街の外国人対応「大阪オバちゃん式」vs「翻訳機」、どっちがいい?

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街の外国人対応「大阪オバちゃん式」vs「翻訳機」、どっちがいい?

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アーバンライフ東京編集部

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訪日外国人などの増加にともない、日本人にこれまで以上に求められるコミュニケーション能力。声をかける側の「良心」と相手の「求めること」の違いにも温度差があるようです。

外国人に話しかけることへの気負いと難しさ

 訪日外国人(インバウンド)が増加しています。

 日本政府観光局(JNTO)が2018年10月に発表した推計によると、同年1月から9月までの総数は2346万8500人で、前年比10.7%増に。タイやインド、豪州、フランスなど15か国からのインバウンドの数が、9月として過去最高を記録しました。

2018年1月から9月までのインバウンド増加率・上位10か国(画像:JNTOのデータを元にULM編集部で作成)



 また改正出入国管理法が12月8日(土)、参議院本会議で可決・成立したことから、今後、外国人労働者の受け入れが拡大することも予想されます。とはいえ、彼らはいち外国人に過ぎません。異なる文化のなかでコミュニケーションに困ることも少なくないでしょう。

 そんななか、彼らの力になりたいと考える日本人も多く存在しています。私たちにはいったい何ができるのでしょうか。現状の問題点などを取材しました。

2019年度までに5万人を育成予定

 9月のある平日、朝10時過ぎ。千代田線代々木公園駅から徒歩約10分の国立オリンピック記念青少年総合センター(渋谷区代々木神園町)で、語学講座が行われていました。教室には張りのある女性講師の声が響いています。

「では皆さん、隣の人とペアになって、英語で自己紹介をしてみましょう。笑顔を忘れずにね!」

 お互い今回が初対面。「ハロー!」「ハーイ!」「グッドモーニング!」――。始めはぎこちなかった受講者の顔つきですが、言葉を重ねるにつれて少しずつ笑顔へと変わっていきました。

東京都が手掛ける「外国人おもてなし語学ボランティア」の語学講座の様子(2018年9月10日、國吉真樹撮影)

 講座の名は、東京都都民生活部が運営する「外国人おもてなし語学ボランティア講座」。街なかで困っている外国人を見かけたときに、英語で道案内などができるボランティアを育成するため、2015年から開催されています。

あいさつに関する講座内容(2018年9月10日、國吉真樹撮影)

 講座は、英語の初級者向けコースと中級者向けコースがあり、今回取材したのは初級者コース(語学講座は計4回)。中学校レベルの語彙と表現を使って受講者同士のロールプレイングを交えながら、定型的な表現を中心に学習します。

「受講者は社会人から主婦、仕事をリタイアした人までさまざまで、7割ぐらいが女性です。受講倍率も2~3倍と、とても人気があるんですよ」(東京都都民生活部担当者)

 コースの修了者には、東京都にボランティアとして登録され、登録証と公認バッジが配布されます。東京都は2020年の東京オリンピック・パラリンピックなどに向けて、2019年度までに5万人を育成する予定です(2017年時点で3万人を突破)。

「外国人おもてなし語学ボランティア」の育成計画とその実績(画像:東京都のデータを元にULM編集部で制作)

 席の最後列で受講していた40代女性は「仕事で外国人とよく話す機会がありますが、きちんとした言い回しや表現を改めて学べてよかったです」、夫の都合で1年前まで米国に住んでいたという30代主婦は「あちらで現地の人たちにいろいろと声を掛けてもらってお世話になりました。日本で少しでもその恩返しができたら」と話しました。

山積する課題。理由は日本人の気質にあり?

 このような語学ボランティアがスムーズに行われるためには、「課題がまだある」という声も。インバウンド関連サービスを手掛ける「mov(モヴ)」(渋谷区代官山町)の営業部長・菊池惟親(これちか)さんは現状について、次のように話します。

「外国人とのコミュニケーションで、日本人が抱えている課題はふたつあります。それは語学スキルと『声を掛ける勇気』です。前者は勉強すればある程度解決します。しかし後者はそうもいきません。

 日本人は海外諸国と異なり、さまざまな人種の人たちと触れ合う機会が少なく、加えて、日本には見知らぬ人に声を掛ける文化がありません。語学ボランティア育成の本質はむしろ後者にあるのではないのでしょうか。そもそも外国人が『困っている』という状態をどのように判断すればよいのか、といった課題もあります」(菊池さん)

基本は「解決する」「断る」「つなぐ」

 このような課題に対し、解決の「コツ」を提案するのが岡田由美子さんです。実用英語技能検定1級と全国通訳案内士の資格を持つ英会話講師の岡田さんは、先述の「声を掛ける勇気」について次のように話します。

「完璧なコミュニケーションを目指さない、日本人だからといって日本のすべてが分かるわけではない、彼らを助けることは私たちの『義務』ではないと、割り切って考えたらよいのではないでしょうか」

声掛けボランティアのコツについて話す岡田さん(2018年10月5日、國吉真樹撮影)



 岡田さんはこう続けます。

「語学ボランティアは英語のプロではありませんし、外国人も高いレベルをまず期待していません。英語を母国語としない外国人であればなおさらです」

 外国人への対応は基本、「解決する」「断る」「つなぐ」という3パターンに分けられるという岡田さん。「解決する」「断る」はその言葉のとおり、彼らの困りごとを解決したり、相手のオーダーが自分の能力を超えていたりする場合に断ることを指します。

「皆さん、『断る』というと少しネガティブな印象を持ちませんか? 自分から声を掛けておいて断るとは何なんだと。いや、それで良いのです。解決方法を知らないのに知ったかぶりをしたり、答えずにただニヤニヤ・ヘラヘラ笑っていたりすれば、かえって相手の印象を悪くします。

 知らないなら『知らない』とはっきりした態度をとりましょう。相手への失礼にはあたりません。あとは、相手の話やリクエストを1から10まですべて聞く必要はありません。会話の内容に応じて、どんどんぶった切ってこちらが主導権を持ってしまって構わないんですよ」(岡田さん)

「つなぐ」とは、他の人にバトンタッチをすることを指します。

「質問が専門的な内容だったり、パスポートを無くした、財布を盗まれたなど深刻な場合はこの対応が特に大切になります。英語を話せる人が常駐している観光案内所を教えたり、交番に連れて行ったりするだけで、彼らはとてもありがたく感じるでしょう。後者の場合は、本人が動揺している場合が多いため、相手の話に耳を傾け共感し、ゆっくりとした口調で、相手に安心を与えることが大切です」

声を掛けたら、もう100点満点

 また、「mov」の菊池さんが指摘していた、相手が「困っているかどうか」の判断について、「まずは声を掛けてみることが大切」だと岡田さん。困っていなければ、相手から「ノーサンキュー」と言ってくるため、必要以上に気を使う必要はないとのことです。

「『Are you OK?』と声を掛けるだけで、ボランティアの対応としては100点満点なんです。そこで問題を解決できたり、つなげられたりすれば120点。去り際に『Take care(気を付けてね)』なんて言えたら、もう150点といっていいでしょう。

 もう一度言います。問題なのは困っている彼らを放置すること。ですから、声を掛けて気に掛けてあげることが大切であって、解決するのは決して義務ではないのです。例えれば、大阪の『世話焼きおばちゃん』のスピリットみたいなものですよ(笑)」(岡田さん)

 そのようなマインドを作るためには、日常生活で、日本人を相手に、相手の目を見て笑顔でハキハキとしたコミュニケーションをすることが大事だといいます。

外国人に対するさまざまなジェスチャー例(画像:東京都都民生活部)

 また、英語が使えなくても、ジェスチャーなどを覚えたり(上記画像参照)、彼らの困りごとをその場で絵に書いてもらったり、スマホに打ち込んでもらったりするなど、ほかにもさまざまなテクニックがあるとのことです。

話題の音声翻訳機、何ができる?

 前出の菊池さんは、外国人とのコミュニケーションをさらに円滑なものにするための効果的なツールとして、小型の音声翻訳機を挙げます。音声翻訳機ビジネスには近年、「POCKETALK(ポケトーク)」(ソースネクスト)や、「ez:commu(イージーコミュ)」(フューチャーモデル)など各社が参入しており、対応言語や音声の認識・翻訳精度などを競い合っています。

翻訳デバイス「ili」の使用イメージ(画像:Logbar)



 2018年2月に「ili(イリー)」の一般販売を開始した「Logbar(ログバー)」(渋谷区恵比寿)の広報担当者は、音声翻訳機が「声を掛ける勇気」に与える効果について指摘します。

「音声翻訳機は、外国人に声を掛けるきっかけになります。話しかけたいけれど『最初の一言』が出てこない、出す勇気がないという人の背中を押してくれる存在です。人とは不思議なもので、一回声を掛けることに成功すると、面白くなって『次も次も』と積極的になるんです。音声翻訳機はその原動力になると感じています」(ログバー担当者)

外国人は自らの「時間」を大事にする

 また外国人の持つ価値観についても言及します。

「彼らは基本的に、日本での有意義な時間をいかに確保するかということを念頭に過ごしています。そのため、語学ボランティアが想像するほどコミュニケーションを求めていないケースもあります。自分の知りたいことだけ教えてもらえればよいというスタンスの人も少なくありません。ですから、そのような意味でも、音声翻訳機は合理的なツールと言えるのです」

 観光先進国の実現や外国人労働者の受け入れ拡大に向けて、国をあげて行われる外国人対策。英語やジェスチャー、音声翻訳機と多様なコミュニケーション手段を前に、私たちはその振る舞いが問われています。

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