「神田小川町の地中には……」
<桜の樹(き)の下には屍体(したい)が埋まっている>
と書いたのは、大正後期から昭和前期にかけ20編ほどの作品を遺した小説家、梶井基次郎。
この有名な書き出しのフレーズを想起させるようなつぶやきとともにアップされた1枚の画像が今、ツイッター上で話題となっています。
「神田小川町の地中には不明な管がたくさん通っている」――
電線、水道管、そのほかは?
投稿したのはアニメ作品などの背景美術を手掛ける大久イ呆(聡)さん(@satosisatosi89)。画像には、一部舗装された跡が残る歩道と黄色い点字ブロック、そしてナゾの白い書き込みの文字が写されています。
千代田区神田小川町の路上で発見されたナゾの書き込み(画像:大久イ呆(聡)さんのツイート)
向かって左側の「E」という書き込みは電線(Electric)、右側の「W」は水道管(Water)を表しているようですが、EとWの間にある「不明」「不明」「不明4本」の正体は、文字通り、不明。
どうやらこの道路の下の地中には、用途不明の配管がいくつも通っているとみられるのです。
「ほかにも無数にある」との見解も
これを見たフォロワーたちは、
「なんだか怖い」
「いったい何が埋まっているの?」
「今使われているものかどうかも分からないのかな」
と興味津々。2021年8月12日(木)18時時点で1.3万件もの いいね が集まりました。
なかにはこうした工事施工に詳しいフォロワーもいて、
「試掘した跡が残ってるな」
「都市部には古い管や線が撤去されず埋まってるんだよな」
「図面にない不明管はけっこうあるものです」
「すでに使用していない配線配管を全て掘り返して撤去なんてしないから、増える一方。無数にあるだろうね」
「東京の地下開発・ボーリングは埋没管との戦いでもある」
といった見解も寄せられています。
都内にはいくつもの遺構が眠っている
大久イ呆(聡)さんによると、画像を撮影したのは2021年8月2日(月)の未明、3時21分。
千代田区神田小川町の靖国通り南側歩道。都営新宿線の小川町駅と東京メトロ丸ノ内線淡路町駅の出入り口付近で見つけたものだといいます。
「地下に限らず都内には歴史上さまざまな遺構やトマソン(※)があることは知っていましたが、『不明』とストレートに表現されたその様、しかもその数に思わず笑ってしまいました」
と、発見時の感想を語ります。
※トマソン:都市の中にある、不動産と一体化しつつも「無用の長物」となった階段やドアなど建築物の一部
深夜に歩くからこそ見えてくるもの
誰かのいたずら書き……ではなく、公的な管理者による書き込みか否かについては、
「“不明”です。ただ後から少し調べてみると、地面にこのような図を描くことは工事の現場ではままあることのようで、現場の状況から見てもいたずらでは無いと私は考えます」
と大久イ呆(聡)さん。
それにしても未明の3時過ぎにこの場所を歩いていたことも、別の意味で驚きです。大久イ呆(聡)さんは深夜散歩が好きだそうで、
「普段人があふれている街をゆっくり散策できるのが魅力です。密を避けるべき時勢にも合っていると感じます」。
「深夜にもかかわらず明かりがともるダイナミックなビル群と、静まり返った下町や問屋街の対比が楽しいですし、江戸時代から残る石垣や地形、明治から昭和の近代建築の遺構や名残を思いがけずに発見できるのも魅力だと思います」
と話しています。
冒頭で触れた梶井の『桜の樹の下には』の文中には、次のようなくだりもあります。
<毛根の吸いあげる水晶のような液が、静かな行列を作って、維管束(いかんそく)のなかを夢のようにあがってゆくのが見えるようだ>
地中深く埋められた神田小川町の不明管には、かつてどのような物質が流れていたのでしょうか。