犬や猫などのペットは、家族の一員として大切な存在となっています。ペットに求められる医療の高度化に対応するため、認定動物看護師から『愛玩動物看護師』という国家資格になることが決定しました。愛玩動物看護師は、認定動物看護師には認められていなかった採血や投薬、マイクロチップの装着などが、獣医師と同じくできるようになります。
では、業務が増える分、愛玩動物看護師の給料は今までに比べて変わるのでしょうか。今回は、現在の認定動物看護師と、これから制度が始まる愛玩動物看護師の給料について考えてみましょう。
動物看護師は国家資格になったら給料は変わる?
動物看護師が国家資格となったとき、給料に変化は見られるのでしょうか。動物看護師の事情と合わせて解説します。
現在の認定動物看護師は民間資格
現在、動物を扱う看護師の資格である、認定動物看護師は国家資格ではなく、民間資格です。動物看護師統一認定機構が定めるコアカリキュラム採用校で、所定のカリキュラムを修了し、認定機構が実施する試験の合格者を、認定動物看護師と呼んでいます。
2022年3月に行われた「動物看護師統一認定試験」では、合格率が89.86%と高い数値を記録しました。他の年での試験も、合格率が80%を超えており、比較的合格しやすい試験だと言えます。
認定動物看護師の資格があると、動物に関して専門的な知識を持っていることが証明されるため、就職時に優遇されることが一般的です。ただ、それ以外のメリットがほとんどないのも実情なのです。
認定動物看護師の資格がなくても働ける
現在の認定動物看護師は民間資格であるため、注射などの医療行為は許可されていません。認定動物看護師の仕事は、獣医師の診療行為の補助であり、具体的には以下の業務内容が挙げられます。
- 歯磨きや爪切りなどの指導・助言
- 日常生活に必要なしつけを教える
- 高齢者施設におけるアニマルセラピー活動
- 動物の飼育が困難な高齢者などに対する助言
- 災害発生時の地方自治体との連携協力
- ペットショップにおける食事相談
- 病院における一般事務(受付・電話・会計など)
上記を見てわかるように、認定動物看護師が、診療行為を行うことは許可されていません。資格を持っていなくとも、認定動物看護師と同じ仕事をすることは可能なのです。
現在の動物看護師の給与レベルは低い
現在の認定動物看護師の年収は、平均と比べて低くなっています。厚生労働省の調査では、認定動物看護師の平均年収は323万円との結果が出ています。日本の平均年収が433万円・看護師の年収が498万円であることを考えると、年収の低さが明確に表れているのです。さらに、動物看護師のおよそ2人に1人は、年収240万円未満であるとのアンケート結果も出ています。
動物看護師の給与が低いのは、民間資格である点が大きな理由だと考えられます。国家資格ではないことで社会的地位がはっきりしない上、資格を持っていなくとも同じ仕事ができることも、給与の低さと関係があると言われています。
また、健康保険などが使える人間とは異なり、動物病院では診療や治療費が全額自己負担となります。気軽に受診させることができないため、動物病院の売り上げも伸び悩むことが多いのです。
近年においては、ペット保険ができたことで、以前よりもペットの医療が受けやすくなってきています。このことが、動物看護師の待遇向上につながるのを期待したいものです。
2023年から国家資格試験が始まる
2022年5月1日に、愛玩動物看護師法が施行されたことで、2023年から、愛玩動物看護師の国家試験が始まることが決まりました。2023年2月19日(日)に、1回目の国家試験が実施される予定です。
国家試験を受験するには、愛玩動物看護師養成所において、教育を3年以上受けることが必要です。既卒者・在学者・現任者などは、2027年4月末までに講習会を受けるか予備試験に合格するかのいずれかで、受験資格が得られます。
国家試験における出題範囲は、計24科目で、解答はマークシート方式になる予定です。200問から240問程度の問題数となるため、問題数のボリュームが多い国家試験と言えるでしょう。
国家資格を取得するとできる仕事の範囲が広がる
愛玩動物に含まれるのは、犬・猫・愛玩鳥(オウム科・カエデチョウ科・アトリ科)です。愛玩動物看護師において、資格を取得することによって、これまで獣医師のみに認められていた業務の一部が、獣医師の指示のもと看護師でも行うことができるようになります。認められる業務は、以下のとおりです。
- 診療の補助(採血・投薬・カテーテルを使った採尿・ロジック挿入など)
- その他の看護(診断を伴わない検査・入院している動物のお世話など)
仕事の範囲が広がる分、感じるやりがいも強くなり、モチベーションが上がることにもつながります。一方、責任も重くなるため、自覚しながら仕事をする必要があるのです。
国家資格を取得したとしても給料が上がるとは限らない
動物病院の給料は、病院の経営者や院長が決めています。個人経営が多い動物病院では、動物看護師の資格が、国家資格になったり、ペット保険の利用者が増えたりしても、すぐに給料を上げられないと考えている可能性もあります。国家資格を取得することで、給料が上がるとは言い切れませんが、可能性が全くないとも言えません。
動物看護師の人材確保のために、資格を持っている人と持っていない人で待遇面の差別化が行われる可能性は十分考えられます。今後の状況を注視していくとよいでしょう。
どうしても状況を知りたい場合は、直接経営者や院長に尋ねてみるのが得策です。
愛玩動物看護師国家試験を受験する
先ほど紹介したように、愛玩動物看護師において、国家試験は2023年から始まります。国家試験の受験を検討するのに、以下の点をふまえておくと良いでしょう。
愛玩動物看護師の国家資格はとるべき?
今までの認定動物看護師は、民間資格であるため、動物に対する診療行為が認められてはいませんでした。愛玩動物看護師において、国家資格ができることで、獣医師が行っていた診療行為の一部が、獣医師の指示のもとで補助として行えるようになります。
愛玩動物看護師については、業務独占資格になるため、資格を持たない人物が愛玩動物看護師と名乗ることは禁止されます。資格の取得により、今までと比べ動物看護師の業務の幅が大きく広がるほか、社会的な信用度も高められます。
現在、認定動物看護師として働く人や、学生の人に対しては、法律施行から5年間は経過措置が取られます。スキルアップのためにも、できるだけ取得しておくことをおすすめします。
愛玩動物看護師国家試験の受験資格
愛玩動物看護師において、国家試験を受けるには、以下のいずれかの要件が必要です。
- 5年間の実務経験を経た上で、予備試験に合格する(無資格および未経験者)
- 愛玩動物看護師養成所(動物看護専門学校や動物看護大学など)で3年以上学ぶ
実務経験が5年未満であっても、農林水産大臣が5年間の実務経験と同等以上の経験を持っていると認めれば、予備試験を受けられます。学校で学んでから受験資格が与えられる方式は、多くの国家資格で取り入れられている流れです。
上記の要件は、愛玩動物看護師法の施行日にあたる2022年5月1日以降に該当します。すでに認定動物看護師として5年以上働いている人は、講習会と予備試験を受けると、国家試験を受験できます。養成所で一定のカリキュラムを学んだ人は、講習会を受けると国家試験にチャレンジできます。これらの経過措置は、法律施行から5年間に当たる2027年4月末まで受けられます。
試験対策は問題&解説集で
愛玩動物看護師において、国家試験は、2023年から始まるため、出題される科目は決まっているものの、具体的にどのような問題が出るのかは分かりません。過去問題もないため、試験対策の取り方に迷う人もいるでしょう。
試験対策には、市販のテキストを使うほか、認定動物看護師試験の過去問題に取り組むのがよいでしょう。認定動物看護師の試験と同じく、認定試験機関として、動物看護師統一認定機構によって指定されているため、今までの認定試験から大きく外れる傾向は少ないと考えられています。ただ、民間資格から国家資格に関わることで、今までよりも高いレベルを想定した準備が必要です。
公益社団法人日本動物病院協会が、オンラインで国家試験対策セミナーを開催するので、活用するのもひとつの方法です。
国家試験に合格したら転職も視野に入れる
愛玩動物看護師において、資格取得によって、現在働いている職場での給料が上がるかどうかは、経営者の判断によります。給料を上げるには、資格に加え自分が持つスキルを磨いておくことも重要です。
現在の職場で給料アップが見込めないのであれば、ほかの動物病院やペットホテル、動物介護施設、学校などの教育機関、一般企業など、転職も視野に入れて考えてみましょう。
転職先を検討する時には、給料の他に福利厚生や職場環境なども含めて、総合的に考える必要があります。給料が上がっても、勤務時間が大幅に伸びたり、休みが取りにくかったりすると、働きやすい職場とは言い難いでしょう。
現在の認定動物看護師の仕事は、離職率が高いと言われていますが、原因のひとつが給料の低さなのです。愛玩動物看護師として、国家資格に加わることで、採血やマイクロチップ挿入など、独占業務ができるようになるため、専門性の高い仕事となります。市場価値が上がることから、愛玩動物看護師に対する需要も高まり、給料アップを検討する経営者が増えることを願いたいものです。
動物看護師って就職・転職しやすい?
動物看護師の仕事は、就職先や転職先が見つけやすいのでしょうか。就職・転職事情について見てみましょう。
動物看護師の求人は多い
一般社団法人日本動物看護職協会において、アンケートでは転職の経験を持つ人の割合がおよそ4割というデータがあります。動物看護師の仕事はとてもハードであるうえ、個人で経営する動物病院では、動物看護の仕事に加え受付や会計、電話などの一般事務もこなす必要があります。仕事内容と給料が見合わないことで、離職率が高まる傾向があるのです。この事情から、有効求人倍率は1を超えています。
動物看護師の雇用形態は?
動物看護師の雇用形態は、およそ9割が正規雇用です。このうち、ほとんどの人が動物病院をはじめとする動物診療施設で働いています。
1日の勤務時間は、8時間から9時間未満と答える人が最も多かったのですが、中には14時間以上働いているという答えも見られました。給料が見合わないと感じながらも、毎日長時間働いている動物看護師の実態が浮かび上がっているのです。
動物看護師として働くことに将来性はある?
ハードな職業であるにも関わらず、給料面や待遇面で不安に感じることもある動物看護師ですが、将来性から見た動物看護師の仕事は、どのようになっているのでしょうか。
ペットを人間と同様に大切にする文化のなかでニーズは拡大する
ペットを家族の一員とし、人間と同様に大切にする傾向は、近年ますます強くなっています。動物看護に対する重要性が上がる一方、動物看護師としての技術水準が一定でなかったり、業務ができる環境整備が追い付いていなかったりと、動物看護を行う環境が整備されていませんでした。
ペットが、少しでも長く人間と一緒に暮らせるよう、動物医療の技術は以前に比べ格段に進歩しています。さらに、ペットの高齢化により、人間と同様ダイエットの指導や定期健康診断など、ペットの健康に対するニーズも多様化しています。これらの役割を果たすのに、動物病院は大きなウエイトを占め、そこで働く動物看護師の活躍の場も広がっていくのです。
動物看護師の国家試験化が転機になる可能性
動物看護師の資格が、国家資格にあたる、愛玩動物看護師に変わることで、今まで行えなかった医療行為が行えるようになります。このことで、動物看護師のスキルや知識の向上および均一化が見込まれています。人間の看護師と同じく、動物看護師も専門性の高い仕事と認められ、労働環境の見直しおよび働き方の変化が起きると期待されているのです。
動物愛護の先進国といわれる、イギリス・スイス・ドイツ・イタリアなどでは、法律に動物保護の条項が組み込まれているのが現状です。特にスイスやドイツでは、犬を飼うのに資格が必要なほどです。イギリスでは、動物の飼育・販売・利用に関する法令の数が70を超えています。
日本でも、諸外国と同じように、動物愛護に対する法律が少しずつ整備されています。このタイミングで、動物看護師の資格が国家資格となることで、資格の認知度が格段に上がると考えられています。
まとめ
今回、愛玩動物看護師という新設される国家資格についてを詳しく解説してきました。これからスタートする国家資格であり、動物看護師を取り巻く環境がどのように変化していくかは未知数の部分もあります。
ただ、動物看護師の将来性は大きく広がると考えられており、職業の社会的地位向上にもつながります。動物に対する医療行為の一部が行えるようになることで、専門性が高い仕事となり、需要も高まっていくことでしょう。
動物看護師が給料を上げるには、まずは愛玩動物看護師の資格取得に向け勉強しましょう。その上で、日々の業務からスキルを磨き、経験を積んでいくことが大切です。ペットの健康や命を守るために、できることから取り組んでいきましょう。