ナレーションのない「まち歩き動画」がコロナ禍の今、増え続けているワケ

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ナレーションのない「まち歩き動画」がコロナ禍の今、増え続けているワケ

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増淵敏之

法政大学大学院政策創造研究科教授

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現在、YouTube上で増え続けているナレーションのないまち歩き動画。そのブームの背景について、法政大学大学院教授の増淵敏之さんが解説します。

美しいノーナレーションまち歩き動画

 コロナ禍でまち歩きが不自由な状況です。そんななか、筆者(増淵敏之、法政大学大学院政策創造研究科教授)がはまっているのは「Seoul Walker」です。

 Seoul Walkerは明洞、江南、弘大前といったソウルのまちを歩くYouTubeの4K動画チャンネルで、作品はすでに300本超アップロードされています。チャンネル登録者数は17.6万人で、ナレーションがない(ノーナレーション)のが特徴。1作品の長さは20分から1時間30分くらいまでとさまざまで、作品によっては冒頭に地図を使って行程が説明されたりするものや、字幕スーパーが入っていたりするものもあります。

 Seoul Walkerの撮影方法は手持ちカメラが中心です。そのほかの「ノーナレーションのまち歩き動画」は車載カメラ、ドローンまでと撮影方法は多様ですが、筆者はおおむね、手持ちカメラの動画を好んで見ています。

 特に心を引かれるのは、夜や雨、雪の動画は4Kならではの美しい映像です。特に雪のソウルのまちは魅力的です。しばし見ていると、改めてその美しさに目を見張ります。ソウルのまち歩き動画チャンネルはそのほかにも、「Walk Together」などいくつもYouTube上にあります。

インテリアとしても楽しめる

 YouTube全体を見回すと、ソウルだけでなく世界の諸都市のノーナレーションまち歩き動画がアップロードされています。これだけ増えた背景には、やはりコロナ禍で旅行が難しくなったことも影響しているのでしょう。

「VIRTUAL JAPAN」のノーナレーションまち歩き動画(画像:VIRTUAL JAPAN)



 具体例をあげると「BookingHunterTV」「POP Travel」は世界中、「Walk East」は中国、「Wanderlust Travel Videos」はドイツ、「Let’s Walk!」「Watched Walker」はイギリス、「Krypto Trekker」はフィリピンを取材対象としています。動画の中心は大都市ですが、なかには地方の小都市を歩くものもあります。

 またノーナレーションのため、BGV(バックグラウンドビデオ。インテリアのひとつとして楽しめる動画)にもなります。作品単体で再生回数が数百万回を超えるものもあることから、このような動画はもはやブームといっても過言ではありません。

 やはり、人は絶えず旅という「非日常」を求めているのでしょう。

リアルなまち歩きを代替する映像美

 ノーナレーションまち歩き動画は誰かに案内されているのではなく、自らが主体的にまちを歩いている気分になるため、画面を眺めているだけで没入感が得られます。

 案内人がいる映像は視聴者に向かう情報がその案内者によって導かれ、かつ選択されるのに比べて、ノーナレーションまち歩き動画は恣意(しい)的な導きがないので、視聴者が自らの嗜好(しこう)によってさまざまな街の情景に心を寄せることができます。

 例えば、

・家が立て替えられていく様
・ビル工事の進行状況
・カフェや飲食店の様子
・信号待ちの人
・通りを行き来する人々の姿

など、映像を通して目に入る「何気ない光景」が視聴者に小さな刺激を与えているのではないでしょうか。案内人がいる映像に比べて、ノーナレーションまち歩き動画はとにかくリアルなのです。

「Seoul Walker」のノーナレーションまち歩き動画(画像:Seoul Walker)



 またこれらの特徴として、4Kによる映像美があげられます。特に雨、雪や夜景に効力を発揮しています。夜景ではネオンサインの美しさが際立ちます。雨上がりのアスファルトに移るネオンは美しくにじみ、格別ですらあります。

 もしかすると現実よりも美しい風景が目の前に広がっているのかもしれません。もちろん案内人のいるまち歩き動画でも4K撮影はありますが、やはり説明が優先されるため、映像美は二の次になっています。

 それ以外に特筆すべきは、やはり「街のノイズ」へのこだわりです。

・車の行きかう音
・すれ違う人々の会話
・風の音
・雨の音

などが効果的に映像美を際立たせます。コロナ禍でまち歩きが難しくなり、それをバーチャルなノーナレーションまち歩き動画が代替しているのです。

 これらの動画は既存のテレビ番組と同等のクオリティーであることから、もはや素人と玄人の境界線が無くなってきたともいえます。コロナ禍は数々の映像作家を生んだのです。

東京を撮影したチャンネルも多い

 ここまで海外の動画を紹介してきましたが、もちろん東京を撮影したチャンネルもあります。

 代表的なのは「Rambalac」で、チャンネル登録者は約43.6万人(5月26日時点)。東京を中心に近郊も網羅しており、再生リストは1000本以上あります。

「Rambalac」の撮影対象は新宿や渋谷、銀座、浅草など東京を代表する場所が多く、なかには晴海、五反田、立川などの東京ローカルな場所もあり、また、裏路地や夜のまちをテーマにしたものも数多くあります。

「Nomadic Ambience」のノーナレーションまち歩き動画(画像:Nomadic Ambience)



 そのほかにも「VIRTUAL JAPAN」「NIPPON WANDERING TV」「Japan explorer」「Roaming Japan」などさまざまなチャンネルがあります。また世界中の都市を対象とする「Nomadic Ambience」にも東京の映像がいくつかあります。「Nomadic Ambience」は、世界の目から見た東京が描かれています。

まちの確認と新発見

 東京を対象にしたノーナレーションまち歩き動画の魅力といえば、まず「実際に自分が歩いたまちの確認」があげられます。行ったことのあるまちを巡るのは見る人に安心感を与えます。いわば「記憶の遡上(そじょう)」です。

 また新発見の楽しみもあります。筆者は東京のまちをよく歩きますが、それでも行ったことのない通りがまだ数多くあります。ノーナレーションまち歩き動画は、そのようなまだ行ったことのない東京を教えてくれるのです。

「Rambalac」のノーナレーションまち歩き動画(画像:Rambalac)

 冒頭のSeoul Walker同様、ノーナレーションまち歩き動画によって、東京もやがて隅々まで網羅されるでしょう。これは、東京にもまち歩きの「新たな形」が提示されていることを意味します。もしかしたら今までと違った形で、東京は世界中から注目を集めるかもしれません。

 現状、リアルなまち歩きとは異なり、ノーナレーションまち歩き動画は「身体性」が欠落しています。しかし今後、シミュレーションゴルフのように、やがてはそれを補完するシステムが登場してくるのかもしれません。

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