアクティビティを導入しており、レジャー施設やミュージアムでも体験を冠したアトラクションやイベントが次々に投入しています。

 しかし一口に体験・コト消費と言っても漠然としたものであり、実態がつかめません。この体験・コト消費が意味するところは何でしょうか?

2019年8月に江東区内にオープンした「うんこミュージアム TOKYO」(画像:アカツキライブエンターテインメント)



 集客施設における体験・コト消費について考えると、体験についてはミュージアムにおいて比較的早い時期から意識されていたと言えます。

 博物館や科学館開発が活発だった1980年代に、動きのない展示物に対していかに興味を持ってもらうかという観点から、積極的に体験要素が検討されるようになりました。さらに、当時の技術革新によってインタラクティブな展示手法が取り入れられるようになりました。

 科学実験教室や工作教室といった参加・体験型ワークショップでも次々に導入されました。装置産業が主体であったレジャー施設においては、体験の概念が取り入れられるようになったのは比較的最近のことです。

 一方、「コト消費」は商業施設の開発で使用されていたキーワードです。

 1990年代のRSC(リージョナルショッピングセンター。日常品から高級品までワンストップでのショッピングが可能で、さらに映画館やフィットネススタジオ、カルチャースクールなどを複合した大型商業施設)の開発黎明(れいめい)期、「コト消費」という言葉は企画書によく挙げられました。

 RSCはニューファミリーを対象に1日滞在できる複合施設を目指していたため、コト消費はその施設で過ごすことを目的としたレジャー業態やカルチャー業態など「時間消費機能」のキーワードとして使用されてきました。

ポイントは、双方向性・自由度の高さ・没入感

 あらためてコト消費が注目されるようになったのは、2010年代に商業施設開発が郊外から都市へとシフトし、都市型商業施設においてターゲットが子連れファミリーや三世代集客へ変化してからです。

 近年、レジャー施設や商業施設で体験・コト消費が言われるようになったのは、ネットの普及によりそれまでの市場が大きく奪われたことに起因します。

 この動向はレジャー産業でいち早く起こりました。例えばソーシャルゲームの普及によってゲームセンター市場が縮小したり、ビデオオンデマンドの普及で映画館・シネコン市場やビデオレンタル市場が縮小したり、といった具合です。

 ただその分、レジャー産業において早期の段階で対策を意識するようになったということもできます。商業施設においてはここ数年「eコマース」が急速に台頭しており、日用品の市場まで侵食されるようになっています。リアルの店舗はその存在意義を問われ、現在はeコマースに対するものとして実験的な体験型店舗がロールモデルとして次々に開発されている状況です。

 では、体験・コト消費が支持される理由とは何でしょうか?

体験・コト消費が支持されるワケとは?(画像:文殊リサーチワークス制作)



「体験」が注目される理由としてよく指摘されるのは、やはりネットとの対比です。ネットの普及によってバーチャル世界が蔓延し、それに差別化するものとしてリアルでの体験に価値が生まれたというものです。

 この説明は分かりやすいものの、体験に求められる本質的な概念を見失う懸念があります。この理屈で言うと、ジェットコースターも体験型アトラクションと言えますが、一般的にそう認識する人はいないでしょう。

 むしろネット社会が一般化し、さまざまな時間消費もネットをベースにして行われるようになった今、リアル社会での事業効率を優先した「定型的で最大公約数的なもの」に対する興味が減退し、リアルでもネット社会と同様の概念が求められるようになってきたことが背景にあると言えます。

 その概念とは、

1.双方向性があること
2.結末が決まっていないこと
3.行動の自由度が高いこと
4.没入感があること
5.個性が生まれること

などです。

 この概念をひとつでも取り入れているもののなかから、若い世代の支持を集める新たな時間消費業態が生まれています。

レジャーの新たな潮流を担う体験型施設

 例えば、近年急速に人気が拡大した「リアル脱出ゲーム」や「リアル宝探しゲーム」、「体験型デジタルミュージアム」、「体験型ホラーアトラクション・イベント」、「イマーシブシアター」などがそうです。

 いずれも若い世代の支持を得ており、今後の時間消費業態として期待されるものです。これらが新しいドメインから生まれているものが多いことも特筆されます。体験・コト消費の背景にある概念は、今後の新しいレジャーを考えるうえで極めて重要と言えるでしょう。

 2018年から現在にかけては、東京や東京近郊において新しい体験型施設が数多く開業しました。

 横浜にオープンした「アソビル」(横浜市西区)は体験型エンターテインメントビルを標榜しており、リアル体験ゲームやモノづくりワークショップを開催したり、屋内型キッズプレイグラウンドやマルチスポーツコートが設置されたりしています。

 そんなアソビルのなかでも最も話題とさらったコンテンツといえば、やはり「うんこミュージアム」でしょう。

 便器で力(りき)むとうんこ型のオブジェが出てくる「マイうんこメーカー」など、参加型アトラクションから構成されていて、インパクトのあるテーマやインスタ映えするデザインからも話題になりました。アソビルでの会期は終了し、2019年11月現在は「ダイバーシティ東京プラザ」(江東区青海)に「うんこミュージアムTOKYO」がオープンしています。

2019年8月に江東区内にオープンした「うんこミュージアム TOKYO」(画像:アカツキライブエンターテインメント)



 また「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」(江東区青海)や「teamLab Planets TOKYO DMM」(江東区豊洲)といったチームラボの体験型デジタルアートミュージアムも相次いでオープンしました。

 前者は森ビル(港区六本木)とチームラボ(千代田区神田小川町)のコラボによって実現した国内最大級の体験型デジタルアートミュージアムです。1万平方メートルの吹き抜けを擁する立体的な空間で、作品は鑑賞者の行動に影響を受けてリアルタイムで変化し続け、二度と見られない世界を作り続けていきます。デジタルアート空間の中に入っていく没入感があり、今や世界的なディスティネーションとして多くの人を集めています。

 今までになかった新しい体験施設が次々に生まれています。よろしかったらぜひ一度利用してみてください。

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