部外者はてんやわんや? 東京23区の高級住宅街に「一方通行」が多いワケ

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部外者はてんやわんや? 東京23区の高級住宅街に「一方通行」が多いワケ

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櫻井幸雄

住宅評論家

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「日本のビバリーヒルズ」とも言われる渋谷区松濤を始めとして、都内にはいくつもの高級住宅街があります。そんなエリアには「一方通行」が多いと、住宅評論家の櫻井幸雄さんは言います。いったいなぜでしょうか。

目的地にたどり着きづらい印象も

 渋谷区の松濤(しょうとう)に世田谷区の成城学園前駅周辺、そして練馬区の西武池袋線の大泉学園駅周辺……いずれも、東京23区内に残る歴史ある一戸建て住宅地、そして高級住宅地としても知られています。

 それらの住宅地が開発されたのは、ほぼ同時期。大正末期から昭和初期においてです。そして、もうひとつ共通する特徴は「一方通行の道が多い」ということ。

一方通行のイメージ(画像:写真AC)



 昭和後期以降に開発された郊外の住宅地と比べると、住宅地内の道路が狭く、一方通行が多く、なかなか目的地にたどり着けません。そのため、住人以外にとっては車で走りにくい印象を受ける場所が多くなっています。

 この狭い一方通行の道は、あえて設けられたものです。そして、現在も住人の安全を守る役割を立派に果たしており、古人の知恵に感服させられます。

 歴史ある住宅地のある「一方通行の道」に秘められた知恵にスポットを当ててみましょう。

安全配慮の街づくりは関東大震災後から

 23区内に所在する高級住宅地の多くは、97年前の今日、1923(大正12)年9月1日の関東大震災が発生した後に開発が始まりました。

一方通行となっている成城学園前駅周辺の様子(画像:(C)Google)

 関東大震災を契機に、東京都内では地震に強い街をつくろうという動きが起こり、新しい一戸建て住宅地が開発されたのです。

 開発が行われた住宅地はいずれも高台で地盤が固く、坂が少ないフラットな場所。そして、地震に強いだけでなく、事故の心配なく歩きやすいなど、あらゆる面での「安全」に配慮した街づくりが行われました。

 当時、増え始めた車への対策も考えられ、交通事故が起きにくい街づくりの工夫が盛り込まれました。

信号機の未普及が生んだ必然

 今なら交通事故防止のため、まずは信号機を付けることになるでしょう。しかし大正末期から昭和にかけての時代、信号機はまだ普及していませんでした。

 歴史をひもとくと、日本初の電気式信号機は1930(昭和5)年に都心部の日比谷に設置されたものだったとされます。それ以前は、交差点の真ん中に人が立ち、手旗信号で交通整理をしていました。

都内の信号機(画像:写真AC)



 その時代の話ですから、住宅地内の十字路で交通事故を防ごうとしたら、交差点ごとに人を立たせて旗を振らせないといけません。そのようなことは現実的にできません。

 そこで、考えられたのがすべての道を一方通行にする工夫です。

一方通行の道ばかりにして、交通事故を防止

 一方通行の道は、逆走する車がない限り、対向車とぶつかる事故は起きません。

 そして、道路が交差する場所での事故も少なくなります。それは、見通しの悪い交差点にさしかかると、運転する人はスピードを落とし、いったん停車をするからです。

 一時停車し、左右の安全を確認してから交差点を通過します。そのとき、左右にも別の車がいったん停車していたら……そのときは、左方優先と決められていました。

 自分の車の左側にいったん停車している車がいたら、そちらが先に進む。自分の車の右側にいったん停車している車があったら、その車に対して自分の車が「左側」になるので、自分が先に進む――。

信号機のない交差点のイメージ(画像:写真AC)

 この「左方優先」は、現在でも信号機がなく、優先順位の決まっていない道が交差する場合のルールになっています。

 つまり、住宅地内の道路を基本的にすべて一方通行にすることで、信号なしでも安全な交通事情を生み出したわけです。

一方通行の道は、現在さらに狭くなっている

 現在、一方通行の道の多くに歩行者を守るガードレールが設置されています。その結果、車道部分は、街ができた初期よりも狭くなっています。

 その結果、違法駐車がしにくくなり、車を運転する人はスピードを出しにくく、交差点では必ず一時停止をします。

 一方通行の道は、現代でも、事故を防ぐ機能を立派に果たしているわけです。

一方通行となっている大泉学園前駅周辺の様子(画像:(C)Google)



 さらに現代においては、「歩行者もストレスなく歩くことができる」という評価も生まれています。

 というのも、住宅地内に信号機を設置すると、車が通らないときでも、歩行者が信号機で止められることがあるからです。右を見ても、左を見ても、はるか先まで車は見えません。しかし歩行者用信号が赤になっていると、渡れません。

 その点、信号機がない一方通行の道は、車が来ないことを確認して、いつでも道路を渡ることができます。ストレスなく歩きやすい、と歩行者にも好評なのです。

一方通行を嫌うのは、外から入ってきた人だけ

 一方通行の道は、初めてその街を訪れる人にはわかりにくいことがあります。地図で目的地を確認し、ここで曲がろうと思っても、進入禁止で曲がれないことがあり、手間がかかるわけです。

 現在は、多くの人がカーナビを使うので、「目的地にたどり着けない」ということは少なくなりました。しかし一方通行の道ばかりの住宅地では、遠回りをさせられているのかもと思うことが少なくありません。

 そこで、「なんて面倒なんだ。道を広げて対面通行にすればよいのに」の声も出てきます。しかし、住んでいる人たちからは「今のままでよい」との声が多いものです。

 なまじ通行しやすくなると、住宅地内の道をぬけ道に使う人が出てくるかもしれません。それよりも、今のままのほうが平和でよい、ということでしょう。住んでいる人はだいたい一方通行の道を熟知しているので、目的地にすんなり到着します。

渋谷区松濤(画像:(C)Google)

 大正時代末期につくられた住宅地には、現代でも通用する安全確保の工夫が採用されています。それは、信号機に頼らず、それでいてしっかり成果を出す、賢い安全対策でもあったのです。

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