多摩丘陵とニュータウンの魅力をぎゅっと濃縮! 路線バス「豊33」系統で楽しむ30分プチ旅行とは

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多摩丘陵とニュータウンの魅力をぎゅっと濃縮! 路線バス「豊33」系統で楽しむ30分プチ旅行とは

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鳴海侑

まち探訪家

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豊田駅と多摩センター駅を結ぶ京王バス「豊33」系統。その魅力について、まち探訪家の鳴海侑さんが解説します。

多摩丘陵を感じる路線バス

 多摩南部に広がる一大ニュータウンの多摩ニュータウン――。

 もともと、多摩丘陵の自然豊かなエリアを切り開いてひとつのまちを造成したという歴史は、さまざまな場所で紹介されており、知っている人は少なくないと思います。

「豊33」系統(画像:(C)Google)



 今回は多摩ニュータウンの元の姿である多摩丘陵を感じながら多摩ニュータウンに向かう「豊33」系統を紹介します。

豊田駅南口から発着

「豊33」系統はJR中央線の豊田駅南口から発着します。

 豊田駅は多摩川の支流、浅川が作る河岸段丘に沿って作られており、北口を出ると丘の上、南口を出ると丘の下に出ます。

 多摩平団地(多摩平の森)がある北口は商業施設や飲食店が多くありますが、南口は家の密度も薄く、駅前は再開発中で少し殺風景な印象も受けるかもしれません。

 今回乗る「豊33」系統は丘の下、南口から発着しています。おおむね毎時2本の運行です。

 豊田駅南口を出たバスは平山通りに出ると浅川を渡る平山橋を通過します。日野市は市制施行まで日野町と七生村に分かれており、境目のほとんどは浅川でした。今も郵便局や市役所の出張所に「七生」の名前が残っています。

 浅川を渡ると間もなく京王線を越え、迫っていた丘を登っていきます。この丘は多摩丘陵の北端にあたり、丘のなかには平山城址公園や東京薬科大学(八王子市堀之内)があります。

 バスはその丘の中腹で左折して進路を東に取り、多摩丘陵のいたるところで見られる傾斜地に作られた住宅地のなかを抜けていきます。このあたりの住宅街は1970年代の造成と、多摩ニュータウンと同時期の造成です。

傾斜地に作られた住宅地(画像:(C)Google)

 住宅地のなかを抜けると切り通しを抜けていきます。

2009年に閉園した遊園地の面影

 切り通しを抜けるところには信号があり、車窓右に入れなくなっている道があります。この道は以前この地にあった遊園地「多摩テック」に通じています。

「多摩テック」に通じていた道(画像:(C)Google)



 1961(昭和36)年に開園した多摩テックは2009(平成21)年に閉園したのち、明治大学のスポーツ系学部のキャンパスが作られる予定でした。

 しかし、各大学が郊外から都心へ大学のキャンパスを戻す動きもあり、その後明治大学はこの場所への学部新設を中止。跡地活用については宙に浮いたまま進んでいません。

多くの中央大生を運んでいたバス系統

 バスはだんだんと人家が減っていく谷あいを走っていきます。建っている人家も蔵があるような立派なものがあり、思わず、農村エリアに迷い込んだかのように錯覚してしまいます。

 バスが右折すると、再び坂を登って丘のなかへ入り、自治体は日野市から八王子市に変わります。八王子市は大学が多い自治体で、多摩ニュータウンに近い八王子市内にも先ほど紹介した東京薬科大学だけではなく、いくつもの大学のキャンパスがあります。

 なかでも大規模なものが中央大学の多摩キャンパス(八王子市東中野)です。「豊33」系統は多摩キャンパスの正門近くにあるバスターミナルのなかに入ります。

中央大学多摩キャンパス正門近くのバスターミナル(画像:(C)Google)

 バスターミナルは広いものの、実際にあまり使われている様子はありません。実は、昔はかなり頻繁にバスが発着していたものの、周辺の交通事情が大きく変わって使われなくなったバスターミナルなのです。

 中央大学多摩キャンパスは1970年代に都心部から大部分の学部が移転してきましたが、当時は聖蹟(せいせき)桜ヶ丘駅や八王子駅などから発着するバスあるいは京王動物園線の多摩動物公園駅からの徒歩アクセスに長らく頼っていました。

 しかし、2000(平成12)年に多摩モノレールの多摩センター~立川北駅間が開業。同時に中央大学・明星大学駅が新設されたことで劇的にアクセスが改善し、また多くのバス路線が廃止となりました。

 実は今回乗っている「豊33」系統は中央大学へのアクセスバスの名残です。系統自体は2017年に新設された系統ですが、通学バスとしても使われていた「豊32」系統から別れてできた系統です。つまり、この「豊33」系統はかつて多くの大学生を運んでいたバスの名残とも言えます。

トンネルを抜けると多摩都市モノレールの線路

 中央大学のバスターミナルを抜けると、今度は中央大学の正門を左に見てすぐにトンネルに入ります。

「中大トンネル」と名付けられているトンネルを抜け、坂を下ると正面に多摩都市モノレールの線路が見え、バスは右折して多摩都市モノレールの下を走ります。

 多摩都市モノレールの下を走ると野猿街道を渡り、大塚・帝京大学駅の下にあるバス停にさしかかります。よく、駅と隣接するバス停の名前は駅名にあわせてあるものですが、ここでは「堰場(せきば)」と全く別のバス停名がついています。

野猿街道。左手に「堰場」バス停(画像:(C)Google)



 さらにはここでバスに乗車してくる人がいます。上にモノレールというバスより早くて本数の多い交通機関があるにも関わらず、わざわざバスを選ぶ人がいるのは不思議です。

モノレールよりもバスが選ばれる理由

 調べてみると、運賃にその理由がありました。

 多摩モノレールの大塚・帝京大学駅から多摩センター駅間の運賃は220円(ICカードで214円)、バスは堰場から多摩センター駅間の運賃は180円(ICカードは178円)と、バスの方が40円ほど安いのです。

 所要時間もモノレールの方が早いとはいえ、10分と変わるものでもありません。確かにそれならばバスに乗ろうという気持ちになるのもうなずけます。局所的ではありますが、モノレールが開通してバスが使われなくなった場所とモノレールが開通してもバスが使われる場所があるのは大変興味深いものでした。

 さて、バスは大栗川を渡り、松が谷駅のある丘を越えると多摩市に入ります。するともう間もなく多摩センター駅に到着します。

多摩センター駅(画像:(C)Google)

 多摩センター駅周辺は多摩ニュータウンの中央部にあたるだけあり、駅前周辺は計画的にまちづくりがされています。特に駅から南に直線的に延びる広いペデストリアンデッキは幅が広く、車に邪魔されることなく広々とした道を歩いて大型商業施設にアクセスすることができます。

 便利で快適なように設計された道を多くの人が行き交う様子が見ることができ、ニュータウンらしさを感じることができるでしょう。

 中央線から川を越え、丘を越え、自然や人の流れの移ろい、まちの性質の違いも車窓や起終点に見ることができる「豊33」系統。全線を乗り通して30分とはいえ、車窓にいろんな要素がぎゅっと詰まったバストリップができる路線です。

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