一方的な「女性活躍社会」なんていらないし、信じない 私はただ普通に生きたいだけ――出生数90万人割れから考える
90万人を割った2019年の出生数。その背景にはいったい何があるのでしょうか。出生数の減少の背景には何があるのか 厚生労働省が先日発表した人口動態統計の速報値によると、2019年1~7月までの出生数は前年同期比5.9%減の51万8590人。これにより、2019年の出生数が90万人を割ることがほぼ確実視されています。国立社会保障・人口問題研究所(千代田区内幸町)は90万人割れとなるのは2021年と予想していたことから、出生数が推計よりもかなり速いスピードで減っていることがわかります。 閉塞感のただよう社会のイメージ(画像:写真AC) この背景には、人口の多い団塊ジュニア世代(1971~1974年生まれ)が40代後半となり出産期の女性が減ったことや、経済状況の悪化などが指摘されています。しかし、筆者のように子育てをしている身からすると、そのような大きな「枠組み」を語るだけでは少子化は解決できないと感じています。子育てをするには常に誰かに「許可」や「謝罪」を請わないといけないような雰囲気があるためです。 待機児童問題に隠れる専業主婦への侮蔑的な視線待機児童問題に隠れる専業主婦への侮蔑的な視線 妊娠中に体調を崩したことで仕事を辞め、現在は専業主婦として1歳の子どもを育てる筆者の友人Aが先日、「働いてくれる夫に感謝しているけど、世の中からも『そう思え』と言われてる感じがする」と言いました。そしてAは「もう専業主婦でいることが嫌だから、来年から働きたい」と言い、2020年の保育園入園を目指しているそうです。しかし保活激戦区と言われる杉並区在住のため、正社員ではない限り入園できる希望は薄いとのこと。 Aを見ていると専業主婦にならざるを得ない事情があるにもかかわらず、社会から「働かずに申し訳ありません」と言わされている苦悩を感じ、また専業主婦でいる許しを社会に請うているように見えます。 先日、ある人のツイート内容が話題となりました。発端となったツイートはすでに削除されていますが、一連を要約すると「平日の昼間に専業主婦とおぼしき複数人の女性たちが集まって、2~3000円のランチを食べていた。昼間からペチャクチャ喋ってるのを見ていると正直殴りたくなる」といったもの。 「専業主婦も立派な職業だ」「家事育児は仕事より大変だ」といった反論は、投稿者にまったく響かないでしょう。なぜなら、直接的な労働対価を得る“仕事”をしている人が絶対的に偉いという価値観が根底にあるからです。 Aはこのような視線を居心地悪く感じ、十分に家計が回っているにもかかわらず、子どもを保育園に預けて働くことで脱・専業主婦の「免罪符」を得たがっているのでしょう。仕事をしなければいけない経済状況の人が保育園に入れない待機児童の問題には、専業主婦への侮蔑的な視線も大きく絡んでいるのです。 しかし、筆者はAを否定的に捉えられませんでした。ツイートの投稿者に限らず、世の中全体が働くことを社会的価値の優位に置き、経済的に自立した大人を“社会人”として社会の中心に据える傾向が強いからです。その“社会人”の中に、専業主婦は入っていないのでしょう。 会社に子育ての許可を得る夫会社に子育ての許可を得る夫 先日、筆者が仕事で忙しくなる1週間以上前から夫に保育園のお迎えを頼みました。夫は激務のため、普段は筆者が保育園の送迎、夜ご飯の準備やお風呂、寝かしつけなどの家事育児を担っています。夫が仕事を早く切り上げて保育園のお迎えに行くのは、子どもを保育園に入れてから初めてのことでした。 育児をする男性のイメージ(画像:写真AC) 当日、「今後、もう少し夫に保育園のお迎えをお願いできるようになるといいな」と思いながら20時頃帰宅すると、筆者の未来予想図はガラガラと音を立てて崩れていきました。結果から言うと、筆者は「もう夫にお迎えをお願いするのはやめよう」という結論を得たのです。 「なんとか調整して17時半に仕事を切り上げてきた」という夫から話を聞くと、朝から上司や部下などに「子どもが昨日から入院していて……。妻も具合が悪くなってしまって……」と嘘をついたと言うのです。 「うちの会社は独身の男が多いし、『保育園のお迎え』なんて理由では帰れない。女性に向けられる視線とは全然違う。絶対に緊急で帰らなきゃいけない子どもの状態と、『奥さんは何してんの?』と言われない理由が必要だから」 筆者が真っ先に夫に感じたのは、「自分の仕事のせいで、会社で居心地の悪い思いをさせてしまった」でした。妻は夫に仕事をする許可を求め、夫は会社に子育てをする許可を求める――そうした空気を当たり前に受け入れている自分と、会社では忠誠心を求められ、家庭では家事育児を求められて板挟みになる夫がともにしんどくなる構造がそこにはありました。 働く母親を普通に扱ってほしいだけ働く母親を普通に扱ってほしいだけ 内閣府が2015年に発表した「少子化社会に関する国際意識調査」によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について「賛成」「どちらかといえば賛成」の合計が、男性で57.7%、女性で56.7%という結果になりました。詳しく割合を見てみると「賛成」が1~1.5割、「どちらかといえば賛成」が4~5割、「どちらかといえば反対」が2~3割、「反対」が1割、「わからない」が0.5割。男女差はあまりありません。 また2005(平成17)年の調査結果と比べてもすべての回答項目でほとんど変化が見られないことから、この先の10年も結果が劇的に変わるとは思えません。夫婦共働きや子どもが小さいうちから働く母親が増えても、日本人の半数以上が「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考えを持っているのでしょう。 一方で、巷にあふれる「女性が輝く社会に」「働くママを応援!」という言葉に、筆者は常々思うことがあります。 「応援とか輝きとか別にいらないから、普通に扱ってほしい」 と。働くママを応援するために働くパパも応援しないと意味がないし、女性が輝く社会とは男性も輝く社会ではないの? と。 きっと今は、「無職ですみません」と申し訳なさそうにしながら切り詰めた生活をする専業主婦と、子育てにノータッチでがむしゃらに働く夫というのが、世間的に“許される”子育て夫婦なのでしょう。だからこそ、その枠からはみ出している働く母親は「家庭も仕事も得ようとしてすみません」というスタンスの中、「応援」されなければいけない。応援されてやっと働いて子育てできる社会ではなく、普通に働いて子育てできる社会であるべきなのに。 筆者は「出生数90万人割れ」と聞いて、「むしろ今の社会で90万人弱も産まれているんだ!」と驚きました。専業主婦も働く母親も働く父親も、皆がしんどくなっている今の空気を変えていかない限り、ただでさえ人口が少ない中で「子どもが欲しい」と思う次世代はさらに減っていくはず。 あなたは今の社会をどう見ていますか?
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