緊急事態宣言の解除で、東京の女子大生が真っ先に「居酒屋」へ向かうワケ
新型コロナウイルス感染拡大に伴う「緊急事態宣言」が東京に発令されてから、はや2か月弱。デジタルネーティブと呼ばれるZ世代にも、だんだん「オンライン疲れ」が広がっているようです。外出自粛が明けたら、彼らが真っ先に行きたいという場所はどこでしょう。Z総研トレンド分析担当の道満綾香さんが、ヒアリング調査を基に分析します。ディズニーでも旅行でもなく 新型コロナウイルス感染拡大に伴う「緊急事態宣言」は2020年5月24日(日)現在、東京などの首都圏と北海道を除く42府県で解除され、東京など残る5都道県についても25日(月)に解除か否かの判断を政府が示す方針です。 少しずつですが以前の日常を取り戻しつつある今、Z世代(1996~2012年に生まれた若者たち)は、外出自粛が緩和されたらどこへ行きたいと考えているのでしょうか。 Z世代の流行や価値観について調査・分析を行っている私たち「Z総研」は、東京での宣言解除を前に彼らに対するヒアリング調査を行ってみました。 やはり友達と遊ぶこと。カフェでお茶したり、東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪市)などのテーマパークに行ったり、旅行に行ったりと、今まで我慢していた「外に出て遊ぶ」ことを思う存分楽しみたいという意見が数多くありました。 これらの意見は皆さんの想像通りではないでしょうか? しかし、意外にも外出自粛明けに1番行きたい場所として多く挙がった意見が「居酒屋」でした。 外出自粛が解かれたら、あなたが一番先に行きたい場所はどこですか?(画像:写真AC) 実際に居酒屋に行きたいと言う東京の女子大生は、こんな風に話しています。 「『Zoom飲み』は友達とかなりやったのですが、やはり飽きてきてしまいました……。居酒屋でしか味わえない雰囲気も懐かしいし、なにより友達と実際に会って騒ぎたいですね(笑)」 「逆に不便?」なオンライン「逆に不便?」なオンライン 自粛生活に入って以降、テレビ会議システムを使った「Zoom飲み」をはじめ、オンライン上での交流が若者の間で活発に行われていることはさまざまなメディアで取り上げられています。 Z総研も、2020年4月26日付の記事(「外出自粛で1日「スマホ10時間」な大学生を一概に批判してはいけないワケ」)などで、その様子を詳しくお伝えしてきました。 しかし緊急事態宣言下の生活が2か月近くに及ぶ今、前述の女子大生のように「オンライン飲み会に飽きた」や「Zoom疲れ」といった声が最近ちらほら聞かれ始めています。 オンラインでの交流やネットの扱いにたけているとされるZ世代でさえ、このような意見が出て来てしまっているのが現状です。 オンライン飲みも楽しいけれど……(画像:写真AC) こうした「オンライン疲れ」の理由として、オンラインだからこその利点が逆に「不便」につながっている、という意見が見て取れます。 3月から4月ごろにかけて、オンライン飲み会を初めて体験した若者たちがそろって口にしたメリットといえば、終電を気にしなくていい、お酒も自分のペースで飲めて気が楽、大人数で同時に話せる、といった点でした。 しかし、終電がないから終わりどきがわからない、飲み会で定番のゲームをしてもイマイチ盛り上がらない、通信にタイムラグがあるので会話のテンポが悪くなる……など、少しずつデメリットに気づき始めたようです。 また、Wi-Fiの調子が悪いと画面が固まって話せなくなってしまったり、会話が途切れ途切れに聞こえて何回も聞き直す羽目になったりと、本題の飲み会とは関係のないところでやりづらさを感じることもあるとのこと。 この、オンライン特有の気にしなければいけないこと・いつもと違うことに気を回すあまりに、思っている以上に気疲れしてしまうのだと彼らは言います。 おうちカフェに足りないものおうちカフェに足りないもの「モノより思い出」という、日産自動車のCMが放送され始めたのは1999(平成11)年。「モノ消費よりコト消費」という価値観に物心ついたときから接しているのがZ世代です。 彼らは体験に価値を感じ、ゆえに話題性のあるものを好む世代であると言われています。 「ソーシャルネーティブ」と呼ばれ、さまざまな物事に柔軟に対応し、話題のものをいち早くキャッチし、進んで新たな価値観や楽しみを作り出す世代ではありますが、それでもやはりオンラインでの体験(コト)はリアル(モノ)にかなわないのだと、彼らが感じたというのは大変に興味深い出来事です。 カフェに行けばコーヒーやスイーツの匂いが、テーマパークに行けばポップコーンの匂いが感じられてエリアBGMが聞こえ、旅行で立ち寄った海辺では磯の香りがする。その場に行かないと感じられないものがたくさんあるのだという、当たり前ではあるけれど日常から欠けてみて初めて気づく物事を、今回の自粛期間を通じて彼らは再発見したようです。 コロナ禍に気がついた、「#おうちカフェ」と実際のカフェの違いとは(画像:写真AC) その場の独特な雰囲気や、そこに行かなければ撮れない写真など、例を挙げたらキリがありません。 SNSでのハッシュタグ「#おうちカフェ」の投稿の熱はいまだ冷めやらないところはありますが、早く○○のカフェに行きたい、あそこのケーキが食べたい、そろそろ飽きた、といった投稿が増え始めているのも事実。 冒頭で紹介した「居酒屋に行きたい」という女子大生の願望も、「オンライン飲みも楽しいには楽しいけれど、なんだかんだでよく行っていた慣れ親しんだあのお店で、居酒屋独特のあのガヤガヤした雰囲気の中で、友達とお酒をめいっぱい飲みたい」という理由からでした。 お酒を飲み過ぎて体調を悪くしてしまったり、酔っ払って変なことをしたり言ったりしてしまった経験でさえ、今は戻ってきてほしい日常のひとつなのでしょう。 リアルあってこそのコト消費リアルあってこそのコト消費 東京での緊急事態宣言の発令から数えると、およそ2か月弱。 この間にZ世代は、まずオンラインで実現できることの多さ、オンラインの可能性をあらためて楽しみました。そして時間がたつにつれ、万能に思えたオンラインにも「リアルを代替できないもの」が(当然ですが)やはりあるのだということを、文字通り身をもって“体験”したようです。 これはおそらくZ世代に限らず、現代を生きるどのような年代の人にも言えることでしょう。 日産セレナという自動車も、ディズニーランドも居酒屋も旅行先の海も。「コト消費」とは実際のところ「リアルなモノ」があってこその「体験」なのです。 遠出ができるようになったら、また皆で海へ行きたい(画像:写真AC) 仮に東京の緊急事態宣言が解除されてもなお、都県をまたいだ外出や夜遅くまで好きなだけお店で飲食することは、もう少し先の話。まだまだ休業中の施設も多く、以前と同じ日常に戻るには長い道のりが待ち受けています。 ソーシャルネーティブのZ世代でさえ、オンラインでの交流や家に閉じこもって過ごすことに疲れが見えている現状。 1日でも早くかつての日常に戻るよう願っているという点においては、彼らもほかの世代と同じです。そしてそれまでの間に、クリエイティビティの高い彼らはまた新しい流行をSNSなどオンライン上で生み出すかもしれません。そうした動きにもZ総研は引き続き注目していきたいと考えています。
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