自分が住む街のブランドイメージなんてこれっぽっちも気にしない人に贈る――私の「嫌悪施設」考【連載】東京下町ベースキャンプ(番外編)

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自分が住む街のブランドイメージなんてこれっぽっちも気にしない人に贈る――私の「嫌悪施設」考【連載】東京下町ベースキャンプ(番外編)

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吉川祐介

ブログ「限界ニュータウン探訪記」管理人

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かつて江戸近郊の農村部だった東京東部の「下町」。そんな同エリアを、ブログ「限界ニュータウン探訪記」管理人の吉川祐介さんは新たな「拠点」と位置付け、再解釈を試みています。

主観が混じりがちな概念

 不動産取引の現場で「嫌悪施設」という言葉があります。その意味は読んで字のごとし、「社会一般としての必要性は認められるが、地域にとっては不都合であるため、建設や維持管理において近隣住民との合意形成のむずかしい施設」(日本大百科全書、小学館)です。

 嫌悪施設に該当する施設が法令などで明文化されているわけではありませんが、居住性や資産価値に悪影響を及ぼすと考えられるものについては、取引時の重要事項説明において、売り主(貸主)および仲介業者に告知義務があります。

 しかし、嫌悪施設の概念には主観が混じりがちです。

 大型車両の増加や騒音などの要因となる施設であれば致し方ありませんが、実害はほぼないにもかかわらず、施設が持つ「イメージ」だけで避けられ、地価相場が周辺より下がる例は全国各地に存在します。

 筆者はこの一方的な概念を肯定しませんが、高額取引となる不動産売買の契約においては、これらについて言及しないと、後に深刻なトラブルになる危険性があります。そのためにも、告知義務が法令で定められていのです。

 嫌悪施設に近接する住宅地は、他の地域と比べて一般的に取引が鈍く、開発も進みづらいことが少なくありません。また新規に嫌悪施設を設置する際も、既存の住宅地から離れた立地が選定されるものの、都市の膨張によって、当初は辺ぴだった立地が、施設周辺まで宅地化の波に飲み込まれるケースが随所で見られます。

 その最もわかりやすい例のひとつが23区北東部に位置する、とある法務省管轄の施設です。

治安悪化の存在ではない

 ふたつの河川の合流地点近くに位置するこの嫌悪施設は、元々レンガ工場を転用したものがその始まりです。施設周辺は戦後間もない頃までほとんどが農地でしたが、自治体への激しい人口流入で、今では隙間なく住宅が立ち並ぶ、どこにでも見られる住宅地のひとつとなりました。

 施設の最寄り駅は、1日の平均乗降人員が1万人に満たない小さな駅。その周辺にも目立った商業地や施設は見当たらず、どちらかと言えば昔ながらの建物が今も多く残る地域です。

 施設の向かいには、近年建築されたと思われる比較的大きなマンションがありますが、周辺にはそのマンション以外に大型の集合住宅は見当たらず、一般の民家や商店の他は、ごく小規模なアパートが点在するのみです。

 隣駅は最寄り駅と同じく緩行線のみの停車駅でありながら、駅周辺ににぎやかな商業地が形成され、鉄筋コンクリート造りの大きな集合住宅を至るところで見かけます。近年のマンション建設ラッシュにあっても、やはり最寄り付近の開発は後手に回っている印象は否めません。

ふたつの河川の合流付近に位置する23区部北東部のエリア(画像:吉川祐介)



 しかし、これも考えてみれば妙な現象です。嫌悪施設が近所にあるからと言って、それが周辺住民の実生活に、いったい何の影響を与えると言うのでしょうか。

 施設の性質上、メディアの取材等で騒がしくなることはありますが、それも頻繁ではないでしょうし、施設が周辺地域の治安を悪化させる直接的な存在であるとは考えられません。

 確かに、施設にはどう転んでもポジティブなイメージはありません。しかし上京者が感じる東京の魅力のひとつに、近隣との濃密すぎる関係がなく、個々のスタイルで生活を送れるといったものがあります。そう考えれば、実態のないイメージに左右されてしまうのは矛盾した話であると思うのです。

施設近くの物件はむしろ「狙い目」

 となれば、筆者がこの下町エリアで拠点を構える場合、むしろこうした嫌悪施設に積極的に近づくのもひとつの手ではないかと考えています。

 下町に拠点を構えることを推奨する当連載では、街が持つブランドやイメージなどを度外視しており、はっきり言ってどうでもいい要素です。

 目を向けなければならないのは、街のイメージではなく「己の生活」であり、少ない負担で東京が持つ利便性を余すところなく生かしていくのが、これからの下町暮らしのスタイルだと考えています。

 たかが嫌悪施設の近くと言うだけで避けられるのであれば、むしろ「狙い目」なのです。

高層の建物が少なく、並ぶ家屋の多くが低層である同エリア(画像:吉川祐介)



 東京は多様な生活スタイルを包摂する巨大都市ですが、巨大であるがゆえに、「多数派」「一般的」な論理で行動すると、常に過剰な人口密度に悩まされてしまうというデメリットがあります。

 せっかく下町の片隅に拠点を構えるのであれば、あえて多数派とは逆の論理、逆の動線で、極端に言えば嫌悪施設の近くを希望するような、人の流れとは逆方向に進むスタイルを貫いてみるのも面白いかもしれません。

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