100年前のパンケーキブーム!浅草・老舗喫茶店で文豪が愛した味に出会う
21世紀になってから息の長いブームとなっているスイーツ・パンケーキ。ハワイなどアメリカの有名店が日本に出店していますが、実はこのアメリカ発のパンケーキブーム、100年前にも存在したのです。著書『串かつの戦前史』において戦前のアメリカ料理流行史を明らかにした、食文化史研究家の近代食文化研究会さんが解説します。息の長いブームが続くパンケーキ 21世紀になってから息の長いブームが続くパンケーキ。フルーツや生クリームなどで彩られたその姿がSNS映えすることも、ブームが続く理由でしょう。 パンケーキのイメージ(画像:photoAC) ハワイのエッグスンシングス、ニューヨークのサラベスなど、アメリカの有名店が日本に出店するたびに、新たな行列店となります。 そして東京のパンケーキの古典中の古典といえば、帝国ホテルのパンケーキ。 帝国ホテルのモーニングサービスのパンケーキ(画像:近代食文化研究会) 本館一階の「オールデイダイニング パークサイドダイナー」のインペリアルパンケーキは、まさにパンケーキの帝王。 食通で有名だった歌舞伎役者・坂東三津五郎(八代目)は、朝食にパンケーキが食べたくなると、車に乗って帝国ホテルに駆けつけました。 “帝国ホテルのパンケーキ、いわゆるホットケーキは、テキサスの何とかいうパンケーキ店と提携していてうまいものだった”(狩野近雄『好食一代』1974年刊) 帝国ホテルのパンケーキもまた、テキサスつまりアメリカ由来のパンケーキだったのです。 100年前のパンケーキブーム 創業1927(昭和2)年、100年近くの歴史がある浅草の老舗喫茶店・ハトヤ。 ハトヤ(画像:近代食文化研究会) 演芸の街・浅草六区の役者や裏方、芸人に愛されたハトヤ。石角春之助『浅草経済学』1933年刊に、開店当初の繁盛ぶりが描かれています。 “一日千人内外の人が出入りするハトヤ” “ハトヤが何故人氣があるか、それは言ふまでもなく、品質本位が、偽りなく實行(じっこう)されてゐるからである。” “ホートケイキにしても、他店で十五錢以上に賣(う)つてゐるものを十銭で賣つてゐる” 安くて質の良いコーヒーや食事を提供して人気となったハトヤ。安くて美味しい“ホートケイキ”=ホットケーキは今も健在です。 ハトヤのホットケーキ(画像:近代食文化研究会) 私が入店した土曜日は、満員御礼で行列ができていました。ホットケーキだけでなく、クリームソーダ、そして看板に印字されているホットドッグもハトヤ名物。 ハトヤのクリームソーダ(画像:近代食文化研究会) ホットケーキもクリームソーダもホットドッグも、アメリカ由来の食べ物です。 今から約100年前、大正時代中期から昭和初期の東京は、アメリカ文化・料理のブームに沸いていました。ハトヤはそのアメリカブームの波に乗った店だったのです。 100年前のアメリカブームによって日本に定着したのがパンケーキ。当時はアメリカにならって「ホットケーキ」という名前で呼ばれていました。 ホットケーキとパンケーキ ちょうど東京がアメリカブームに沸いていた頃に全米に100店舗以上を展開、数百万人が利用した巨大レストランチェーン「チャイルズ」のホットケーキレシピ(1913年)です。小麦粉だけでなく、そば粉やとうもろこし粉のホットケーキもあります。 チャイルズのホットケーキレシピ(画像:近代食文化研究会) 現在のアメリカではパンケーキと呼びますが、当時の名前はホットケーキだったため、日本でもホットケーキと呼ばれました。帝国ホテルではそば粉のホットケーキも出していたようですが、一般には小麦粉のホットケーキのみが定着します。 100年前のホットケーキは、現在のパンケーキと同じく、海外から来た最先端のおしゃれスイーツだったのです。 1923(大正12)年生まれの作家・池波正太郎にとって、ホットケーキは子供の頃の憧れの味。池波は大人になってからも、ホテルの朝食にホットケーキを選び、子供の頃から愛していた万惣フルーツパーラー(現在は閉店)のホットケーキを食べました。 “私はホットケーキを食べてみて、これまた、 むかしのままの味わいが保たれていることに感心をした。持続の美徳が消滅しつつある現代日本では、奇蹟といってよい。 小麦粉、卵などの材料をとろりと練りあげ、厚い赤銅板へ落して焼きあげるにすぎないように見えるホットケーキなのだ”(池波正太郎『むかしの味』1984年刊) 100年の歴史があるアメリカンスイーツ各種 池波正太郎は子供の頃にアメリカブームの直撃を受けた世代。同じくアメリカ由来のクリームソーダ、ホットドッグも好物でした。 “私は銀座へ出るたびに、クリーム・ソーダを口にした。資生堂のみではなく、〔モナミ〕や〔エスキモー〕のクリームソーダも味わった” “こうしたわけで、六十に近くなったいまも、私はクリーム・ソーダが好きである”(『むかしの味』(前出)) “それと、上野駅前にあった地下鉄ストアの食堂のホット・ドッグ。胡椒のきいたホワイト・ソースがかかっている(中略)なんともいえずにうまかった”(池波正太郎『江戸前食物誌』1997年刊) 池波正太郎が通った万惣フルーツパーラーの“フルーツパーラー”も、アメリカのアイスクリームパーラーに由来する業態です。同じく池波正太郎が通った資生堂パーラーも、開店時の正式名は資生堂アイスクリームパーラーでした。 >>関連記事:フルーツパーラーの「パーラー」って何?パフェーやアイスクリームを出している理由とは フルーツパーラーや資生堂パーラーのパフェー、ショートケーキもアメリカ由来。100年前のブームで渡来したアメリカンスイーツは、現在もしっかりと根づいているのです。 参考文献: 『串かつの戦前史』 ■オールデイダイニング「パークサイドダイナー」 住所:東京都千代田区内幸町1-1-1 帝国ホテル東京 本館1F TEL:03-3539-8046 営業時間:7:00~22:00(L.O.21:30) アクセス:東京メトロ日比谷駅A13出口より徒歩3分 都営三田線 内幸町駅より徒歩3分 JR・東京メトロ有楽町線 有楽町駅より徒歩約5分 東京メトロ丸ノ内線・日比谷線・銀座線 銀座駅C1出口より徒歩5分 JR・東京メトロ銀座線 新橋駅より徒歩約10分 ■珈琲 ハトヤ 住所:東京都台東区浅草 1-23-8 TEL:03-3841-1779 営業時間:10:30~17:00(L.O.) 定休日:不定休 アクセス:つくばエクスプレス 浅草駅より徒歩3分 東京メトロ銀座線・都営浅草線・東武伊勢崎線 浅草駅より徒歩5分
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