寡黙な男性は「サウナ」がお好き? 日本と異なるフィンランドのサウナ文化、南麻布「フィンランド大使館」などに聞く
ここ数年サウナブームが巻き起こっていますが、なかでもフィンランド式サウナの人気が高まっています。2019年春には、同国へサウナを目的としたツアーも初催行されるなど、その注目度は増すばかり。本場フィンランドにおいて、サウナは人々にとってどのような存在なのでしょうか。ふたりのフィンランド人に話を聞きました。フィンランド人に聞く、サウナの役割 ここ数年ブームとなっているサウナは、フィンランドが本場であることをご存じの人も多いことでしょう。東京でもフィンランド式サウナが増えており、2019年9月には、サウナを題材としたフィンランド映画『サウナのあるところ』の全国での順次公開が始まりました。 フィンランドというと、日本人にとっては「ムーミン」や「サンタクロース」が象徴的な国といえましたが、今は「サウナ」の印象が広がりつつあるのではないでしょうか。 サウナはフィンランドが本場。写真左から2番目は現在公開中の『サウナのあるところ』で共同監督を務めた、ミカ・ホタカイネンさん(画像:アップリンク + kinologue) 同国内には、約550万人の人口に対しておよそ300万ものサウナがあり、日本のサウナブームに目をつけた旅行会社、フィンコーポレーション(ブランド名:北欧旅行 フィンツアー。港区芝)が、2019年4月、サウナを目的としたフィンランドへのツアーを初催行しました。同社広報担当者によると、薪式、電気式、スモークサウナなど、異なるスタイルのサウナ8か所を巡る同ツアーは、30〜40代を中心に19人が参加(うち18人が男性)。大好評だったこともあり、現在同じ行程の商品を販売中です。 フィンツアーに続き、エイチ・アイ・エス(HIS。新宿区西新宿)ほか複数の大手旅行会社もサウナを組み込んだ行程やオプショナルツアーを用意したフィンランドへのツアーを催行しています。 日本人をはるか北欧にまで足を運ばせる、フィンランド式サウナのチカラ。日本の一般的なドライサウナとの大きな違いは、中に石を積んだストーブがあり、それに利用者自身が水をかけることで蒸気(ロウリュ)を発生させ、室内温度を調整する方式です。 このロウリュの認知度も高まっていますが、フィンランドの人たちにとってサウナがどのような存在なのかまで、知る人はさほど多くないのではないのではないでしょうか。そこで、これについてふたりのフィンランド人に聞いた話を紹介します。 ひとりは、前述の映画『サウナのあるところ』の共同監督を務めたミカ・ホタカイネンさんです。同映画はフィンランドの一般男性たちが、サウナのなかで各々の悩みや苦しみを打ち明けるドキュメンタリーで、フィンランド国内で1年以上のロングランを記録しました。ミカさんは、都内を皮切りとした全国順次公開に際して東京を訪れ、その機会に話を聞かせてもらいました。 サウナは心の内側を吐露できる特別な場所サウナは心の内側を吐露できる特別な場所 記者がこの映画を見た際、プライベートな内容もさることながら、全裸で出演してくれる人を探すのが大変だったのではないかと思いました。それについて、ミカさんは次のように話しました。 映画『サウナのあるところ』のサウナ内でのシーン(画像:(C)2010 Oktober Oy.)「私も最初そう思っていたのですが、意外にもそのハードルは低かったです。出演交渉の際に、全裸が映し出されても大丈夫かと念押ししたら、皆さんに『だって、サウナに服を着て入れないですよね?』と言われました。今思うと、全裸でなければ心の奥底にある悲しみや苦しみを、カメラが回っているところであのように話すことできなかったと思います」 ミカさんは、寡黙なフィンランド人男性にとって、サウナは「心を開いて話ができる場所」といいます。 「フィンランドでは、女性は話し好きですが、男性は寡黙であるべきとされているため、口数の少ない人が多いです。そんな男性たちにとって、サウナは背負っているいろいろなものが削ぎ落とされて、普段口にはしない、心の内側にあることを吐露できる場でもあります。もちろん、男性も仲間とコーヒーやお酒を飲んだりしながら話をしますが、サウナのなかでの会話とは異なります」 ミカさんはその一例として、戦争体験者であるおじいさんから聞いた話をしました。戦争から戻ってきたとき、戦場で共に戦った仲間がしばしば集まってきて、サウナにこもることが多かったそうです。まだ心傷などで精神的治療を受けるのが一般的でなかった時代。辛い体験で深く負った心の傷を、サウナで同じような経験をした仲間に心を許して話すことで、傷を癒していたというのです。 映画の撮影が進む中で、ミカさんが新たに発見したと語るのが「聞く人」の存在の大きさ。話し手が連れてきた聞き手の姿勢が、相手をさらに喋らせていることに気づいたそうです。ただ聞き役に徹し、話し手が言葉に詰まったときに、絶妙な間で短い言葉をかけたり、なんとも言えぬタイミングでロウリュに水をかけたりする。それが話し手の心をさらに開かせていると。 恐らく、戦争体験者の人たちもそうだったのでしょう。サウナでは、寡黙を文化とする男たちが口を開いて汗と一緒に涙も拭える。フィンランドではサウナのあるところに、そんな人たちも集まってくるのです。 交渉ごとの場にもなった「サウナ外交」交渉ごとの場にもなった「サウナ外交」 余談ですが、ミカさんはこの撮影で一番大変だったのは、カメラマンさんだったという撮影秘話を教えてくれました。レンズが曇らないように特殊なカメラをケースに入れて1時間サウナに置いておくため、使用の際に熱くて素手では触れられず、暑い室内で耐熱グローブを着用。撮影中、のぼせないようにかぶった帽子を何度も濡らし、暑さをしのいだそうです。10月現在、『サウナのあるところ』は東京でも公開中です。 話を聞いたふたりめは、フィンランド大使館(港区南麻布)のマルクス・コッコ報道・文化担当参事官です。 フィンランド大使館のマルクス・コッコ報道・文化担当参事官(2019年9月30日、宮崎佳代子撮影) フィンランド大使館内にはゲスト用のサウナが設けられていて、2019年4月にそのサウナがリニューアルされました。以来、月1回の頻度で、ゲストを招いてサウナと食事を楽しむ「サウナイルタ(サウナの夕べ)」を催しています。「サウナイルタ」に招待されるのがサウナーの憧れとなっているそうですが、目下のところは、政治や文化関係、ビジネス関連、メディアなどごく限られた人たちとのことです。 このサウナイルタを含め、マルクスさんはフィンランドにおけるサウナの特殊性として、「社交の場」としての役割を挙げます。 フィンランド人は、見知らぬ人に対して心を開いて話をするのに時間がかかりますが、一度お互いのことを知ると、とてもフレンドリーに相手を受け入れるようになります。サウナは、心を開くまでの時間を短くし、リラックスした雰囲気の中でお互いの理解を深めるための役割も果たしてきたそうです。 ミカさんは、市井(しせい)の人々はサウナでの暗黙の了解として、政治や宗教のようなエキサイトする内容の話はしないと語っていましたが、マルクスさんは「サウナ外交」として活用されていた歴史について触れました。各国の首脳やVIPが同国を訪れた際に、サウナ内で諸問題についての話合いを行うこともあったとのこと。サウナがビジネスや政治的な局面で役割を果たしたこともあったそうです。しかし現在では、社交の場として利用されているといいます。 もちろん、フィンランドでも日本同様に多くの人たちがリラクゼーション目的でサウナを利用します。 そのなかで、日本とフィンランドにおける大きな違いのひとつに、マルクスさんは「時計」を挙げました。「日本のサウナは必ずといっていいほど、室内に時計やタイマーが設置されていますが、フィンランドでそういったものを設置することはありません。なぜなら、サウナはすべての事柄から自分を『リセット』する場であるからです」とその理由を語ります。 古き良き、スモークサウナ古き良き、スモークサウナ マルクスさんが一番好きなサウナは、スモークサウナとのこと。「キング・オブ・サウナ」ともいわれる、昔ながらのサウナですが、時間と手間がかかるため、今は数少なくなってしまったそうです。 フィンランドのサウナイメージ。湖畔の近くにあるものも多い(画像:Harri Tarvainen for Visit Finland) これは、ロウリュを浴びながら適宜新しい薪をくべていく薪ストーブサウナとは異なります。室内全体が完全に温まるまでおよそ7〜8時間に及んで薪を燃やし続けるのですが、煙突がないため煙が室内に充満します。それを部屋が十分に温まってから小さな通気口から逃し、ようやく中に入ることができるのです。 マルクスさん曰く、壁などがススで黒くなっているそうで、入っていると肌にそのススがつくことがあるそうです。しかし、サウナからでた後、それが肌になんとも言えない自然の香りを残し、それが今も忘れられないと話します。 フィンランド政府観光局では、ホームページで同国内の100のサウナを紹介し、それらを訪れると「サウナ御朱印帳」にスタンプやサインがもらえるというキャンペーンを行うなどして、サウナを観光誘致につなげる取り組みを行っています。 歴史が長い分、奥深いフィンランド式サウナの世界。素の自分に戻って心を開く、心と体に耳を傾ける、すべての事柄からリセットする。そんなフィンランド式「過ごし方」も時に取り入れてみるのも良いかもしれません。
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