佐賀県が「ド派手なイチゴバス」を都心に走らせる切実な事情

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佐賀県が「ド派手なイチゴバス」を都心に走らせる切実な事情

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1月15日の「いちごの日」記念日にちなんだ「イチゴ狩りバスツアー」イベントが、2020年1月15日(水)~19日(日)に東京都内で行われます。と、いっても普通のイチゴ狩りではありません。2階建てバスの車内でイチゴ狩りをして、イチゴスイーツを食べながら都心の一大名所を観光する、という内容です。肝心のイチゴは佐賀県産の新品種。一風変わったこの企画の狙いは、いったい何なのでしょうか。

真っ赤なイチゴに秘めた「願い」

 東京メトロ銀座線・外苑前駅近くの路上に、真っ赤な2階建てバスが止まりました。車体はイチゴのイラストとオブジェでゴージャスに飾り立てられ、白い文字で「いちごさん From SAGA(佐賀)」というロゴマーク。車内には、わずかに甘い香りが漂っています。

 こちらはバスの車内でイチゴ狩りとイチゴスイーツ、そして東京都心観光が一度に楽しめるという「イチゴ狩りバスツアー」の専用バス。2020年1月15日(水)~19日(日)に行われます。ひと粒で2度も3度もおいしそうな企画ですが、いったいどのような狙いがあるのでしょうか。

真っ赤な車内に、イチゴの装飾をまとったバス。車内でイチゴ狩りとイチゴスイーツと東京都心観光が楽しめる(2020年1月14日、遠藤綾乃撮影)



 企画したのは、東京などでさまざまなイベントを立案・開催しているクリエーターのアフロマンスさん。佐賀県産の新品種「いちごさん」のPRというテーマを受けて、老若男女に人気のイチゴ狩りバスツアーに着想したといいます。

「一般的なイチゴ狩りツアーといえば、バスに乗ってイチゴ農園へ出掛けて行きますが、今回の企画は『バスの中にイチゴを詰め込む』という逆転の発想をしました。イチゴの甘~い香りを楽しみながら、お客さん自身の手でイチゴを摘み、車内でBGMを聴きつつイチゴとスイーツを味わい、窓からは都内の風景を堪能する……。五感全てを使って楽しめる企画にしています。写真映えもしますから、街でバスを見かけた人たちの目にも留まるでしょう」(アフロマンスさん)

 車内はもちろん赤が基調。1階には凛とした大粒の実を付けたイチゴの苗が並んでいて、まさにイチゴ狩り会場そのもの。好きな実を摘んだあとは、半らせん状の細い階段を上って2階席へと上がります。

 2席ずつ2列に並ぶ客席には、これまた真っ赤なスイーツスタンドに盛り付けられた5種類のイチゴスイーツが。魅惑の艶めきを放つスイーツに見とれているうちに、バスは発車の合図を告げました。「イチゴ狩りバスツアー」の始まりです。

港区・渋谷区の有名スポットをぐるり回遊

 発着場所となるロイヤルガーデンカフェ青山(港区北青山)の前を出発したバスは、明治神宮野球場(新宿区霞ヶ丘町)を左手に見ながら、2020年東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる国立競技場(同)の横を通過。

 沿道を歩く人たちは、ド派手な車体のバスに驚いた様子で、スマートフォンのカメラを向けたり、乗客へ手を振ったりしています。

バスの2階席には、真っ赤なスイーツスタンドに盛り付けられた佐賀県産「いちごさん」を使った5種のスイーツ(2020年1月14日、遠藤綾乃撮影)



 想像以上に揺れる2階建てバスに戸惑いつつも、早速イチゴとスイーツを味わってみることにしました。おっと、あまりの揺れでイチゴソースに添えられたクロワッサンが卓上を転がっていきます。隣の席に居合わせたスポーツ新聞の中年男性記者と顔を見合わせ、思わず苦笑い……。

 気を取り直して、摘んだばかりのイチゴをそのままパクリ。これが、実にみずみずしく、すがすがしい味わいです。前面に出過ぎない甘さと酸味がちょうどよく、ほかに無いほどの水分をたたえていて、どこか水彩画のような日本らしい甘さとはかなさを感じさせるイチゴです。

 このイチゴを使った5種のスイーツ(パンナコッタやクレープなど)は、三ツ星レストランで腕を振るったドイツ出身のシェフ、デニス・バクサさんが考案したものだそう。イチゴ自体の優しい甘さを存分に生かした、大人にも「甘過ぎない」上品な5品です。

 上質スイーツをいただきながら、2階建ての高さから眺める東京都心の景色はとても新鮮。

 バスは、ラフォーレ原宿(渋谷区神宮前)前の交差点や、渋谷のスクランブル交差点(同区道玄坂)、表参道交差点(南区北青山)といった有名スポットを抜けながら、約35分かけて発着所であるカフェへ戻るルートをたどります。

 14日(火)に開かれた事前の内覧ツアーには、今回の佐賀県産種「いちごさん」を手掛けたJAグループ佐賀・いちご部会の本弓寿徳(ほんきゅう・ひさのり)部会長と、佐賀県流通・貿易課の荒平愛佳(あらひら・あいか)さんも出席していました。

 本弓さんは「いちごさん」への思いをこう語ります。

「色、形、大きさ、味、どれをとっても他県産の品種に負けないイチゴだと、自信を持っております」

佐賀が「20年ぶりの新イチゴ」を開発した背景

 佐賀にとって「いちごさん」は、「さがほのか」以来20年ぶりに誕生した新ブランドのイチゴです。県・JA・生産者が一体となり7年もの時間を掛けて開発した背景には、県農産物(産出額)トップ5に入る重要品目のイチゴが今、他の生産地に後塵(こうじん)を拝している状況があります。

 荒平さんによると、JAグループ佐賀・イチゴ生産農家の数は、1998(平成10)年の1563戸から2019年には半数以下の738戸にまで減少。作付面積も、同じく310haから135haへと半数を割り込んでいます。

「かつては国内で5本の指に入っていた」(本弓さん)佐賀のイチゴは現在、2018年の都道府県別の生産量ランキングで8位と後退。全生産量(16万1800t)のうち4.9%(7910t)程度にとどまります。各県産の魅力的な新品種が次々と登場するなかで、「さがほのか」1種で展開してきた佐賀は戦略の見直しを迫られていました。

粒が大きく、赤色が濃く、すがすがしい甘みと酸味が特長の「いちごさん」(2020年1月14日、遠藤綾乃撮影)



 2品めとなる県産ブランドの開発プロジェクトが発足したのは、2010年。

「開発の過程では、何十種類もの種同士を掛け合わせて、育てては試食してを繰り返して、1万5000株も試作を重ねました。ようやっとできたのが、この『いちごさん』です。『さがほのか』より粒が大きく、紅(赤色)が濃く、糖度が高く、病気にも強い。ようやっとできた自信作です」(本弓さん)

 2018年秋にデビューした「いちごさん」は、紀ノ国屋青山店(港区北青山)やハヤシフルーツ(渋谷区渋谷)といった高級店の店頭に並ぶなど、東京都内でも少しずつ足場を固めつつあります。

 出荷量は2019年が前年比4倍と順調に拡大中。「さがほのか」に比べて月ごとの収穫量の振れ幅が少ないため、安定した供給が可能になる点もメリットだそうです。

「大きくて真っ赤な『いちごさん』は、作った自分でも見とれるくらいきれい。味も申し分ない。子どもも大人も好きになってくれるイチゴだと思っております」と本弓さん。

 大粒の実に、「佐賀イチゴ」の復権を誓います。

イチゴ狩りバスツアーは、若干の当日券あり。

「いちごさん」のイチゴ狩りバスツアーは、2020年1月15日(水)~19日(日)に毎日6便ずつ運行。ひとり2組のペアチケットが7600円で、前売り券は完売したものの、各日とも若干の当日券を用意しているそうです。

 また、「いちごさん」を使ったスイーツは15日(水)~28日(火)の期間中、ロイヤルガーデンカフェ青山でも食べられるそうです。佐賀の生産者と県が威信をかけて作り出した新品種の味わいを、試しに行ってみてはいかがでしょうか。

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