「閉店しません」の看板も!――コロナ禍のなか「閉店」したデパート、その生まれ変わった姿とは?【前編】

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「閉店しません」の看板も!――コロナ禍のなか「閉店」したデパート、その生まれ変わった姿とは?【前編】

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若杉優貴(都市商業研究所)

昔からある大型デパートが「閉店」というと、ショックを受ける方も多いのではないのでしょうか。実は、場所や形を変えて続いているデパート・売り場もあるのです。都市商業研究所の若杉優貴さんが前編・後編に分けて解説します。

「閉店」は大きな話題になるけれど…。

再開発・建物の老朽化・コロナ禍――首都圏でも様々な理由により老舗大型店の閉店が相次いでいます。一方で、実際にはそうした店のなかには姿を変えて営業を続けているものも少なくありません。

そこで今回は、コロナ禍のなかいったん閉店したものの、ほぼ同じ場所で営業を続けている百貨店の「新たな姿」を追っていきます。

コロナ禍のなか閉店となったデパートは全国各地に。 一方で小田急百貨店のように「閉店しません」をアピールする店も(画像:若杉優貴)



「小田急百貨店新宿店は閉店しません」――残る売場は予想外?

「まだ消えない!」と声を大にして叫びたいであろう大型店の代表格といえるのが、再開発のため今年10月2日に56年の歴史に幕を下ろす小田急百貨店新宿店(本店)本館。

新宿西口のランドマークであるためテレビなどで閉店が特集される機会も多く「これで新宿から小田急百貨店が消えるのか」と思っている人も多いことでしょう。

それゆえ、小田急新宿駅に降り立つと至るところに「小田急百貨店新宿店は閉店しません」の文字が。

実は10月2日に閉店するのは小田急百貨店新宿店の「本館」のみ。小田急百貨店新宿店は、隣接する別館「新宿西口ハルク」(小田急ハルク)に移転して営業を続けることを発表しています。

閉店セール中の小田急百貨店新宿本店本館。10月からは左側にあるハルク館に売場を移転して営業します。(画像:若杉優貴)

小田急百貨店は1962年11月に現在の新宿西口ハルクの建物で創業。今回閉店する本館は1966年に北側の新宿地下鉄ビルディング部分が、1967年に小田急新宿駅ビル部分が順次開業、2つのビルが接続されてグランドオープンしたもの。板チョコのような四角い窓が並ぶ本館はル・コルビュジエの弟子である名建築家・坂倉準三氏が手掛けており、約60年にわたって新宿西口のシンボルとして親しまれてきました。

小田急百貨店と新宿駅をつなぐシンボルの大階段にも「閉店しません」「お引っ越し」の文字が。さまざまなイベントに使われることもあった大階段も見納め。(画像:若杉優貴)

先述したとおり、小田急百貨店はハルク館で創業したため、今回の移転は「先祖返り」であるともいえます。

一方で、ハルク館内では核店舗となっている「ビックカメラ」も営業を継続するため、百貨店全体の店舗面積は本館運営時よりもかなり狭くなってしまいます。

面積が限られたハルクへと移転するのは食品や化粧品、服飾雑貨、宝飾、ゴルフウエア、学生服など一部の売場のみ。主に削減された売場はというと――なんと「百貨店の華」ともいえる婦人服や紳士服。アパレルブランドは一部のみしか扱わないという珍しい業態で、他百貨店との差別化を図ることをめざします。

「小田急百貨店新宿本店(ハルク館)」の新たな姿。 2022年5月発表の計画案「新宿西口ハルクフロアプラン」(図:小田急百貨店のプレスリリースより)

小田急百貨店新宿店本館の解体後に建設される「新宿駅西口地区開発計画(仮称)」は地上48階・地下5階・塔屋1階、高さ約260m。新たな建物に小田急百貨店が出店するかどうかについては2022年時点では発表されていません。

再開発の槌音が止まらない新宿駅エリア。ハルク館も築60年を超えているため近い将来の再開発が見込まれており、小田急百貨店建替え完成後の次の一手にも期待がかかります。

「東急百貨店」は渋谷駅から消えた訳じゃない!

1934年11月に東京初の本格的ターミナル百貨店「東横百貨店」(のちの東急百貨店東横店東館)として開業した東急百貨店東横店。渋谷スクランブルスクエアの建設とそれに合わせた駅改良工事のため、2013年3月に東館が、2020年3月には南館と西館が閉店。その後、解体工事が本格的に始まる2020年秋まで建物の一部を使って催事などを行うとしていましたがコロナ禍により中止され、2022年現在は建物が解体されています。

ちなみに、この東急東横店の大部分も小田急新宿店本館と同じ坂倉準三氏が手掛けたものでした。

東急百貨店東横店は情報番組のお天気カメラなどでも良く目にする存在だっただけに、その解体は「渋谷駅が大きく生まれ変わる」ことを印象付けるものとなりました。

再開発のため2020年に閉店した東急百貨店東横店。その後は当面イベント活用される予定でしたがコロナ禍で中止に。 今後、左後方に写る「渋谷スクランブルスクエア」が増床されます。(画像:若杉優貴)

しかし、東急百貨店東横店の閉店により渋谷駅から東急百貨店が消えた訳ではありません。東急百貨店の売場は「渋谷ヒカリエ」「渋谷マークシティ」などといった渋谷駅上・駅チカの東急系ビル内に引き継がれて営業を続けています。

渋谷の町で買い物をよくするという人にとって「渋谷駅前のいろいろな建物に東急百貨店の売場がある」ということはわざわざ説明するまでもないことかも知れませんが、一方でそうした人であっても「どの建物にどの売場が引き継がれたのか把握しきれていない」のではないでしょうか。

2022年現在の渋谷駅エリアにある東急百貨店の売場は以下(別表)に示したとおり。

渋谷駅前にある東急百貨店の売り場(図:若杉優貴作成)

また、東急百貨店東横店の主要テナントでは「神戸屋キッチン」「銀座伊東屋」は残念ながら東横店の閉店に合わせて渋谷エリアから撤退した一方で、「ニトリ」は2017年に公園通りに新店舗を出店したほか、物販以外でも「アディダスフットサルパーク」が規模を縮小して「渋谷ストリーム」内へと移転しています。

なお、東急百貨店は渋谷本店についても再開発のため2023 年1月に閉店することを発表しています。

跡地に建設されるビルは地上36階・地下4階建てで、2027年に完成する予定。小田急百貨店本店と同様に、こちらも新たな建物に東急百貨店が復活するかどうかについては2022年時点では発表されていません。

本店の閉店後、渋谷の東急百貨店は「さらなる分散化」を遂げることになるのでしょうか。

東急百貨店渋谷本店。こちらも再開発により2023年に閉店する予定。(画像:若杉優貴)

コロナ禍で閉店決定…しかし翌月に復活した百貨店も!

コロナ禍のなか閉店を発表した百貨店は首都圏近郊エリアにもいくつかあります。
その一つが神奈川県横須賀市の老舗百貨店「さいか屋横須賀店」。さいか屋は1867年に浦賀で呉服店「雑賀屋」として創業。1872年に横須賀に移転し「雜賀屋呉服店(さいか屋)」となったのち軍港とともに成長を遂げ、1928年に百貨店化したという老舗でした。

しかし、競争の激化や新型コロナウイルスの感染拡大による影響を受けて2020年に閉店を発表。2021年2月には約150年にもおよぶ歴史にいったん幕を下ろしました。

幕末から続く老舗の閉店ゆえ、閉店を発表した際には多くのメディアにも取り上げられました。しかし、実際にさいか屋横須賀店へと向かうと…店舗はまだ営業中。さいか屋は「閉店後は横須賀に小型店を開設する」としていましたが、地元の要望を受けて小型店の規模を拡大、百貨店の地階から4階をリニューアルして閉店の翌月・2021年3月に「さいか屋横須賀ショッピングプラザ」として再開業させたのです。

以前より店舗面積――とくに「百貨店直営の売場面積」は縮小されましたが、百貨店向けのデパコス(化粧品)や銘菓銘店は半分以上のブランドが営業を継続。人気の食品館は縮小前よりも充実が図られたほか、縮小により空いた部分にはテナントとして新たに100円ショップを導入するなど、地域密着型の便利な店舗へと生まれ変わりました。

2021年3月に「再開業」した「さいか屋横須賀ショッピングプラザ」。(画像:若杉優貴)

この「さいか屋横須賀ショッピングプラザ」は、縮小した売場跡がユニークな活用方法をなされていることも特徴です。

前述したとおり100円ショップなどテナントの導入が進められたことはもちろんですが、そのほかにも本館(旧新館)の5階・6階には2021年5月から横須賀市の「新型コロナウイルス接種会場」を導入。

横須賀市はもともと「横須賀アリーナ」を接種のメイン会場にすることを発表していましたが、アリーナは中心市街地から少し離れた高台にあり、駅からも遠いため不便だという声が上がっていました。駅から近い中心部に生まれた大きな空き床は接種会場とするには好都合であり、横須賀市にとっては渡りに舟であったといえます。

このワクチン接種会場の存在は、市民にリニューアル後のさいか屋の魅力を知ってもらう機会にもなっており、さいか屋では接種者への優待活動も実施。まさに横須賀市・さいか屋・地元住民ともにwin-winの関係を築くことにつながっているのです。

また、南館の空き床には2021年10月にeスポーツカフェ(eスポーツ対応型のネットカフェ)やダーツ場、カラオケルーム、コワーキングスペースなどを擁するさいか屋運営のアミューズメントパーク「娯楽の殿堂さいか屋eステージ」が開業。地方百貨店が空き床をeスポーツカフェにするのは全国初の試みで、大手百貨店とは一味違うかたちで時代に対応した幅広い世代の集客を狙うという姿勢は「地域密着型の地方百貨店」ならではの柔軟さを感じさせられます。

「さいか屋横須賀店」の新たな姿。(2022年9月)(作成:若杉優貴)

余談ですが2015年に閉店したJR川崎駅前のランドマーク「さいか屋川崎店」も消えた訳ではありません。2022年現在、さいか屋川崎店は川崎日航ホテルの3階で営業中。規模はかなり小さくなったものの時おり百貨店らしい催事をおこなうなど、川崎駅前唯一の百貨店の灯を守り続けています。

2016年に閉店したさいか屋の旗艦店・川崎店。懐かしく思う人もいるのでは。 実は大きく縮小したものの日航ホテル内に移転して今も営業を続けています。(画像:若杉優貴)

今回はコロナ禍のなかさまざまな理由でいったん閉店したものの、新たな姿となって営業を続ける首都圏の百貨店の新たな姿を追いました。

もちろん、そうした「新たな姿で集客を狙う店」は百貨店だけではありません。次回は百貨店以外の「いったん閉店したものの新たな姿で営業を続ける店たち」を追っていきたいと思います。

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