比類なきクロック・ムッシュ「アンセーニュダングル」|老舗レトロ喫茶の名物探訪(8)

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比類なきクロック・ムッシュ「アンセーニュダングル」|老舗レトロ喫茶の名物探訪(8)

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アーバンライフ東京編集部

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喫茶店が次々に姿を消していく都心の住宅街にレトロ喫茶「カフェ アンセーニュダングル」の自由が丘店があります。同社は原宿で創業し、のちに広尾と自由が丘にも店を展開しました。同店の名物は、高級感がありながらホッとくつろげる空間と、40年以上人びとから愛されてきたふたつのメニューが挙げられます。

扉の外の現実から逃避できる非日常空間

「30年間、悲しいこと、辛いことがあったとき、いつもこの店に来ました。ここに来ると不思議と嫌なことを全て忘れられて、元気がでるんです」

 穏やかな笑みをたたえて筆者にそう話しかけてきたのは、「カフェ アンセーニュダングル」自由が丘店に来ていた年配の女性でした。

「カフェ アンセーニュダングル」自由が丘店の外観(2018年11月20日、宮崎佳代子撮影)



 エミール・ガレの照明器具にルイ・マジョレールの家具など、ベルエポックのパリテイストに統一されたインテリア。クラシック音楽が優しい響きで流れ、テーブルには大輪のバラの花が飾られています。そこはまるで、ヨーロッパのクラシカルなホテルダイニングにいるかのよう。扉の外の現実から逃避できる非日常空間で、上質なカップに注がれた一杯の美味しいコーヒーを飲めば、どんな時も気が休まるというのがわかる気がします。

ふんだんに使われたレンガが温かみを与え、レトロ感も心地よい自由が丘店の店内(2018年11月20日、宮崎佳代子撮影)

「カフェ アンセーニュダングル」は原宿で1975(昭和50)年にオープンしました。代表取締役で、マスターとして店にも立つ林 義国さんは、30軒もの喫茶店を転々として働くなかで抱いた理想を実現させるために、同店を開業するに至ったと話します。

「家具から食器に至るまで一流のものを揃え、壁から天井まで高級感ある空間を演出しました。当時では珍しいことでしたから、話題となって、カメラマンやデザイナー、建築家などが多数訪ねて来るようになりました」(林さん)

 その成功を元に同じコンセプトで高級住宅街の広尾に1979(昭和54)年に店をオープン。しかし、「これが完全に読みが外れました」と林さんは語ります。

個人の邸宅のような雰囲気の広尾店(2018年11月20日、宮崎佳代子撮影)

 店は広尾駅のふたつの出口の中間に位置し、ちょうど人の流れが空洞化する場所でした。企業もないエリアで、店は閑古鳥が鳴くばかり。「それでも、自分が理想としてきたことを『変えないこと』に固執しました」と言います。

 やがて、日本では一風珍しい店のたたずまいや細やかなもてなしが「日本のコーヒー文化」として海外に紹介されると、一流企業の社長など本物志向のお客さんの来店が増加。客が客を呼んで、店は軌道に乗っていきました。そして、ここ自由が丘店を展開。最も広い店舗面積での開業となりました。

「商売には苦しい時が必ず訪れます。その時にいかに耐え忍ぶか。信念を曲げないでやり続けるか。それがいかに大切かをこの時学びました」

 その信念のひとつに「サービスの質を落とさないために、メニューを増やさないこと」を挙げます。創業した40年以上前から、食べもののメニューはガトー・フロマージュ(自家製チーズケーキ)とクロック・ムッシュのみ。その一方で、これらは多くの人びとに愛され続ける名物となっています。

ホワイトソースを使ったオリジナルレシピの絶品クロック・ムッシュ

 クロック・ムッシュのレシピは林さんによる考案とのこと。「普通のクロック・ムッシュよりもう少し料理っぽいものにしたかった」ことから、独自開発したオリジナルレシピです。たっぷりと玉ねぎを用いたホワイトソースをパンの内側と外側に塗り、チェダーチーズとハムを挟んだものにパルメザンチーズを振って焼き上げます。

名物メニューのクロック・ムッシュ 700円(税込、以下同)。ブレンドコーヒー 600円(2018年11月20日、宮崎佳代子撮影)



 何も知らずに初めてこのクロック・ムッシュを食べた時、ハムとチーズの味わいを予想していたので、ホワイトソースが思わぬボリューム感と味わいのウェイトを占めていることに意表を突かれました。焦げ目がパリッと香ばしく、チェダーチーズの濃厚さとホワイトソースのコク、ハムの食味がいい具合に調和した、リッチな味わいを楽しめます。パンもふっくらとしていて、なるほど、これは確かに名物メニューだと納得しました。コーヒーともよく合います。

 もう一方の名物、ガトー・フロマージュは、林さんが50年ほど前にヨーロッパ人の老夫婦が作ったチーズケーキに感動し、味の記憶だけを頼りに試行錯誤を重ねて作り上げたものだそうです。

自家製チーズケーキ、ガトー・フロマージュ 500円(2018年11月20日、宮崎佳代子撮影)

 甘さ控えめで、生地の滑らかさが際立つ、スフレタイプのチーズケーキです。一流レストランのシェフも愛用するカルピスバターを使用するなど、こだわりが詰まった一品と話します。

 コーヒーは、生豆をエイジングして深煎りした豆を使用。うまみやコク、まろやかさをバランス良く感じられる芳醇な味わいです。このブレンドコーヒーを使用した人気メニューに「琥珀の女王」があります。

 ステムのデザインが洒落たラリックのグラスに注がれた、その名のごとく気品のある一品です。深煎りブレンドの苦味とコクがしっかりと感じられ、ほんのりとした甘さと生クリームが好相性。白と黒のコントラストも見栄えよく、気分の華やぐ飲み物です。

琥珀の女王 850円。ブレンドコーヒーに砂糖を加えてシェーカーで急速に冷やし、グラスに注いで生クリームを浮かべたのち、ブランデーで香り付けして完成(2018年11月20日、宮崎佳代子撮影)

 自由が丘店はスペースを4つに分けています。レンガの壁に囲まれた窓際のこぢんまりとしたスペース、バラの生花を飾った大テーブルのある開放感あるスペース、8mの立派な一枚板のカウンタースペース、女子会などにも対応可能なダイニングテーブルを備えたスペース。それはまるで、書斎、リビングルーム、キッチン、ダイニングルームと家に見立てたかのようで、その日の気分や目的によって選べる楽しさや安心感があります。

 こんな喫茶店が家の近くにあったらーー。嬉しい時、辛い時、雨の日、晴れの日、人生の幸福や一瞬の逃避行をいつの日も変わらぬ名物メニューたちとともに勢い付けてくれたり、元気付けてくれたりする存在になるに違いないでしょう。あの年配の女性もそうだったように。

 
●カフェ アンセーニュダングル
・営業時間:10:00~23:00
・定休日:12月30日、31日

<自由が丘店>  
・住所:東京都目黒区自由が丘1-13-6 鳥井ビル1F
・アクセス:各線「自由が丘駅」北口から徒歩約2分
・問い合わせ:03-3725-4749
※パソコンの使用禁止

<広尾店>
・住所:東京都港区南麻布5-15-25 六幸館2F
・アクセス:日比谷線「広尾駅」から徒歩約2分
・問い合わせ:03-3447-2524

<原宿店>
・住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷3-61-11 駒信ビルB1
・アクセス:JR「原宿駅」竹下口から徒歩約5分、千代田線「明治神宮前駅」5番出口から徒歩約10分
・問い合わせ:03-3405-4482

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