空港までの強い味方 成田エクスプレスは運行当初、千葉県内を「全駅スルー」していた

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空港までの強い味方 成田エクスプレスは運行当初、千葉県内を「全駅スルー」していた

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大居候

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都心から成田空港までのアクセスに欠かせない成田エクスプレス。そんな成田エクスプレス運行開始の背景について、フリーライターの大居候さんが解説します。

1990年のダイヤ改正が生んだ衝撃

 東京の玄関口のひとつである成田空港(千葉県成田市)。最近は格安航空会社(LCC)も数多く就航し、多くの国内線も発着するようになったことから、立ち寄る機会が増えた人も多いのではないでしょうか。

 LCCの大半が発着する第3ターミナルは、フードコートも割安で安心利用可。一部の店舗は早朝から「大盛り無料」を掲げており、おなかいっぱいで苦しくなりながら飛行機に乗る人も少なくないでしょう。

 そんな成田空港への移動手段はさまざまありますが、JRが運行しているのが成田エクスプレスです。

成田エクスプレス(画像:写真AC)



 成田エクスプレスは1991(平成3)年3月に運行を開始した、東京駅や品川駅、横浜駅などから成田空港駅を結ぶ、JR東日本運営の空港アクセス列車です。

 成田エクスプレスの目的は、東京と成田空港間を短時間でつなぐことです。ところが1990年、翌年のダイヤ改正が発表されるやいなや、困惑し始める人たちが現れました。それは成田空港を抱え、列車が通過する千葉県の人たちたちです。

 というのも、当初は空港アクセス列車という役割に重点を置いていたため、千葉県内はすべて通過し、都心のターミナル駅に向かうダイヤとなっていたのです。

 ダイヤ改正によって、都心と房総方面を結ぶ特急「わかしお・さざなみ」が京葉線経由に変更。その結果、県庁所在地の中心駅である千葉駅に停車する特急は、従来の3分の1にまで激減することになったのです。

千葉県のイメージダウンにつながりかねない流れに

 一方、千葉県は県庁所在地の中心駅で特急が激減することで、県のイメージダウンにつながることを危惧していました。

千葉駅の所在地(画像:(C)Google)



 千葉市のほうはもっと深刻。なぜなら、同市は1992年4月に政令指定都市になることが予定されていたからです。これからますます発展する予定にもかかわらず特急が止まらないのは許されないという意見は、やがて市民の大半を占めるようになります。

 これに対してJR東日本は『朝日新聞』1990年12月22日付で「反発は覚悟のうえ」と強気な態度を示しています。というのも成田空港の利用者で、千葉駅で乗り降りする人はこれまでもほとんどいなかったのです。

 なぜ成田エクスプレスを千葉駅で停車し、利便性を低下させなければならないのか――という意見の人が当時は多かったのです。また、このときのダイヤ改正は成田~千葉駅間の快速電車が増発され、沿線の利便性はむしろ高くなると考えられていました。

成田空港へわずか1000円で移動できるバスも登場

 しかし、1990年12月には千葉県が要望書をJR東日本に提出。1991年3月には千葉市議会で成田エクスプレスの千葉駅停車を要望する決議を可決しています。

 当初は停車することを拒んでいたJR東日本でしたが、その後の話し合いの結果、1992年3月から上下2本ずつ、計4本のみを千葉駅に停車させることを決めました。1994年には一部列車が成田駅に停車するようになり、次第に停車駅は増加していきました。

 次第に停車駅が増加した背景には、空港アクセス列車という使命に特化してるわけにはいかない事情もあったようです。

 冒頭に記したように、LCCが就航し利用する機会も増えた成田空港ですが同時にライバルも増えました。その理由は、成田空港への交通手段もどんどん安くなっていったからです。

 現在、都内からもっとも安く成田空港へアクセスする手段は銀座駅・東京駅に発着する「エアポートバス東京・成田」で、わずか1000円で移動できます。

「エアポートバス東京・成田」のウェブサイト(画像:ビィー・トランセグループ、JRバス関東)

 これは、LCCバス「東京シャトル」「THEアクセス成田」の路線が2019年12月に統合して生まれました。ちなみに東京シャトルは京成バスを中心としたグループが、THEアクセス成田は平和交通などからなるビィー・トランセグループとJRバス関東が共同運行していた路線です。

当初の役割から徐々に変化

 こうした交通手段の登場に加えて、羽田空港の国際線も増加しました。

 訪日外国人向けの乗り放題きっぷである「ジャパン・レール・パス」は成田エクスプレスに追加料金を支払うことなく乗車できるため外国人には人気でしたが、一般の利用客の獲得にはライバルが多すぎるという状況が続いてきました。

 こうした経緯もあって、成田エクスプレスも当初の役割であった空港アクセス列車から、沿線住民も取り込んだ特急列車へと変化しつつあるのかも知れません。今後、成田エクスプレスがどういった位置づけの列車になっていくかは興味深いところです。

成田エクスプレス(画像:写真AC)



 余談ですが、毎年ゴールデンウィークの時期に成田エクスプレスの車両を使って運行されていた「マリンエクスプレス踊り子」(2020年3月運行終了)は快適極まりない臨時列車でした。もっと乗っておけばよかったなぁ。

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