お台場の海はなぜ「トイレ臭い」と言われたのか? 都が取り組む水質改善の成否に迫る

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お台場の海はなぜ「トイレ臭い」と言われたのか? 都が取り組む水質改善の成否に迫る

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小川裕夫

フリーランスライター

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東京2020オリンピック・パラリンピックのテスト大会で、会場となったお台場海浜公園のスイムコースの水質悪化によりスイムが中止になった件について、フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。

かつて、東京の湾岸エリアに海水浴場があった

 2020年に迫った東京五輪は、いまだに問題が山積しています。

 東京五輪のトライアスロンは、港区のお台場海浜公園を競技場として使用します。そのテストイベントが2019年8月11日(日)に開催されましたが、出場選手から「(海が)トイレ臭い」との苦言が出ました。大都会・東京の海が「オーシャンブルー」だと考える人は皆無でしょうが、トイレ臭いという言葉は関係者に大きな衝撃を与えたことでしょう。

お台場海浜公園の様子(画像:写真AC)



 これまでにも東京都は親水空間の整備を進めてきており、公園の噴水やじゃぶじゃぶ池をはじめ、河川のせせらぎといった清流の復活にも力を入れてきました。決して、海や河川の水質改善に手を抜いていたわけではありません。今回のイベントで、水質改善は簡単に達成できないことが明らかになりました。

 水質改善で、東京都が特にこだわったのは海水浴場の復活です。島しょ部に海水浴場はありますが、23区や多摩に海水浴場はありません。昭和30年代後半まで、東京の湾岸エリアには海水浴場があり、それらを復活させることで水質改善をアピールする狙いがあったと思われます。

 2005(平成17)年前後から、東京都は港湾局や下水道局といった複数の部署で連携し、水質の改善に取り組み始めました。行政の力だけで、水質改善は達成できません。そのため、地元住民やNPOなどの協力を仰ぎました。官民一丸で、東京湾の水質改善を進めたのです。

水質汚染の原因は、河川上流部に起因

 こうした努力もあって、2015年の夏には葛西臨海公園に面した砂浜の葛西海浜公園に海水浴場がオープンしました。葛西海浜公園の海水浴場がオープンまで漕ぎつけたことで、台場でも海水浴場を求めることが高まりました。そして、同じように水質改善に取り組み、お台場海浜公園でも海水浴ができるまで水質が改善したのです。

2015年に海水浴が可能になった葛西海浜公園の様子(画像:小川裕夫)



 しかし台場も葛西も、その水質は人が安全に泳げるギリギリの水準でしかありません。人が泳ぐことができるか否かは、環境省が基準を定めています。環境省が定めた「COD(化学的酸素要求量)」、「ふん便性大腸菌の数」、「油膜の有無」、「透明度」の4つをクリアしなければ、海や河川で遊泳許可はおりません。この4つのうち、特に不安定な項目がCODと「ふん便性大腸菌の数」です。

 油膜の有無や透明度は、測定後に瞬時に判定できます。一方、CODと大腸菌は2~3日経たないと検出されません。当日は異常がなくても、後日になって健康被害が出ることもあります。

 東京湾の水質改善は、東京都や地元住民がどんなに頑張っても限界があります。なぜなら、水質汚染の原因は、河川上流部に起因していることもあるからです。

 東京湾に注ぎこむ荒川や江戸川といった河川は、埼玉県・千葉県・茨城県などを流域としています。こうした地域からも生活排水が出ています。これらが、東京湾に汚水として流れ込むのです。と書くと、いかにも東京都は東京湾を汚していないような印象になってしまいますが、隣県からの生活排水以上に水質改善の障壁とされるのが、東京都の下水道システムです。

 東京の下水道は、明治政府が発足した直後から整備が進められました。それでも、都内全域に本格的に整備が進められたのは戦後からです。東京都は戦災復興の過程で、早くから下水道の整備に着手しています。早期に整備が進められたこともあり、都内の下水道整備率は100パーセントに達しています。

雨が降っただけで、増加する海水のCODと大腸菌

 東京に隣接する埼玉県・千葉県の下水道は、昭和40年代半ばから整備が本格化しました。東京都と比べると遅いスタートですが、遅いスタートだったので東京都よりも優れた最新設備で下水道が整備されました。なにより、昭和40年代後半に下水道が整備された都市は、汚水と雨水を別々の管路で処理する分流式が採用されました。この分流式の採用は下水道を語る上で、とても大きな意味を持ちます。

 東京都の下水道は、汚水と雨水を同じ管路で処理する合流式が採用されています。管路がひとつで済む合流式は、安価な工事費で工期も短くて済みます。一方、分流式は管路がふたつ必要になるので、工費も高くなり工期も長くなります。

 合流式は汚水と雨水を同じ管路で処理するため、大量の雨が降ると処理が追いつかなくなり、管路がパンクしてしまいます。それを防ぐには、未処理のまま河川に放流するしか術がありません。それが海に汚すのです。

葛西海浜公園。海水浴客が遠くからでも一目でわかるように、旗で水質を知らせる。水質状態を知らせる掲示板も設置されている(画像:小川裕夫)



 雨が降っただけでも、海水のCODや大腸菌の数は増加します。CODや大腸菌が増加すれば健康被害が出る恐れが高まります。行政としては、そうした状態で遊泳を許可できません。2015年に葛西海浜公園で海水浴ができるようになった際、海水浴客に水質状態が一目でわかるよう、旗の色で水質を周知させる手段を導入しました。旗の色が「緑」なら遊泳可、「黄」は遊泳可ながら体調面を考慮すること、「赤」は遊泳禁止といった具合です。

 近年、ゲリラ豪雨は珍しくありません。ゲリラ豪雨が発生すれば東京都の下水処理能力はたちまち限界に達し、未処理の汚水を放流せざるを得ない状況になります。未処理の汚水が放流されれば、海や川が汚れるのは当然です。遊泳できるようになったと言っても、いまだ東京湾の水質は不安定な状態といえます。

 東京都のほかにも、合流式で下水道を整備した自治体はあります。こうした自治体は分流式に切り替えたり、そのほかの手段を用いて水質を改善させたりしています。東京都もさまざまな水質改善の取り組みをしていますが、東京都は合流式で整備された下水道の範囲が広いため、水質改善の効果が薄いというのが現状です。

 早くから都市化し、下水道の整備を急いでしまったことが、東京都は下水道や水質汚染という問題解決を難しくしているのです。

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