りんご飴だけ、ピスタチオだけ……近頃、一点勝負の「スイーツ専門店」が増えているのはなぜ?

  • おでかけ
りんご飴だけ、ピスタチオだけ……近頃、一点勝負の「スイーツ専門店」が増えているのはなぜ?

\ この記事を書いた人 /

アーバンライフ東京編集部のプロフィール画像

アーバンライフ東京編集部

ライターページへ

「洋菓子専門店」や「パンケーキ専門店」は以前からありましたが、近頃のスイーツ専門店は「リンゴあめ専門」や「ピスタチオ専門」など、より細かな“専門店化”が進んでいるよう。一体なぜなのでしょうか。

細分化がいっそう進むスイーツ

 近年、スイーツの「専門店化」が進んでいます。

 ……と言うと、原宿のクレープ専門スタンドとか、パンケーキ専門店とか、もうずいぶん前からあったじゃない? と指摘されてしまいそうですが、昨今はさらに細分化が進んでいるようなのです。

 東京都内の店舗に限っても、例えば

・リンゴあめ専門店:Candy apple(渋谷区代官山町)
・スフレパンケーキ専門店:FLIPPER’S(目黒区自由が丘ほか)
・イチゴスイーツ専門店:いちびこ(世田谷区太子堂ほか)
・日本茶ミルクティー専門店:OCHABA(新宿区新宿)

など、さまざまです。

かわいい色合いが魅力的なイチゴミルク味のアイスキャンデー。スイーツ業界ではなぜ「専門店化」が進んでいるのか?(画像:いいね)



 昨今の「スイーツの専門店化」傾向の特徴についてまず注目したいのは、先ほども少し触れた通り、それまで以上の「細分化」が進んでいるという点。

 10年以上前からあるジャンルと比較してみると、

・フルーツ専門店 → リンゴあめ専門店、イチゴスイーツ専門店
・パンケーキ専門店 → スフレパンケーキ専門店
・抹茶専門店 → 日本茶ミルクティー専門店

といったように、昨今はより細かく分かれています。

 さらにもう1点、ピスタチオ専門といったように、これまで決して“主役級”ではなかった食材にスポットを当てた専門店が増えているのも特徴のよう。

 こうした流れの背景には何があるのでしょうか。一般的には、扱う商品のジャンルを限定することで利用者数や客層を限定してしまうリスクがあるようにも思います。各店・各企業の狙いを探ってみることにしました。

消費者のニーズをさらに深掘り

 自由が丘や下北沢、表参道などおしゃれな街に展開するスフレパンケーキの専門店「FLIPPER’S」は、数々の有名ファッションブランドを展開するベイクルーズ(渋谷区渋谷)が運営。FLIPPER’Sを立ち上げたのは、原宿を起点にパンケーキブームが起きたとされる2010年から数年後のことです。

 今やすっかり定番の地位を確立したパンケーキは、ブーム当初はバターや生クリームをふんだんに使ったアメリカンスタイルのクラシックなメニューが主流でした。

「これをさらにブラッシュアップして、ふわふわで厚みのある日本独自のスタイルに進化したのがスフレパンケーキです。当社のメニューも、卵・牛乳・バター小麦粉と厳選した素材のおいしさを引き出しているのが特長です」(同社フード部門の広報担当・黒田千尋さん)

ふわふわの食感も魅力的という、人気のスフレパンケーキ(画像:ベイクルーズ)



 スフレパンケーキの専門店と聞くと、限られたニーズに応えるためのお店なのかと思いましたが、どうやらそうでもないようです。

 すでに人気を獲得していたパンケーキを、さらに進化させたのが同店のスフレパンケーキ。母数の大きいパンケーキファンたちを中心に人気を集めて、店舗数は東京都内だけでも9か所を数えます。

物珍しさ、かわいさが起爆剤に

 物珍しさ、かわいさから消費者の注目を集める例もさまざまにあるよう。

 代官山などに店舗を持つリンゴあめ専門店「Candy apple」。代表の西野好砂(みさ)さんには当サイトも2019年夏に取材を行い、味作りための試行錯誤をうかがいました。

 人気の理由はこの味だけでなく、真っ赤で真ん丸のリンゴというビジュアルにも。かねてSNSなどへの投稿が相次いでいましたが、2020年ドラマの指折りヒット作「恋はつづくよどこまでも」(TBSテレビ系)で主人公役の上白石萌音さんが食べていたことにより、さらに知名度が高まりました。

かわいいガラス瓶に入ったイチゴミルクが人気(画像:いいね)

 また田園都市線・三軒茶屋駅などに店を構えるイチゴスイーツ専門店「いちびこ」は、宮城県山元町で誕生したミガキイチゴをメインに使っているのが特徴。一番人気はかわいいガラス瓶に入った「いちごミルク」ドリンクで、Instagramには「#いちびこ」というハッシュタグが付いた画像投稿がおよそ2万6000件も。

 運営する株式会社いいね(渋谷区宇田川町)の広報担当、片岡里織さんは、

「『専門店』の良さは、その商品を好きなお客さまに、季節を問わず来店していただけること。話題性を重視して短期的に専門店業態を展開する企業もあるかもしれませんが、弊社は(イチゴの)生産から携わっているので、末長く継続的に支持していただけるお店を目指しています」

と「専門店化」の利点を説明します。

 7月1日(水)から発売予定のアイスキャンデーは、イチゴミルクのピンク色にソーダ味の水色、アップルマンゴーのオレンジ色などのツートーンカラーがかわいらしく、こちらも人気を博しそうです。

クラウドファンディングの功績

 さて、さまざまなフレーバーがしのぎを削るスイーツ業界において、意外な食材1種にスポットを当てた専門店についても検証してみたいと思います。

 酒飲みにはおつまみのイメージが強いかもしれないピスタチオでスイーツ専門ブランドを立ち上げたのは、スイーツライターの引野徹さんが率いるAMT PROJECT(渋谷区千駄ヶ谷)です。

 コンビニのアイスにピスタチオ味が登場するなど、にわかに注目を集めつつある食材ではありますが、イチゴやチョコ、抹茶といった王道フレーバーと比べればまだまだ2番手いや3番手というイメージが強いピスタチオ。

 ところが、引野さんが「ピスタチオの濃厚スイーツ」を通信販売しようと2020年5月末にクラウドファンディングで支援を呼び掛けたところ、目標金額(50万円)の実に4.5倍超に当たる227万円もの支援金が寄せられました。

クラウドファンディングで目標額の4.5倍超の支援金が集まったピスタチオのテリーヌ(画像:AMT PROJECT)



 この結果には引野さん自身もびっくり。“勝因”のひとつとして、ピスタチオ好きの願望に応える理想のピスタチオスイーツを目指したことを挙げます。

 ピスタチオ独特の濃厚でまろやかな香りを存分に楽しめるよう、原材料には高級品のイタリア・シチリア産をチョイス。看板メニューには、ピスタチオの味や香りがより際立つ「テリーヌ」を据えました。

 一方、こうした「一点勝負型」の商品展開をかなえたのは、クラウドファンディングという仕組みによるところも大きかったと、引野さんは考えます。

「例えば大手メーカーなら、どうしても大衆受けする商品が多くなるかと思います。しかしクラウドファンディングを使ったプロジェクトなら、材料費などの資金を募ることができるため個々人の参入障壁が下がります。今回のピスタチオテリーヌのように、想像以上のニーズが世の中にはあるのだということを知る機会にもなりますね」(引野さん)

消費者を飽きさせないための策

 確かにクラウドファンディングの有名サイトをのぞいてみると、スイーツのカテゴリーには「納豆ショコラ」や「桜ラテ」、「日本酒アイス」など、ちょっと風変わりだけど興味を引かれる商品提案がズラリ。

 個々人の趣味が細分化・多様化し、あるひとつのジャンル・分野を突き詰める人が増え「1億総オタク社会」などとも称される現代。スイーツ界わいもまた、より細かなニーズに応える向きを強めているようです。そして、商品の製造・販売を実現するひとつのツールとしてクラウドファンディングが一躍買っている、と。

 ちなみに、引野さんのピスタチオ同様、フルーツ1種に絞ってフルコースを提供する専門店もあります。中央区銀座にある「フルーツサロン」です。同店は約1か月に一度のペースでコースメニューのフルーツを刷新していて、2020年7月1日(水)からは国産メロンをふんだんに使ったコースを開始予定。

何種類もの国産メロンを一度に味わえるメロンのフルコース(画像:MTG)



「銀座にいらっしゃる方は皆さん、目も舌も肥えていますから、ひと皿のデザートでは味わいきれないフルーツのおいしさを、当店のフルコースでたっぷり堪能していただきたいです」と同店のPR担当者は話します。

※ ※ ※

 消費者のニーズをすくい上げ、さらには常に飽きさせまいとする店側のさまざまな工夫が、今回の取材から見えました。

 これから誕生する新しいスイーツ専門店も、変わり種をひとしきり堪能した後で回帰する王道スイーツも、どちらも魅力的。皆さんは今どんなスイーツに関心がありますか?

関連記事