変貌する五反田 かつて猥雑、いま「ライフスタイル指南」 一体何が起きているのか?

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変貌する五反田 かつて猥雑、いま「ライフスタイル指南」 一体何が起きているのか?

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鳴海侑

まち探訪家

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かつては猥雑な「歓楽街」として知られた五反田。近年はITベンチャーの進出により、そのイメージを変化させつつあります。その歴史と現在について、まち探訪家の鳴海行人さんが解説します。

「歓楽街」イメージの正体

 渋谷と品川の間に位置し、山手線、東急池上線、都営浅草線が交差するまち、五反田。旧来は猥雑なイメージが強かったまちです。

五反田駅近くに立つ「レミィ五反田」(画像:写真AC)



 しかし近年ではITベンチャーが集積するようになり、新旧入り交じったまちになりつつあります。そんな五反田の発展史といまを見ていきましょう。

 JRの五反田駅に降り立つと、まず目立つのは南側の大きなビル。このビルに刺さるように電車が来る様子を見ることができます。これが東急池上線の五反田駅です。3両編成と短くてかわいらしい電車が蒲田との間で走っています。途中には商店街で有名な戸越銀座、門前町の池上をはじめとした味のあるまちがあり、こちらの散策も非常に楽しいものとなっています。

 さて、五反田に話を戻すと、ビルは商業施設「レミィ五反田」(品川区東五反田)として地域住民向けの商業施設となっています。テナントとしてはスーパーや生活用品店、飲食店にアパレルといった幅広いジャンルのお店が入居しています。ちょっとした買い物に便利な場所です。

 そのレミィ五反田の北東には歓楽街が広がっています。ここが五反田のまちとしてのイメージを大きく形作っている場所で、「五反田と言えば歓楽街」と思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

 この五反田の歓楽街のイメージのルーツは大正時代に遡ります。当時、まだ東京の「郊外」で発展していなかった五反田で鉱泉が見つかりました。すると、温泉旅館が開業し、人々の娯楽の場所が生まれました。この頃の都市近郊の温泉街では芸者遊びも行われており、五反田は「花街」として発展していくことになりました。

 その後、1923(大正12)年に関東大震災がおこり、被災した東京都心の人々が郊外へ流れ出していくとともに、芸者も品川や渋谷などから五反田にやってきます。こうして五反田周辺は急激に人口も増え、「花街」も発展していきました。

 さらにこうした歓楽街を支えたのは大正時代以降にに隣町の大崎で生まれた工場群です。ここで働く人々が息抜きに五反田の歓楽街で遊んでいたのです。これが現在まで続く五反田の歓楽街的イメージの源泉になっています。

ITベンチャーの集積で新しいまちの姿も

 そんな五反田のイメージは現在、徐々に変わり始めています。それはIT系ベンチャー企業の進出です。

五反田駅の北東に広がる歓楽街「五反田有楽街」の入口(画像:写真AC)



 象徴的なのは、五反田駅西口から徒歩数分の場所に、中小企業向けのクラウド会計ソフトを開発する「freee(フリー)」(品川区西五反田)が進出したことです。ほかにも、数々のIT系ベンチャー企業が五反田に本社をおいています。

 ITベンチャーというと渋谷のイメージが強いですが、なぜ五反田にいまITベンチャーが集まってきているのでしょうか。

 その大きな理由は渋谷の賃料の高さです。渋谷はオフィス需要が高く、その賃料も坪単価2~3万円、ヒカリエなどの再開発で生まれた高層のオフィスビルは、それ以上に高くなっています。

 そのため、立ち上げたばかりのスタートアップでは渋谷でのオフィス開設は難しくなっています。そこで、オフィスの坪単価が1万円台であることが多い五反田がIT系ベンチャー、スタートアップ企業の受け皿となっているのです。

 また、もうひとつベンチャー企業にとってよいことは、周辺地域に住宅街が広がっていることです。IT系企業で働く人たちは会社の近くに家を借りる(職住近接)傾向があります。都内なので家賃は高いですが、新宿・渋谷に比べれば五反田は安い部類です。そのため、五反田にオフィスを構えることが好まれるという側面もあります。

 こうしたIT系ベンチャー企業の集積に伴って新しいまちの姿も見れるようになってきました。

 その代表的なものが2018年3月にオープンした商業施設「池上線五反田高架下」です。この施設は大きく分けて「飲食店」と「ライフスタイル提案型店舗」のふたつに別れます。飲食店はビール醸造所を併設したクラフトビールバーをはじめとする、4店舗のおしゃれな飲食店が立ち並びます。そして「ライフスタイル提案型店舗」は「自転車」をテーマとしています

 どちらも、IT事業などを手掛ける日本コンピュータ・ダイナミクス(品川区西五反田)が経営する店舗「STYLE-B」が運営、うち1区画は契約した人だけが使えるエリアです。契約者専用エリアのためカードキーで入ります。24時間利用可能な屋内駐輪場(約30台)、タオル利用が無料のシャワールームをはじめ、ロッカー・コインランドリーがあります。

ママチャリと高価なロードバイクが並ぶまち

 そして山手通り側のもう1つの区画では「STYLE-B」が自転車や関連商品を販売するほか、青果店「旬八青果店」が入っています。なんと、自転車の横で野菜を売っているのです。

五反田駅西口の様子(画像:写真AC)



 なぜ自転車屋の横で野菜を売っているのか。理由は「女性層へのアプローチ」です。自転車屋というとどうしても女性が入りにくいイメージですが、八百屋やカフェを併設することにより、主婦層をはじめとした女性でも入りやすい店としているのです。

 旬八青果店も店舗のスタイルや客層に広がりが出ることを期待しているといいます。

 そして、なぜ五反田で自転車なのか。それはIT系ベンチャー企業に務める人のライフスタイルにあります。先ほど職住近接の傾向が強いという話をしましたが、自転車通勤者も多いのです。

 確かに、五反田駅西側のまちを歩いていると、ママチャリと並んで有名メーカーのクロスバイクやロードバイクが駐輪されているのを見掛けます。数も多く、五反田の特徴といえます。

 ここまで五反田のまちのイメージの形成史や徐々に変わる五反田のイメージについて触れてきました。旧来の歓楽街には猥雑感があり、一方でちょっと流行を先取りした新しい施設もあります。

 まちを歩けば一見オフィス街ですが、ママチャリの横に高価なロードバイクが停めてある駐輪場があったり、池上線高架下のようなスポットの近くにファミレスや昔ながらの立ち食いそば屋があったりします。

 このように五反田はいま、新旧のまちのイメージが混じり合う面白いまちとなっています。まちが変わっていく様子を見たいという人には五反田はいまぜひ訪れてもらいたいと思います。

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