東京モーターショーを超える「東京オートサロン」という名のイケてる遊興空間

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東京モーターショーを超える「東京オートサロン」という名のイケてる遊興空間

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中村圭

文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナー

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国内のカーイベントというと「東京モーターショー」を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、近年、注目を集めているのが、2020年1月に幕張メッセで開かれた「東京オートサロン」です。ふたつのイベントの違いは何か、なぜ「東京オートサロン」のプレゼンスが高まっているのか? 文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。

「東京エキサイティングカーショー」が起源

 去る2020年1月10(金)日から12日(日)まで、幕張メッセ(千葉市)にて「東京オートサロン2020」が開催されました。

「東京オートサロン」はわが国を代表するカーイベントのひとつで、チューニング・ドレスアップの総合展示会です。世界最大級のカスタムカーイベントであり、ドイツの「エッセンモーターショー」、アメリカの「セマショー」と並んで世界三大カスタムカーショーに挙げられています。

 イベント開催の経緯は、1983(昭和58)年にチューニングカーマガジン「OPTION」誌初代編集長がカスタムカー文化を世に広めるためにスタートさせた「東京エキサイティングカーショー」が起源です。1987年の第5回から「東京オートサロン」に名称を変更し、年々規模を拡大していきました。

トヨタ「GRヤリス」パフォーマンス(画像:東京オートサロン事務局)



 今回はトヨタが注目のスポーツ4WD「ヤリス」を初披露してトヨタ社長・豊田章男氏が駆け付けたほか、ZOZO創業者の前澤友作氏が注文したことで話題となったケーニグセグ・オートモーティブの3.8億円のスーパーカー「ケーニグセグ・ジェスコ」も登場しました。

 世界初の認定中古車店「マクラーレン クオリファイド東京」(江東区有明)を2019年10月4日(金)にオープンしたマクラーレンも初出展し、スーパーシリーズのフラッグシップモデルである「720Sスパイダー」を展示。

 同じく初出展のボルボは夏に日本発売予定の「XC60 T8ポールスターエンジニアード」を日本初公開。また、日本初のレーシングカーオークション「SUPER GT AUCTION-TAS-」や「東京国際カスタムカーコンテスト2020」も開催され、話題には事欠きません。

「コト消費」を打ち出した内容

 カーイベントというと、東京ビッグサイトで隔年開催される「東京モーターショー」を思い浮かべる人が多いでしょう。同イベントは国内外の大手自動車メーカーが出展する世界屈指の車の見本市で、1990年代初頭の最盛期には15日間で200万人もの人を集めました。

 カーマニア以外も集客し、えりすぐりのコンパニオンが集結することから、それ目当ての素人カメラマンが集まることでも話題になりました。しかし、近年は日本市場が成熟期にあることもあり、海外大手メーカーの中では出展の効果が薄いと判断、「東京モーターショー」から撤退する動きが出てきています。

「東京オートサロン2020」全景(画像:東京オートサロン事務局)



「東京モーターショー」の2017年の来場者数は10日間で77万1200人、1日当たり約7.7万人まで落ち込みました。2019年は内容を参加・体験型に見直し、車関連の仕事が体験できる「アウト オブ キッザニアin TMS 2019」を招致するなどして、12日間で130万900人、1日当たり約10.8万人に持ち直しました。しかし、多くの海外大手メーカーが出展を見合わせるなど、カーイベントとしての衰退の色は否めません。

「東京モーターショー」は、大手メーカーが中心となって新車やコンセプトカーを発表したり、車社会の未来の姿を提示したりする内容になっており、メーカーで内容が比較的同じ方向性になりがちです。

 一方、「東京オートサロン」は車をどう走らせるか、車でどう遊ぶか、車でどう快適に過ごすかといった、車による「コト消費」(所有では得られない体験など価値を置く消費)がテーマで、内容や車種が多様であり、出展者も大手メーカーから中小パーツメーカー・チューナーまで多岐にわたっています。カーユーザーにとっては身近で興味のある内容であり、若い層も含め幅広い層が来場しています。

日本車に強いリスペクトを持つ外国人

 今回の来場者数は3日間で33万6060人、1日当たり約11.2万人を集客しました。1日当たりでは「東京モーターショー」の来場者数を上回っています。マクラーレンやボルボ、ロータス、シボレーなど、「東京モーターショー」には出展していませんが「東京オートサロン」には出展している海外大手メーカーもいます。

トヨタ社長・豊田章男氏も登場(画像:東京オートサロン事務局)



 量産車以外では日本は依然魅力のある市場であり、これらのメーカーにとって「東京オートサロン」は目の肥えたカーマニアが集まる場所と認識されています。「東京オートサロン」のプレゼンスがより高まっていると言えるでしょう。そして、会場には海外からのカーマニアの来場者も見られ、世界中でレビューがアップされています。

 海外では、日本の車文化や日本車(主に旧車)に強いリスペクトを持つ人が一定数存在します。日本では1980年代~1990年代初頭にかけて、若い男性が車に対して強い憧れを抱き、決して裕福ではない若者もアルバイト代や給料をためて、工夫しながら車をチューニングするという文化が醸成されました。極端な例ですが、わかりやすく言えば漫画「湾岸ミッドナイト」や「頭文字D」の世界です。

 これは日本独特の車文化で、海外の一部のカーマニアからは強い興味を持たれています。例えば走り屋を扱った人気映画シリーズでは日本も舞台になり、主人公が乗る車として日本車が多く登場しています。また、アメリカの「ジャパニーズ・クラシック・カー・ショー」と言った日本の旧車を扱ったカーイベントもあります。

 モータースポーツは地上波放映がなくなったため、国内ではあまり盛り上がりが見られませんが、海外では依然人気の高いエンターテインメントです。現在、F1はドバイやシンガポールなど新興富裕層の多い国でも開催されています。アブダビでは2010年にフェラーリの室内型テーマパーク「フェラーリ・ワールド・アブダビ」がオープンし、世界的に話題になりました。

潜在層をあぶり出す「東京オートサロン」の活況

 日本ではあまり一般的には話題になっていませんが、ホンダエンジンは2019年シーズンの第11戦ドイツGPで、27年ぶりに表彰台の一番高いところに登りました。なかなか結果が出ずファンはやきもきしていましたが、F1においてホンダは今も存在感が高いと言えます。

「東京オートサロン2020」ブース俯瞰(画像:東京オートサロン事務局)



 わが国においてはIR(統合型リゾート)事業の本格化、インバウンドの急増などにより、インバウンド向けの集客コンテンツが希求されています。机上にはいつも同じような顔ぶれが並びますが、日本の文化資源はそれだけではありません。

 国内においても、トヨタのモビリティ体験型テーマパーク「MEGA WEB」(江東区青海)でインバウンドの利用が増加していることが、レジャー業界で話題となっています。同施設では2017年以降、活発にリニューアルを実施しています。

 若者の車離れが言われて久しいですが、視点を変えれば国内外に車に強い興味を持つ人は依然多く存在している状態です。「東京オートサロン」の活況は潜在層の大きさを物語っていると言えるでしょう。

 興味のある人は、「東京オートサロン」や車関連の施設に足を運んでみてください。

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