タンメン+ギョーザ = タンギョウ! 江東区木場にある「タンギョウロード」を歩いて、発祥のお店に深い話を聞いてきた
皆さんはタンメンとギョーザをあわせた「タンギョウ」という言葉をご存じでしょうか。今回はそんなタンギョウの名店を食べ歩き評論家の下関マグロさんが訪問しました。「タンギョウ」とは何か 暑かった夏も終わろうとしています。夏の「町中華」(地元に根ざした大衆的な中華料理店)のメニューといえば、冷やし中華です。では、秋の町中華のメニューはなんでしょうか。個人的にはタンメンとギョーザのセット、いわゆる「タンギョウ」ではないかと思います。 西日本で育った筆者(下関マグロ、食べ歩き評論家)にとって、タンメンはなじみのないメニューでした。タンメンを初めて知ったのは上京してから。当時20代だった筆者にとって、タンメンは今と違ってさほど魅力的なメニューではありませんでした。なぜならそのイメージは、 ・塩味のスープ ・たっぷりの野菜 ・ちょっぴりの肉 ・おじさんが注文するメニュー で、「タンメン = おじさん」だったからです。 そんなタンメンですが、筆者は40代になって突然好きになりました。理由はよくわかりませんが、自分もおじさんになったと自覚したからでしょうか。 江東区東陽にあるタンギョウ発祥のお店といわれる「来々軒」(画像:下関マグロ) 以来、タンメンの食べ歩きを始めましたが、徐々にタンメンだけだと物足りなくなってきたのです。それからというもの、タンメンと一緒にギョーザを注文するように。満足度はこのコンビネーションでマックスになります。 なぜか江東区「木場」に名店が集合 筆者がタンギョウについて調べたところ、江東区の木場に名店が軒を連ねているとの情報を得たので、早速足を運んでみました。 東西線の木場駅から地上へあがると、永代通りが広がります。時間はお昼時。ここから東へ行く道を筆者は「タンギョウロード」と名付けることにしました(理由は後ほど)。道を歩いていると、まず見えてきたのが宝家(江東区東陽3)です。 老舗の町中華で、ランチ「Aセット」がタンメンとギョーザ3個とあります。タンメンのスープはオーソドックスながらパンチがあります。ギョーザは箸で持ち上げるとぐにゃりとするほど柔らかな皮に、ニラやニンニクなどをたっぷり使ったインパクトのある餡(あん)が魅力です。 江東区東陽にある宝家のメニュー(画像:下関マグロ) 宝家の先には、濃厚つけ麺で知られる六厘舎が展開するトナリ(同)があります。このお店は東京でタンメンが再ブームになるきっかけを作った店です。懐かしいけどどこか新しい感覚のタンギョウが楽しめます。ちなみに「タンカラ」もあって、こちらはタンメンと唐揚げのメニューです。 筆者がこの通りをタンギョウロードと名付けたのは、宝家とトナリの間にある来々軒(同)の存在が大きいのです。 1959年創業の来々軒はタンギョウ発祥のお店1959年創業の来々軒はタンギョウ発祥のお店 来々軒がタンギョウ発祥の店だという情報を得て、筆者が初めて足を運んだとき、残念ながらお店はすでに閉店していました。しばらくすると、来々軒が復活したという情報がインターネット上に出回り、筆者は狂喜乱舞したのを覚えています。 町中華の代替わりにはいくつかのパターンあります。一番多いのは、奥さん・息子さんなどの家族や、ベテラン従業員による引き継ぎ。少ないのは常連客による引き継ぎです。木場の来々軒は後者です。ちなみに、常連客による引き継ぎで有名なのは蒙古タンメン中本ですね。 来々軒の所在地(画像:(C)Google) 来々軒店主の荒張好衛さんが店を継いだのは、2009(平成21)年から。その経緯は容易ではなかったそうです。 「常連客だったので、閉店を知ったときはあの味がもう食べられなくなるのかとショックでした」 荒張さんはそれまで大手運送会社の社員として働いていましたが、自分が来々軒を継いで味を残そうと決意します。しかし当時、お店はすでに閉店していたので、店主と話をすることもままなりませんでした。 なんとか手を尽くして連絡を取るまでは至りましたが、店を継ぐことは許されませんでした。それでもなんとか会うところまでこぎつけました。元店主は荒張さんの顔を見るなり、こう言いました。 「なんだ、お前か……」 店を引き継ぐ条件は「家族でやること」 なんとかお店を継ぐことを許された荒張さんですが、条件がひとつだけありました。それは「家族でやること」。幸い、奥さまや息子さんもいっしょに働いてくれることになり、条件をクリアして店を継ぐことになりました。 そんな荒張さんですが、タンメンやギョーザの味はよくわかっていたものの、作り方は知りませんでした。そのため、元店主が作り方を教えてくれたのですが、その期間はたったの1週間! 右から3代目店主の荒張好衛さん、奥さまの弘子さん、息子の悟さん(画像:下関マグロ) しかし荒張さんは努力を重ね、味を再現できるようになりました。そして2009年11月1日、来々軒はめでたく復活しました。復活当日は行列ができて大盛況でしたが、1か月ほどで客足は遠のきます。その理由は、 ・メニューがタンメンとギョーザしかなかったこと ・調理に慣れないため提供までに時間がかかったこと でした。 「やはり、素人がいきなりお店をやろうとするのは大変なんですよ」 その後、メニューを増やしたり、提供時間を早くしたりすることで、客足は徐々に戻り、再び行列ができる人気店になっていきました。 ちなみに荒張さんは来々軒の3代目です。 「来々軒は熊木さんという方が今の店の近所に創業されて、その後は弟さんが店を継がれました。私が店を継ぎたいとお願いしたのは弟さんです。そのため、私で3代目ということになります」 どういう形であれ、味が引き継がれていくことはうれしいことですね。 攻めたスープと存在感抜群の太麺攻めたスープと存在感抜群の太麺 来々軒は入ったすぐの場所に券売機があります。券売機にはいろいろなメニューがありますが、どの店もイチオシメニューはたいてい左上にあります。来々軒の左上には「タンメン餃子 1290円」とありました。 最近筆者は食が細くなり、1人前のギョーザすら食べられないので、3個(330円)とタンメン(760円)のボタンを押します。食券を渡すとすぐにゆでた野菜が提供されます。卓上の自家製ラー油を野菜にかけて食べます。終わったころにギョーザ3個とタンメンが到着しました。 タンメン(760円)と焼き餃子3個(330円)(画像:下関マグロ) タンメンはキャベツを始めとするたっぷり野菜とスープ、両方とも結構攻めています。スープに負けない太麺は存在感バツグン。ギョーザの餡には味がしっかりついているのでそのまま食べました。卓上の調味料を使っている人も多いです。 荒張さんによれば、最近女性の間で酢とこしょうを入れたタレがはやっているそうです。ちなみにこちらのギョーザは焼くときに水やお湯ではなく、鶏がらスープを入れて焼き上げます。だから皮そのものもおいしいのです。 今回、ギョーザ3個とタンメンを食べましたが、おなかいっぱいです。今度は麺少なめにしようと思いました。
- 中華料理・町中華