デジタル時代の仕事に行き詰ったら、秋葉原「メイド喫茶」に再注目すべきワケ【連載】これからの「思考力」の話をしよう(3)

歴史の風雪に耐えた基礎的な理論・フレームワーク(思考の枠組み)を紹介し、現在でも色あせないその魅力について学んでいく連載シリーズの第3回。今回紹介する理論・フレームワークは「イノベーション」です。


イノベーションの「本質」とは

 このところ、企業の現場やメディアでよく話題に上るのが「イノベーション(革新)」で、

「海外の先進技術を取り入れて改善するというこれまでのやり方では勝てない。斬新なイノベーションを起こす必要がある」
「アメリカのIT企業はイノベーションで躍進している。DXなどのイノベーションを取り入れることが成長のカギだ」

などと言われています。DXとは「デジタルトランスフォーメイション」の略で、ITの浸透による変革を意味します。

 さて、イノベーションという言葉自体は市民権を得ましたが、

「本質は何か?」

と問われると、意外と戸惑います。

 まず今回は、過去のイノベーション研究を踏まえて、イノベーションを巡るいくつかの誤解について考えてみましょう。

「AI = イノベーション」とは限らない

 第一に、科学的な発明やAI(人工知能)、DX、FinTech(フィンテック。ITを駆使した金融サービスの創出)といった最先端の科学技術を用いることがイノベーションだと考えがちですが、そうとは限りません。

秋葉原にあるメイドカフェのイメージ(画像:写真AC)



 イノベーションという概念に最初に着目したアメリカの経済学者、ヨーゼフ・シュムペーターによると、イノベーションには、

1.消費者の間でまだ知られていない財貨や新しい品質の財貨の生産
2.新しい生産方法の導入
3.新しい販路・市場の開拓
4.原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
5.新しい組織の実現

という五つがあります。

 このうち「1」「2」は科学技術を利用しますが、最先端とは限りません。また、「3」「4」「5」は科学技術とさほど関係ありません。

 例えば、従来は赤ちゃんに使っていた紙オムツを介護用に使ったり、従来は飲食店が無料で提供していたお茶をペットボトルに入れて有料で売ったりするのも、立派なイノベーションです。

 第二に、「ゼロから1を作り出す」ことがイノベーションだと考えられがちですが、たいていのイノベーションはゼロから生まれるわけではありません。

 シュムペーターはイノベーションの本質を、

「新結合の遂行」

としています。

 つまり、すでに存在する情報・アイデア・ノウハウの組み合わせを変えることで、イノベーションが生まれるのです。

メイドカフェは画期的なイノベーション

 2000(平成12)年に秋葉原で誕生したメイドカフェは、世界的に知られるイノベーションです。もちろんメイドもカフェもずっと以前から存在しており、組み合わせによって生まれました。

ヨーゼフ・シュムペーターの主著『経済発展の理論』(画像:岩波書店)



 2020年から広がった食事の宅配代行サービス「UberEats(ウーバーイーツ)」も、そのビジネスモデルはすべて既存の技術で構成されています。

 第三に、天才的な研究者や起業家がひらめいてイノベーションを生み出すと思いがちですが、そうとは限りません。

 ヤマト運輸の小倉昌男さんという天才経営者が宅配便を生み出したように、ひとりで考え抜いた末に天啓がひらめくというケースもあります。このようなサクセスストーリーは話題になりやすいですが、圧倒的に多いのは、複数のメンバーが考えをぶつけ合った結果生まれるというパターンです。

 新結合の遂行というイノベーションの本質を考えると、ひとりで頭をひねるよりも、違ったアイデアを持つ複数のメンバーがディスカッションする方が、イノベーションが生まれやすいはずです。

巨大IT企業勃興の背景にあったリアルな「場」

 2点目、3点目と関連して、近年の研究ではイノベーションを生み出す「場」の重要性が強調されています。

 研究所のような場もあれば、コワーキングスペースのような場もあります。アメリカのシリコンバレーのように街全体が場として機能することもあります。「ITの時代だから、オンラインで意見交換すれば良いのでは?」と考えられがちですが、リアルで対面することが大切なようです。

メイド喫茶が多い秋葉原(画像:写真AC)

 シリコンバレーでGoogle、Apple、FacebookといったイノベーティブなIT企業が生まれたのは、IT企業、スタンフォード大学、研究機関、ベンチャーキャピタル、などいろいろなタイプの組織が集積し、組織の枠を超えて自由に意見交換する土壌があったからだと言われます。

コロナでイノベーションはどうなる?

 ここで心配なのは、新型コロナウイルスの影響です。

 感染対策で企業が在宅勤務を推進し、従業員同士のリアルの対面機会が激減しました。ある食品メーカーの商品開発担当者は、次のようにコメントしています。

「当社では、ラウンドテーブル・ミーティング(数人が円卓を囲み、座り順といった上下関係がなく自由に意見交換できる会議)で商品企画をしています。2020年から、全社方針で在宅勤務・時差出勤が推奨されたことから、ラウンドテーブル・ミーティングの開催件数が激減しました。オンラインで2回やってみましたが、効果がないので止めました。やはりオンラインでは試作品を確認することが難しいですし、議論もまったく盛り上がりません」

 これから、日本のイノベーションはどうなるのでしょうか。

IT企業が集まる渋谷(画像:写真AC)



 東京・渋谷はビットバレーと呼ばれ、多数のIT企業が集積しています。コロナ前までは、コワーキングスペース、パブ、カフェといった場で、ビジネスパーソンが談笑する姿が当たり前のように見られましたが、いまは、すっかり影を潜めています。

 コロナが一刻も早く終息し、渋谷のような場が復活することが期待されます。と同時に、アフターコロナでも在宅勤務が主流になるという場合を想定し、オンラインでイノベーションをどのように生み出す方法を考える必要がありそうです。


【経営者・幹部1718人に聞いた】DXへの「投資状況」と成果

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