都内に潜む「階段路地」 高低差が生む、その「妖しさ」に魅せられて

まちの歴史やそこで暮らすひとびとの文化が詰まった空間、それが「路地裏」です。今回は、東京に現存する「階段路地」の魅力や、その文化的な役割について、法政大学大学院政策創造研究科の増淵敏之教授が解説します。


路地裏から文化は生まれる

 私(増淵敏之/法政大学大学院政策創造研究科教授)は、2012年に『路地裏が文化を作る!』(青弓社)を上梓しました。

「階段路地」には不思議な魅力がある。写真はイメージ(画像:写真AC)

 その動機は、路地裏と称される細街路(幅が4メートル未満の道路)が構成する猥雑な空間が、文化生産の「場」になっていたのではないかという仮説を持っていたからです。細街路が構成する面としての界隈が、そこから絶えず何らかのムーブメントの温床になっていた時代に思いを馳せて、ということでした。

 いわゆるポップカルチャーの原型は、ストリートレベルから生まれた事例が多いことから、コミュニケーションの「場」として路地裏に注目していたような気がします。徐々に消滅しつつありますが、日本の都市にも、まだそういった路地裏空間がいくつも残っています。

 東京は坂の多いまちです。そのため、路地といっても決してフラットなものばかりではありません。今回、ご紹介するのは「階段路地」です。路地は起伏があって、新たな魅力を持ちますが、階段路地はその高低差に格別の味があるように思えます。

東京「階段路地」スポット6選

 具体的な例をいくつか挙げてみましょう。

●兵庫横丁の坂、フランス坂(神楽坂)
 最近は外国人の姿が数多く目につく神楽坂通りの途中から、右に入って旅館「和可菜」の方面に向かう路地です。この階段は短いのですが、クランク(直角の狭いカーブがつながっている道路形状)しているところに特徴があります。和可菜は数々の映画監督や作家が執筆に使ったことでも有名です。この路地は「兵庫横丁の坂」とも呼ばれています。

 またやはり神楽坂通りから左に入ると、うどんすきで有名な「鳥茶屋」に至る通称「フランス坂」です。リンゴ坂、熱海坂と呼ぶ向きもあるようですが、こちらも階段路地で兵庫坂より階段が長く、テレビドラマのロケ地としてもよく使われています。

 神楽坂の路地は石畳のところが多く、薄暮の時間、いわゆる黄昏時がもっとも風情があるのかもしれません。店の行燈の明かりが石畳の路地や階段を浮き上がらせます。

●百軒店近く『アフターダーク』風の坂、スペイン坂(渋谷)
 渋谷も味わい深いところです。ここにも階段路地がいくつかあります。百軒店近くの台湾料理店「麗郷」の横から延びる階段路地はラブホテル街に続くのですが、村上春樹『アフターダーク』(講談社)に出てくる階段がこれなのでしょうか。

 そして渋谷において妖しさを伴うこの階段が夜の雰囲気を醸し出しているのに対して、休日のイメージが漂う「スペイン坂」は井の頭通りから公園通りの裏に出る階段は渋谷の繁華街の中心にあり、大勢のひとびとで賑わっています。

 神楽坂も「坂」、そして渋谷は「谷」ということで、やはりすり鉢状の東京の地形による産物なのでしょう。

●男坂・女坂(お茶の水)
 さらにもうひとつ、これは筆者の青春の思い出的なお茶の水にある「男坂」、「女坂」です。かつての明治大学付属明治高校(現在は明治大学猿楽町校舎)の脇に急坂ともいえる階段があり、これが男坂、もう少しJR水道橋駅寄りの比較的緩やかな坂が女坂です。

 男坂は直線ですが、女坂は途中で曲がっています。ただし女坂の方が先に命名されたとのこと。ふたつの坂では、現在も学生が行き交う光景を目にします。これもやはり階段路地といえましょう。

コミュニティ空間としての「階段」に注目


【写真】村上春樹の世界を歩く、渋谷の階段路地

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