公認会計士(CPA=certified public accountant)は、日本の国家資格の中でも特に難易度が高く、トップクラスの資格と言われています。会計のプロフェッショナルという業務の専門性の高さから、売り手市場の状況が続いている資格です。
公認会計士としてのキャリアを広げたいと考えたときに、気になるのは英語力です。英語力を評価するテストとしてTOEICが有名ですが、TOEICのスコアによって評価やキャリアプランなどが変わってきます。
公認会計士がグローバルな働き方を目指すのに、英語力は必要なのでしょうか。また、TOEICのスコアをどの程度まで目指すと良いのでしょうか。本記事では、公認会計士が目指したい英語のスキルについて解説します。
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公認会計士に英語は必要?
公認会計士は、監査法人をはじめとして、会計事務所や外資系企業などさまざまな企業で仕事を行っています。公認会計士の仕事をしたり公認会計士の試験を受けたりするのに、英語は必要なのでしょうか。それぞれの場面における英語の必要性について解説します。
監査法人の仕事は英語が必要?
公認会計士の仕事そのものには、英語力は必要とされません。国内の監査法人で、日本企業や外資系企業の日本支社など日本人の顧客がメインであれば、日本語でやり取りを行うためです。監査法人への応募時に、エントリーシートなどでTOEICのスコアを問われることはありますが、英語のレベルを把握するためであり、必ずしも業務に直結するとは限りません。
また、新人時代に英語を必要とする仕事があっても、新人の公認会計士に任せることはほとんどなく、英語が得意な先輩公認会計士が行います。このため、英語力に多少不安があっても、日本国内で日本人顧客を相手として公認会計士の仕事をするには、支障がないと考えられます。
ただし、経験を積み昇格するにつれ、外国人と交渉する機会も増えてくるため、英語の高いスキルが求められるようになってきます。業務の合間の時間を使って、英語スキルを高めておくことが大切です。
公認会計士試験に英語力は必要?
公認会計士の試験科目は、以下の通りです。
短答式試験(4科目)
論文式試験(5科目)
- 会計学
- 監査論
- 租税法
- 企業情報
- 選択科目(経営学・経済学・民法・統計学のうち1科目)
短答式試験に合格すると、論文式試験の受験資格が得られます。試験では公認会計士としての知識が問われるため、科目に英語は含まれておらず、試験において英語力が問われることはありません。このため、英語が苦手であっても、公認会計士を目指すことは十分可能です。
一方、将来を見据えたときにグローバル企業を担当したり活動範囲を海外に広げたいと考えているのであれば、試験勉強とは別に自ら英語を勉強する必要があります。
採用面接でも英語力は問われない
試験と同じように、採用時の面接においても、必要以上に英語力が問われることはありません。公認会計士としての仕事の取り組みを問われるため、英語のスキルが足りないだけで面接が不合格になることは少ないでしょう。
ただし、通常業務で英語を使う部署を希望するのであれば、英語のスキルは必須です。公認会計士としての仕事の中で、自分がどの分野を目指したいのかを考えてみると、目標に対するスキルアップの方向性が見えてくるでしょう。
英語ができる公認会計士はやっぱり強い
公認会計士の仕事において、英語は必須ではないとはいえ、英語のスキルが高いと大きな強みにできます。どのように強みにできるのか、具体的に解説します。
BIG4への就職に有利
監査法人の中でも、外資系は英語力が必須となるため、英語は大きな強みになります。
特に、BIG4と呼ばれる以下の4つの監査法人は最大手であり、採用や昇格の条件として600点から700点台以上のTOEICスコアが求められます。
- 有限責任あずさ監査法人
- EY新日本有限責任監査法人
- PwCあらた有限責任監査法人
- 有限責任監査法人トーマツ
BIG4のいずれにおいても、世界中の事務所と連携をして業務を行うため、日々の業務で英語を使って業務メールやレポーティングなどの作成およびコミュニケーションが必須です。また、経験を積んでいくうちに幹部候補に挙げられると、世界的な研修プログラムへの参加や海外事業所への派遣などの可能性も高くなってきます。幹部へ昇格するにつれ、海外展開を広げるグローバル企業のコンサルティングを担当する場合もあるため、高い英語力が必要です。
さらに、英語力を高めることで、公認会計士としての業務に加えて仲間とのグローバルなコミュニケーションも円滑に取れるようになり、業務においてより良い成果を目指せるようになります。
キャリアアップへの道 国際部で活躍
BIG4以外であっても、監査法人の国際部で活躍するためには、高い英語力が必要です。国際部では、グローバルに業務を行っている日本企業もしくは外資系企業の日本支店が往査先となることが多く、配置された当初は日本人を相手に監査業務を行うことが一般的です。
ただし、日本国内にある企業であっても、上層部や経営陣に外国人の方がいらっしゃることも珍しくありません。マネージャーやパートナーなどに昇進するにつれ、経営陣と直接コミュニケーションを取る際には、英語が必要となってきます。海外の事業所に出向くと、日本人がいない場合があるのはもちろんのこと、監査チームが国をまたがって構成されていると、書類の内容を理解するリーディング能力だけでなく、より高度なコミュニケーション能力やレポーティング能力が要求されるようになります。
国際部での活躍には、TOEICスコアが800点程度必要だと言われています。国際部で働くことにより英語力をさらに磨くことができるのは、将来に向けた大きな強みです。
国内の大手クライアントのパートナーになれる
国内にある大手企業の中でも、国際的な事業展開を行っている企業では、国際財務報告基準(IFRS)および米国会計基準(USGAAP)を会計監査基準に定めているケースが多く見られます。両基準は日本の会計基準と内容が異なるため、日本の会計基準による決算書をIFSR・USGAAPに合うよう作り変える・もしくはその反対の作業が必要となります。
決算書を作り変えるには、日本語と英語のどちらの能力も必要であるのに加え、最新の会計情報について英語で理解できるようにしておかなくてはいけません。IFSRおよびUSGAAPの原文を英語で理解できるスキルは、公認会計士にとって大きな武器となるのです。クライアントからも信頼されるようになり、良きパートナーになれるでしょう。
海外企業に関係するM&A
M&Aは、事業拡大や経営戦略を行う手法のひとつとして、海外の企業を中心に行われてきました。近年では、日本国内においても、M&Aにより海外企業を買収する・もしくは買収されるケースが増えてきました。M&Aを行わなくとも、海外企業に投資するケースもありますが、どちらの案件であってもコンサルティングをするのに高い英語力が求められます。
M&Aを行う前には、現地の監査チームから企業情報を事前に収集しなくてはならず、現地とのやりとりにおいて英語が必要です。投資の場合も、同じように企業の情報収集が必要であり、投資に値する企業かどうかを判断するには、正しく英語を読み取らなくてはいけません。高い成果を生み出すために、公認会計士に対して英語スキルが求められるのです。
監査法人内でのキャリアアップにつながる
公認会計士試験に合格した後の実務経験は監査法人で経験を積む人が最も多くなっていますが、英語力は、監査法人内でのキャリアアップに必須のスキルとされています。
先述したM&Aは、今やどの企業でも考えられるケースですが、担当企業がM&Aの対象となると、新しい業務経験ができるチャンスがあるにも関わらず、英語ができないという理由でチャンスを逃してしまうのはとてももったいないことです。
また、グローバル企業を担当する国際部での経験により、英語のコミュニケーション能力や海外文書を読みこなせる力をつけることは、昇進および年収アップにつながります。
ハイキャリア転職が可能
公認会計士が高い英語力を持っていると、監査法人からさらに成長し、高収入な職業への転職を目指すこともできます。目指せる職業の一部を紹介します。
FAS:ファイナンシャルアドバイザリーサービス
FASとは、企業の会計や財務についての課題解決を目的として、M&Aを中心に提案やコンサルティングなどを行う業務です。業務の一部として、以下の内容が挙げられます。
M&Aに向けて、対象企業の経営状態及び財政状況を調査し、経理処理や取引において不正な点がないかを確認する業務です。
M&Aを行うのに必要となる、対象企業の価値を評価する業務です。これから先のキャッシュフロー計画を分析することから、会計監査とやや異なる業務と言われています。
M&Aに向けた戦略策定から始まり、戦略の実行、実行後のサポートまで、トータルで扱うアドバイザリーサービスです。
BIG4系列では、それぞれFASを構えており、国際的なM&Aも扱っています。海外企業とのやり取りの中で、英語の文章や英会話などで高いコミュニケーション能力が求められます。
BIG4系列のFASの年収は、30歳前後で700万円から900万円ほどと言われています。アナリストでは500万円から700万円ほどですが、パートナーになると2,000万円以上に達するとされているのです。中小および独立系のFASでは、30歳前後で600万円から800万円ほどが相場と言われています。
投資ファンド
投資ファンドとは、投資家から集めた金銭を不動産・証券・事業などに投資し、得た配当やリターンを分配する運用会社をさしています。投資対象は、国内・海外で幅広く設定されており、ファンドによって種類や運用規模などは大きく開きがあります。
投資ファンドでは、海外のファンドに対して難易度の高い英語を使った交渉を行うことも珍しくありません。ただし、公認会計士は、英語を話せるだけで投資ファンドに転職できるのではなく、会計や税金についての知識を最大限に活用したうえで、大きな利益を生むための交渉能力が求められるのです。
投資ファンドの年収は、見習いの場合が500万円から800万円ほど、管理職になると800万円から1,500万円ほど、役員階級では運用収益によって数千万円から数百億円に達する場合もあります。投資という性質上、成功の度合いによって収益も大きく変わり、年収にも影響を与えるのです。
グローバル企業
グローバル企業は、複数の国に拠点を持っていることから、日本企業で働くよりも必然的に海外とのネットワークが強くなります。特に、企業の管理部門(内部監査・経営企画・経理財務)は、海外とのやり取りが非常に多い業務であり、公認会計士のスキルを発揮できます。
グローバル企業では、社員の国籍やビジネス展開もさまざまであり、業務の進め方や価値観などが日本企業と大きく異なるケースもあります。業務を円滑に進めるためには、日常のコミュニケーションも大変重要であり、高い英語力がポイントとなるのです。求められるスキルとして、800点以上のTOEICスコアやビジネスレベルの英語力などが挙げられるのも、業務とコミュニケーションの両方において必須のスキルであるためです。
企業規模にもよりますが、年収1,000万円を目指せることもあります。公認会計士としてのスキルと英語のスキルを両方高め、年収アップも期待できます。自分自身の可能性に挑戦するのに最適な環境だと言えるでしょう。
英語を活かした公認会計士資格でチャンスが広がる
さらに、英語を生かして国際的に活躍するための会計士の資格として、以下の二つの資格があります。資格取得により、ビジネスチャンスを広げられるため、ぜひ挑戦してみましょう。それぞれの資格について、詳しく解説します。
USCPA
USCPA(米国公認会計士=U.S. Certified Public Accountant)とは、アメリカ認定の公認会計士資格です。アメリカの資格であるものの、世界中の人たちが資格取得に向け日々勉強を行っているため、世界で広く知られたビジネス資格のひとつとなっています。
USCPAの試験は、日本国内でも受験が可能であり、学習により会計・経済学・ファイナンスなど幅広い知識を身につけることができます。日本の公認会計士の試験と大きく異なるのは合格率であり、日本会場におけるUSCPAの合格率はおよそ41%となっていますが、これは資格取得後もレベルアップしていくためです。
USCPAの試験で求められる英語のレベルは、それほど高くありません。会計に関する英語の専門用語を理解していれば、文法面では特に問題はないでしょう。USCPAの資格を実務に活かすには、公認会計士の資格を取得し、さらなるプラスの資格として取得するのが近道です。
ACCA
ACCA(イギリス勅許公認会計士資格= the Association of Chartered Certified Accountants)とは、イギリスにおける公認会計士の資格です。日本では、USCPAの方が知名度が高く、ACCAはマイナーな試験だと言われています。
ACCAの特徴は、USCPA同様合格率が高い点であり、確実に勉強すれば合格が目指せます。ACCAの会計知識は国際会計基準が基準となっており、ACCAを勉強することで国際化の流れにのれるようになるのです。
日本でも、国際会計基準の導入が進められているため、言語知識の取得が必須となってきます。ACCAの資格を取得すると、他の国でも公認会計士として働けるようになるため、世界各地で受験できるような体制づくりが進められています。
一部の科目については、日本(東京)でも受験が可能です。日本以外では、香港・マレーシア・シンガポール・インドネシア・ベトナム・カンボジアなどでも受験できます。日本で公認会計士の資格を取得したうえで、ACCAの資格も取得すると、活躍の幅をさらに広げられるのです。
公認会計士が活躍するための英語力の基準は?
公認会計士に必要とされる英語力を解説してきましたが、具体的にどの程度の英語力を目指すと良いのでしょうか。就職・転職それぞれの場面で有利になる英語力は異なりますので、詳細を知っておきましょう。
公認会計士の就職で有利な英語力
公認会計士の資格を取得し、監査法人へ就職する際に、エントリーシートにTOEICのスコアを記載します。このスコアを参考にして配属先が決まりますが、通常であれば大きな影響はありません。スコアが影響するのは、海外企業を多数クライアントに持つ監査法人や特定の場所のみだと言われています。
就職先としてBIG4を選ぶ・もしくは国際部を希望するなどの場合には、TOEICのスコアが500から600ほどあれば問題はありません。就職時点では、英語スキルよりもコミュニケーション能力の方が重視されるためです。実際に仕事を始めてから英語を身につけていくことで、さらなるステップアップが目指せるでしょう。
転職で有利になる英語力
転職では、すでに実務経験を持っているため、就職と異なり高いTOEICスコアが求められます。英語を使って、公認会計士としての仕事をしたい場合は、スタートラインに立てるスコアが700点だと言われています。最初から海外での仕事を見据えて転職活動をする場合は、850点から990点(満点)が必要です。
ただし、TOEICで高スコアを出していても、実務において電話会議などでコミュニケーションを取るのが難しい場面もあります。高スコアを目指すのと同時に、日頃から英語に多く接することで、英語力をアップするのに役立つでしょう。
公認会計士予備校の資料請求はこちら
まとめ
本記事で紹介したように、国内で日本人相手に公認会計士の仕事をする時には、英語を使う場面はほとんどありません。しかし、海外での仕事を見据えキャリアアップを目指すのであれば、英語のスキルは必須です。スキルを高めることで、難易度の高い転職が目指せるようになり、さらなるチャンスを広げられます。
英語のスキルを高めるためには、日頃から実務経験を積むのと並行してTOEICの勉強をするのがおすすめです。さらに、USCPAやACCAなどの資格にも注目し、知識を積み重ねていくのが良いでしょう。英語を勉強しスキルを高め、公認会計士としての可能性に挑戦してみてください。