世田谷にあるのになぜ“多摩”? ユーミンがOGの「多摩美術大学」とはどのような大学なのか
名門美大として知られる多摩美術大学。その歴史と校名の不思議について、教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。本部は世田谷区上野毛 美術大学のなかでも高い知名度を誇るのが、多摩美術大学(世田谷区上野毛)です。同大は広大な八王子キャンパス(八王子市鑓水)を持つことから、 「キャンパスが八王子市にあるから“多摩”美術大学」 と思っている人も少なくないでしょう。 しかし八王子キャンパスが本格的に開校したのは1971(昭和46)年と遅く、学校自体の歴史がスタートしたのは、本部を置く上野毛キャンパスなのです。 世田谷区上野毛にある多摩美術大学(画像:(C)Google) 前身の多摩帝国美術学校が設置されたのは1935(昭和10)年で、その地は現在の上野毛キャンパスと同じ場所です。初代校長には、日本のグラフィックデザイナーの先駆者として知られる杉浦非水(ひすい)が就任。杉浦はこのほかにも図案科の主任も兼務していたため、一般的に 「多摩美術大学 = グラフィックデザイン」 という印象が強いのは、こうした歴史的背景が大きく影響しています。 なお多摩帝国美術学校の前身は帝国美術学校で、これが帝国美術学校と多摩帝国美術学校に分裂。分裂後の帝国美術学校は現在の武蔵野美術大学(小平市小川町)につながることから、国内有数のふたつの美術大学が同じルーツを持つことになり、とても興味深いです。 そんな多摩美術大学は美術学部のみの単科大学で、 ●美術学部 ・絵画学科(日本画専攻・油画専攻・版画専攻) ・彫刻学科 ・工芸学科 ・グラフィックデザイン学科 ・生産デザイン学科(プロダクトデザイン専攻・テキスタイルデザイン専攻) ・環境デザイン学科 ・情報デザイン学科(メディア芸術コース・情報デザインコース) ・芸術学科 ・統合デザイン学科 ・演劇舞踊デザイン学科(演劇舞踊コース・劇場美術デザインコース) に4459人の学部生が学んでいます(2021年度)。 さまざまな分野で活躍する卒業生 多摩美術大学からは日本を代表するファッションデザイナーの三宅一生や、広告や出版などでデザイナーとして活躍する人材を数多く輩出しています。 また多種多様な学科を擁しているため、美術のみならず芸能や作家、漫画など幅広いジャンルで卒業生が活躍しています。 例えば、70年代から音楽シーンの第一線で活躍している松任谷由実は、絵画学科日本画専攻に在学中、デビューしています。歌もさることながら、多くの人の度肝を抜くようなコンサートの演出でも度々話題を集め、その芸術的センスを垣間見ることができます。 松任谷由実(画像:TOKYO FM) 俳優の竹中直人は2年間の浪人生活を経て、グラフィックデザイン科に入学しています。映像演出研究会に所属して演劇活動をする傍ら、当時人気を集めていた素人参加型のお笑いテレビ番組に頻繁に出演していました。 このように斬新で先進的なイメージがある一方、有田焼の代名詞でもある柿右衛門の14代酒井田柿右衛門が日本画学科で学び、卒業していることも忘れてはなりません。 コロナ禍で模索する芸術、演劇活動 東京都内の大学は2020年から、新型コロナウイルスの感染拡大という大きな難題を突き付けられています。 オンライン授業である程度代替できる学部学科もありますが、実技の多い美術大学はコロナ禍で創作活動や演劇活動を維持していくことは困難です。 多摩美術大学のウェブサイト(画像:多摩美術大学) そんななか、多摩美術大学では学生たちのキャンパス立ち入り禁止や行動を大きく制限することなく、感染症予防を徹底。活動しやすい環境の整備に率先して取り組んでいます。 学校医(感染症専門)、看護師、教職員で構成する「PNN委員(新しい日常を推進する委員会)」と「オンライン対応委員会」「留学生対応委員会」の三つの委員会を立ち上げてコロナ対策を行い、都内の他大学同様、希望する学生に対するワクチン接種もスタートしています。 美術の枠にとどまらない就職先美術の枠にとどまらない就職先 美術大学の卒業生というと、芸術家や美術教師になる人が多いような印象があります。しかし、多摩美術大学では広告代理店のほか、トヨタを始めとする自動車会社、大手家電メーカー、そして近年ではアクセンチュアといったコンサルティング会社への就職実績があります。 学生が多種多様な企業へ就職していることは、グローバル化や、コロナ禍で混迷する社会を生き抜くために、多くの企業が独創的な発想や表現力を持つ人材を求めている証しといえます。 上野毛キャンパスと多摩川の距離(画像:(C)Google) 最後に、冒頭の「本部は世田谷区なのになぜか“多摩”美術大学」問題ですが、早速、多摩美術大学に問い合わせたところ、 「校名は近くを流れる多摩川から」 とのことでした。
- ライフ
- 上野毛駅