東京・北千住になぜか「氷川神社」が密集している理由
北千住駅周辺になぜか五つも 以前、千住かいわい(駅でいうと北千住)を調べていたとき、「あれ? この辺だけで氷川神社が五つもある」とびっくりしました。なぜここは氷川神社ばかりなのだろう、と思ったわけです。 調べるとすごいですよ。 ぱっとみるだけで、千住本氷川神社(足立区千住3)、千住氷川神社(同区千住4)、大川町氷川神社(同区千住大川町)、仲町氷川神社(同区千住仲町)と四つあります。 さらに、千住で一番古くて大きな千住神社(同区千住宮元町)がありますが、これはもともと「稲荷神社」と「氷川神社」が並んで「二つ森」と呼ばれていたのですが、大正時代にふたつがひとつになり「千住神社」と名前を変えたのです。 千住神社。稲荷神社と氷川神社が一緒になった千住で、もっとも古い神社(画像:荻窪圭) 千住本氷川神社と千住氷川神社って、名前が似すぎていてわけわかりませんよね。でも千住の歴史をひもとくと、なぜそうなったのかが見えてきます。 街道沿いでにぎわった千住宿 江戸時代、千住を五街道のうちふたつ(日光街道と奥州街道。この2本は途中まで同じルートでした)が通ってました。さらに千住を経由して、茨城県の水戸へつながる水戸街道や茨城県の下妻に通じる下妻街道もありました。江戸と茨城や奥州をつなぐ重要な街道だったのですね。 よって千住宿は大変にぎわいました。 本陣がある3丁目を境に、千住1丁目から5丁目まで町割りがなされ、それでは足りなくなり、南に「掃部宿(かもんじゅく)」が開かれ、それぞれに氷川神社が鎮座したのです。 千住3丁目の千住本氷川神社。写真は旧社殿(画像:荻窪圭) 千住1丁目と2丁目は千住神社。前身となる稲荷神社は平安時代の926(延長4)年、氷川神社は鎌倉時代の1279(弘安2)年に勧請(かんじょう。神仏の分身、分霊を他の地に移してまつること)されたといいます。 平安時代、奥州へ向かう源義家がここで陣を敷いたという伝説があります。北千住駅からは少し離れますが、ぜひとも訪問したいところです。江戸時代の地誌、新編武蔵風土記稿には稲荷と氷川が1丁目の鎮守とありますが、2丁目もこちらでしょう。 鎌倉時代創建の古い社も鎌倉時代創建の古い社も 千住3丁目は、千住本氷川神社(千住3丁目氷川神社)です。街道の1本西側の道沿いにあります。こちらは1.7kmほど離れたところにあった牛田氷川神社(鎌倉時代後期創建)の分社として江戸時代初期に創建されました。 千住4丁目は千住氷川神社(千住4丁目氷川神社)。こちらは江戸時代の1692(元禄5)年に創建されました。 千住5丁目は大川町氷川神社(千住5丁目氷川神社)で、鎌倉時代の1293年創建という古社です。 大川町氷川神社。元は千住5丁目にあった(画像:荻窪圭) 今は千住5丁目から少し離れた大川町にありますが、もともとはもっと近く(日光街道沿い)にありました。荒川放水路(現荒川)開削に伴って遷座(せんざ。神仏または天皇の座を他の場所に移すこと)し、大川町氷川神社となってます。境内には富士塚もあり登頂できます。 なぜ氷川神社なのか これで四つ。 残る仲町氷川神社は旧掃部宿にあります。新編武蔵風土記稿には2丁目から5丁目の鎮守と書かれてますが、掃部宿の鎮守でもあったでしょう。 仲町氷川神社(画像:荻窪圭) となると、なぜ氷川神社なのかが気になりますよね。ならないですか? わたしは気になったので考えてみました。 氷川神社の総本社は埼玉県さいたま市大宮区の氷川神社です。「大宮」とはこの氷川神社のこと。 江戸時代以前は、東京も埼玉も(神奈川県の一部も)合わせて武蔵国でしたから、武蔵国一宮である氷川神社が埼玉や東京には多いのですね。逆に、氷川神社は武蔵国の神社ですから埼玉と東京以外にはほとんどありません。 東京23区にある氷川神社は59社(荻窪圭調べなので漏れがあるかも)ですが、その分布はけっこう偏ってます。なんと足立区には20社もあるのですが、隅田川を隔てて隣接する荒川区や東側の葛飾区はゼロです。 鍵は「足立郡」にあり鍵は「足立郡」にあり なぜだろうと昔の地図を見ると、なんとなくわかってきました。 明治時代前期の千住宿。赤い丸が氷川神社。大川町氷川神社は旧地に印を付けた(画像:荻窪圭) 江戸時代以前は日本はいくつもの「国」(今でいう「都道府県と同じと思ってかまいません)に別れていて、国はいくつもの「郡」に分かれてました。東京都は豊島郡・荏原郡・多摩郡が中心ですが、足立区域は「足立郡」でした。 足立郡は北は埼玉県鴻巣市、南の端は東京都足立区という細長く広いエリアで、明治になって足立区域だけが東京府南足立郡、それ以外は埼玉県北足立郡と分かれたのです。 氷川神社がある大宮はかつての足立郡で、埼玉県の旧足立郡域には氷川神社がたくさんありますから、足立区に多いのもわかりますね。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を広げないために外出がはばかられる昨今ですが、そんなときこそこうして近所の神社について考察してみるのも一興かと思います。
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