憧れの街・世田谷にうごめく過激な「マウント合戦」――区民じゃないと分からない複雑さとは?

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憧れの街・世田谷にうごめく過激な「マウント合戦」――区民じゃないと分からない複雑さとは?

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岩本信彦

フリーランスライター

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東京23区の中でも「住んでみたい憧れの街」として常に上位にランクインする、世田谷区。区内に住めるならどこでもいい! と思う人も多いはずですが、区民同士の間では熾烈な「マウント合戦」が存在しているもよう。いったいどういうことなのでしょうか。

都心3区に比べて落ち着いた印象だけど……

 世田谷といえば東京23区内でもとりわけ住環境の良い地域として知られています。

 千代田区・港区・中央区のいわゆる「都心3区」などと比べるとギラついた感じが少なく、一方で「世田谷に住んでいる」と言えばなんとなく聞こえが良いのは今も昔も変わりません。

三軒茶屋と下北沢。同じ世田谷区内にある人気の両エリア。住民同士の思いとは?(画像:写真AC)



 そんな世田谷区ですが、同区内でも住む街次第では予期せぬ“マウント”を取られることがあります。

 自分の住む地域に誇りと愛着を持っている人が多く、少なからず街同士に対立構造が存在するからです。

 本記事では表立って語られることの少ない世田谷内でのちょっとした小競り合いについて言及します。

(あくまで筆者の見解です。どの地域に住んでいても、いろいろな価値観を持っている住民がいるので、一種のエンタメとして、地域の違いのイメージをお楽しみいただければと思います。)

世田谷区内に存在する「対立構造」とは

 世田谷区は東京を代表する高級住宅街や若者を引き付けるオシャレな街が混在しており、全体的にどこか品のある雰囲気が特徴です。

 区内のどこに住んでもそれなりのステータスが得られますが、住む人たちにとっては世田谷ならどこでも良いわけではないと断言します。

 直線距離で3kmも離れていない街が苦手なこともあるのです。

 まずは「三軒茶屋」という街を例に挙げてみます。

渋谷から2駅の三軒茶屋は、裏路地に入ると昭和のような風景が(画像:写真AC)



 東急田園都市線で渋谷から2駅。芸能人の出没率も高く、三軒茶屋には多くの人が憧れるオシャレな日常があります。

 利便性を求めて住む人もいますが、街の雰囲気そのものが好きで住んでいる人が多い場所です。

 明らかにクリエイターといった空気をまとった人物が、同業とおぼしき友人たちとディープな飲み屋で酒をくみ交わす姿を見かけることも。また、広告代理店や気鋭のIT企業に勤務するイケイケなサラリーマンたちによる、華麗なる酒席を目にすることもあるでしょう。

並び合う駅同士での細かいマウント感覚

 田園都市線沿いに土地勘のある人ならご存じでしょうが、三軒茶屋の隣駅は駒沢大学、その次は桜新町駅が並んでいます。

 緑豊かで落ち着いた雰囲気、かつ渋谷などへのアクセスも良いため「三茶」同様に人気のエリアですが、一部の三茶住民には「三茶に比べて地味」「どうせなら三茶に住めばいいのに!」などと認識されていることも。

 どうも、この2駅よりも三茶の方が“格上”という意識を持っているようなのです。

 外から見れば誤差の範囲としか思えないほどの違いで、いずれも大変魅力的なエリアなのですが、落ち着いた街・世田谷であってもこうしたマウント感覚が芽生えるのは、やはり東京の人気住宅地ゆえなのでしょうか。

 ちなみに大手不動産サイト「SUUMO関東版」によると、上記3駅の1K・1DKの家賃相場は次のようになっています。

・三軒茶屋:8万9000円
・駒沢大学:8万3000円
・桜新町 :8万1000円

 ちなみに同線のターミナル駅、渋谷は10万7000円。渋谷と三軒茶屋に挟まれた池尻大橋駅は9万7000円となっています(2021年7月10日現在)。

三軒茶屋への対抗馬といえば!

 そんな三軒茶屋ですが、徒歩20分ほどのところに“対抗馬”が存在します。

 ご存じ、下北沢です。

サブカルの聖地といえば下北沢、と答える人も多い(画像:写真AC)



「下北」の愛称で親しまれるこの街も非常に活気があり、多くの若者を引き付けています。

 三軒茶屋に住む人からすれば、バンドマンや芸人など“清貧”のイメージをたたえた下北沢はどこか洗練されない感じがして苦手……なんてこともあるでしょう。

 街に対して感じる印象は人それぞれなので一概には言えませんが、逆に「下北」からすれば「三茶」はどこかハイソで気取った感じがして苦手と思っていても不思議ではないかもしれません。

 このように、言葉に出したり明文化したりしなくても、街ごとに好みは大きく分かれます。個性が分かれるのも世田谷という街ならではの良さだと言えます。

高級地のニューフェイス、二子玉川

 そんな下北沢と三軒茶屋ですが、街特有の濃いカルチャーがあり「どちらの街も好き」という人も多いです。

 どちらも裏路地に入れば小さな立ち飲み酒場が軒を連ね、どこかサブカルの香りがするといった共通点も多く、大きくカテゴリー分けすれば分類は同じでしょう。

 通じ合う感性を持った下北沢・三軒茶屋グループの人々と、価値観を大きく異にするのが二子玉川です。

ハイソサエティーなセレブタウン、二子玉川(画像:写真AC)



“ニコタマ”の愛称で親しまれ、楽天グループ本社があることでも有名なセレブタウンです。

 二子玉川は近年、急速に開発が進み、高級住宅街としてのみならず働く場所としても注目を集めています。

 しかし、非常に整備されたクリーンな印象ゆえに、下北沢などの雑多な雰囲気を好む人にとっては苦手な存在と映るかもしれません。

 ローカルが生む文化や芸術を愛する若者たちからすれば、ブランド志向が強い人々が多いイメージの二子玉川は、同じ区内とは思えない別世界のように感じられるでしょう。

 ただ裏を返せばそれはつまり、名実ともに世田谷を代表する高級住宅街として二子玉川の存在が確立された、ということです。またひとつ世田谷で個性ある街が認知され、世田谷の魅力を大きく高めているのです。

由緒正しき超高級住宅地、成城

 世田谷には、二子玉川が整備される、はるかはるか昔からある超高級住宅街が存在します。

 それは成城です。

 二子玉川同様に世田谷区内の端に位置していますが、端と言ってもどこか俯瞰(ふかん)的に他エリアを眺めるような余裕を感じさせる街です。

まさに高級住宅地の名にふさわしい成城の街並み(画像:写真AC)



 古くから住み続ける裕福な住民が多く、都心へのアクセスや豊かな自然など理想的な住環境が整っています。

 成城に住み続ける古参メンバーからすれば、最近になって世田谷区民になった人も多いであろう二子玉川は、同じ高級住宅地でも「自分たちとは別」と感じているかもしれません。

 同じ23区内を例に出せば、成城は大田区田園調布や港区白金といったビッグネームと肩を並べる超・高級住宅街。代々資産家という家庭も多く、そこはかとなく感じさせられる余裕はこうしたことに裏打ちされているのでしょう。

 成城に住む人たちからすれば、属性は同じでも高級住宅と認知されてから日の浅い二子玉川は、まだまだこれからの街、といった存在なのです。

ほかにも高級住宅地がたくさん!

 さて、世田谷には瀬田、代沢、赤堤など、他にも高級住宅街があります。

 二子玉川や正常と比べると耳慣れない地名かもしれませんが、世田谷区外の人間が「どこそれ?」などと気軽に揶揄(やゆ)していいような街ではありません。

 ここまで世田谷の地域別の特徴を述べててきましたが、「金持ちケンカせず」とはよく言ったもので、実際に世田谷の高級住宅街に住む人たちは街同士のささいな小競り合いなど全く関心がないという人が大半のよう。

「あら、港区にお住まいなんですか? すてきですね!」と相手に尊敬表現を向けつつも、決して妬(ねた)んだりなどはしない、余裕を感じさせる所作と振る舞い。……やはり世田谷は文句なしに魅力的な街なのです。

東京で「マウント」が生まれる理由

 テレワークの影響もあり、高い家賃を払って東京23区内に住むのが馬鹿らしくなって郊外に引っ越した人も多いかもしれませんが、それでもやはり23区は依然として求心力の極めて高いエリア。

 ゆえに住む場所をステータスと感じる人は多いのです。

 マウント、ステータスと言うと不穏な響きに感じますが、それだけ自分の住む街に誇りを持っている人たちが多いのだと考えれば何となく腑に落ちます。

 居住地同士のマウントが発生する理由の多くは、他者への対抗意識に加えて、見る人によってその街の特徴が長所と短所のどちらにも映り得ることに起因します。

 裏を返せば、それほど特徴のある街が多いのが東京です。

 そんなマウントすら楽しむ余裕があれば、東京というこの街をもっと好きになれるかもしれません。

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