闇営業騒動から見る、芸能と政治の蜜月ぶり その背後に「情報都市・東京」の存在があった

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闇営業騒動から見る、芸能と政治の蜜月ぶり その背後に「情報都市・東京」の存在があった

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小川裕夫

フリーランスライター

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一見無関係なように見える芸能界と政治の世界。しかし、実は切っても切り離せない関係にあると、フリーランスライターの小川裕夫さんは言います。吉本興業の闇営業問題で揺れる業界を別視点から覗いてみましょう。

エンターテインメントは「政治」の一部

 芸人と反社会的集団の闇営業問題は、世間から大きな関心を集めるトピックになっています。事態の収拾を図った吉本興業(大阪市)は、雨上がり決死隊・宮迫博之さんとロンドンブーツ1号2号・田村亮さんのふたりを契約解除すると発表。ふたりの記者会見は、インターネットでも生中継されました。その画面に釘づけになっていた人も多かったことでしょう。

 その後も騒動は収まらず、ワイドショーやスポーツ紙、インターネットニュースでも盛んに報道が繰り返されています。

闇営業騒動で記者会見を行う宮迫さんと田村さん(画像:2019年7月20日、時事)



 今回の騒動は、芸能界のみならず永田町や霞が関にも飛び火しました。内閣の一員である閣僚は、毎週火・金曜日に定例記者会見を実施しています。その定例記者会見でも、一連の騒動への質問が相次ぎました。

 政治の中枢である永田町・霞が関と芸能界は、無関係のように見えます。しかし、現代社会においては政治と芸能は切っても切り離せない関係にあります。

 その中でも、特に吉本興業と永田町との関係は濃密です。例えば、沖縄県の普天間基地の移転を巡る有識者懇談会「基地跡地の未来に関する懇談会」には吉本興業の大崎洋会長が出席し、意見を述べています。

 また、官民共同で設立された投資ファンド「海外需要開拓支援機構」(通称・クールジャパン機構、港区六本木)は、吉本興業とNTTの合同事業に約100億円を出資。2025年に大阪で開催予定の日本国際博覧会(大阪万博)にも、吉本興業は大きく関わっています。

「ニュースは吉本興業のような芸能ニュースばかり取り上げないで、もっと大事な政治の話を報道するべきだ」といった声も聞かれますが、今回の件は単なる芸能ニュースとして消費する内容ではありません。

 そもそも私たちの暮らしは、政治から何かしらの影響を受けます。政治に“無関心”で生きることはできても、政治と“無関係”で生きることはできません。

 その中でも、強大な発信力を有する芸能人の影響力は大きく、社会を動かし、私たちの暮らしを変える力を持っています。エンターテインメントは、“政治”の一部でもあるのです。

芸能人は政治と無関係ではいられない

「永田町」は「国会」を意味する符牒(ふちょう。仲間だけに通用する言葉)ですが、都道府県や市区町村といった地方自治体も政治の一端を担っています。むしろ、地方自治体の方が私たちの暮らしに身近な政治を扱っており、そうした地方自治体も各所で芸能界と結びついています。

 例えば、さぬきうどんで有名な香川県は地場産品や観光地PRの一環として、架空の県「うどん県」を爆誕させました。そして、副知事に香川県三豊市出身の俳優・要潤さんと高松市出身の歌手・木内晶子さんが就任しています。

うどん県副知事の要潤さん(左)と木内晶子さん(右)が香川県のさぬきうどんやオリーブといった名産品をPR(画像:小川裕夫)



 少子化対策の一環から、近年は自治体が婚活パーティーを主催することも珍しくありません。東京都は婚活イベント“TOKYO縁結日”を開催し、エッセイストの犬山紙子さんと元プロレスラーの高田延彦さんが登壇。トークに花を咲かせました。

 福岡県北九州市は市制施行55周年を記念し、俳優の草刈正雄さんをアンバサダーに委嘱。市のPR活動に力を入れています。

 2011(平成23)年にアナログ放送は終了し、地上デジタル放送へと完全移行しました。電波を所管する総務省は事前から啓発活動に力を入れました。SMAP(当時)の草彅剛さんをPRキャラクターに抜擢し、各局の女性アナウンサーを地デジ推進大使に起用しています。

 移行前にもイベントを開催し、そこにはタレントの萩本欽一さん、俳優の高橋英樹さん、歌手の北島三郎さんなどが出席。世間の関心を高めることに一役買いました。

 ほかにも一日警察署長にアイドルが任命されたり、確定申告の時期にPRキャラクターに起用されたりと、政治と芸能が結びつく例は山ほどあります。

 また、純粋な芸能人ではありませんが、世間からの認知度や露出という点でテレビ局のアナウンサーも芸能人に匹敵する存在です。

 昨今、「芸能人が政治を語るな」という言説も目にします。しかし、芸能人も生きている以上は政治と無関係ではいられません。発言に政治性を帯びるのは自然なことです。むしろ、政治に対して無自覚な方が問題かもしれません。

地方イベントが東京で催行「ちぐはぐ」

 近年、政治の側から芸能に接近する傾向が強まっています。その理由は、何と言っても政治が芸能人の発信力とイメージアップに期待を寄せているからです。発信力の強い芸能人を起用すれば、世間に広く政策を伝えることができ、理解を得られやすくなります。

 しかし、芸能人が元から強力な発信力を有していたわけではありません。

東京都主催の婚活イベント「TOKYO縁結日」で、トークに花を咲かせる高田延彦さん(右)。奥様はタレントの向井亜紀さん(画像:小川裕夫)



 明治期・大正期にわたり、もっとも発信力を備えていたのは何よりも政治家自身でした。板垣退助や大隈重信は頻繁に地方遊説に出かけていますが、出迎える地方は凄まじい歓迎ぶりでした。

 政治家人気が下火になる昭和初年は、映画俳優の発信力が増しました。戦後は娯楽の王様がテレビに交代し、テレビに出ているタレントの発信力が強くなります。

 それまで情報の伝達手段が限られていたこともあり、何かを広めるには現地まで足を運ばなければなりませんでした。

 その障壁を取り除いたのが、東京に居ながら情報を届けられるテレビの登場です。カラーテレビが一般家庭に普及した昭和50年代以降は、飛躍的に情報伝達スピードが加速。政治も経済も芸能も文化も、すべての情報が東京発になったのです。

 そして、東京にはテレビキー局が集中していることから、東京は情報産業の中心になります。全国に電波を乗せられるキー局が東京にあり、キー局の電波に乗ることは全国ニュースとして扱われることとほぼ同義です。

 東京の一極集中はテレビ局という情報装置の集積によって生まれたわけですが、テレビという単なる受像機が果たした役割も大きいものがあります。

 地方の知事や市長が上京し、そして東京に居住する芸能人にPRを委嘱する。地方を振興する取り組みなのに、そのお披露目イベントが東京で催行される。ちぐはぐな現象が当たり前になっています。

 そうした光景も、東京が情報の中心地であることを物語っています。

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