台南の「林百貨店」が都内に臨時出店!――なぜ台湾のデパートが日本に?

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台南の「林百貨店」が都内に臨時出店!――なぜ台湾のデパートが日本に?

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若杉優貴

都市商業研究所

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台湾の観光地としても有名な「林百貨店」が、伊勢丹新宿店と銀座三越に臨時出店します。レトロでかわいい台湾の最新文化が楽しめる林百貨店の成り立ちを、都市商業研究所の若杉優貴さんが解説します。

台湾のデパートが都内のデパートに「ポップアップショップ」

 台湾・台南市のデパート「林百貨店」が、9月末まで「林百貨店ポップアップショップ」として東京都心のデパートに期間限定出店しています。

 台湾のデパートが都内の、しかもデパートの店内に期間限定出店するのは異例のこと。

 台湾のデパートといえば、台北に多店舗展開する台湾の国内最大手「新光三越」(三越伊勢丹の子会社)、そのライバル「遠東そごう」(そごうFC店)、台湾南部で人気の「漢神」(阪神と提携)などといった日系百貨店を思い出す人が多いと思いますが、それらのフロア構成やテナントは日本の百貨店とそれほど変わりありません。

 一方で、台南に1店舗だけある林百貨店も日本にゆかりがある店舗でありながら、大手百貨店とは一線を画した店づくりで多くの観光客を惹きつけています。

「林百貨店」とは一体どういった店舗で、そしてなぜ東京の百貨店に出店するのでしょうか。

台南市の中心部にあるレトロデパート「林百貨店」。(台南市中西区)(画像:若杉優貴)



69年ぶりに「復活」を遂げたデパート「林百貨店」

今回、東京に期間限定出店する「林百貨店」が開業したのは1932年12月のことでした。

出店先は台湾の古都・台南市の中心部にある目抜き通り「末廣通り」(現:台南市中西区中正路)で、周辺は当時「台南銀座」と呼ばれていた商店街。台湾南部初の百貨店として大いににぎわったといいます。同年には台北市に台湾初の百貨店「菊元」も開業しており、この年は台湾における「百貨店元年」でした。

林百貨店の6階・屋上。スクラッチタイルで覆われたレトロ感いっぱいのアールデコの建物も魅力的です。 近くには機銃掃射を受けた痕も…。(画像:若杉優貴)

 経営者の林方一氏(開店直前に死去)をはじめ役員の多くは山口県から台湾に渡って来た内地人(日本本土生まれ)であったものの、店員・従業員は地元出身の本島人(台湾人)も多く、また館内催事では台湾美術や台湾の神様にちなんだ展示が行われるなど地元住民にも親しまれる店づくりで「台南銀座」の象徴的存在となっていました。

 戦時中は米軍の空襲や機銃掃射を受けつつ営業を続けるも、終戦後は中華民国に接収。1946年より専売局や国軍などの事務所・宿舎として使われ、屋上神社の基壇には中国人民解放軍との戦闘を見越した高射砲が設置されたこともありました。

林百貨店の屋上神社はパワースポットとして人気に。

 一等地にそびえ立つ廃墟に変化が訪れたのは8年前のこと。台南市が文化財として建物の修復を実施、そして2014年6月には市内のファッションビル運営企業が指定管理者となり、実に69年ぶりに営業再開を果たすことになりました。

 現在の林百貨店は、台南市を代表する観光地の1つとして、多くのガイドブックに掲載されるまでになっています。

台湾らしい商品のショールーム――カギは「文創」「MIT」

 それでは、なぜ林百貨店がこれほどまでに人気観光スポットとなり、そして東京の百貨店に期間限定店舗として出店するに至ったのでしょうか。

 そのキーワードとなるのが、近年台湾でブームとなっている「文創」運動です。

 「文創」とは文化創意・文化創新の略で、簡単にいえば「歴史や伝統文化を学び、それらを生かすことで新たなモノを生み出そう」という考えのこと。

 台湾では永年にわたって台湾自国の歴史や文化を学ぶ機会が少なく、台湾独自の文化の尊重や、古い建物の管理がおろそかになっていた時代がありました。そうした反動もあって盛り上がりを見せているのが文創運動であり、今ではさまざまな企業やクリエイターが参画しています。

こちらは台北を代表する文創スポット「松山文創園区」。(台北市松山区) 日本統治時代の煙草工場跡を活用したアートゾーンで、ビルの上には「台北文創」の文字が。(画像:若杉優貴)

 そうした文創運動のなかで生み出されたものが、林百貨店でも人気を集める台湾ならではの「Made in TAIWAN」(MIT)商品です。

 林百貨店の復活自体もこうした「文創」の一環であるといえ、そして現在の「林百貨店」の店内は大手百貨店とは一味違った、「Made in TAIWAN」商品や歴史を感じさせられる商品たちの素晴らしさを伝える「台湾文化のショールーム」にもなっているのです。

林百貨店内。店内ではMIT雑貨やオリジナルグッズはもちろん、戦前の古地図や古写真、旧日本軍などに関する歴史書の販売も。 内装やデパートガールの衣装も昭和時代を再現したもので、雰囲気タップリのなかでお気に入りの商品を探すことができます。(画像:若杉優貴)

 台湾・台南の文化と魅力を世界に伝える場となっていた林百貨店でしたが、コロナ禍で日本をはじめとした海外からの観光客が来ることができない状態は今も続いています。

 そこで、今度は林百貨店自体が日本に出張するかたちで台湾の魅力を伝えるべく「林百貨店ポップアップショップ」の出店をおこなうに至った、という訳です。

日本で林百貨店のMIT商品に触れられるのは9月末まで!

 今回「林百貨店ポップアップショップ」が期間限定出店するのは、「伊勢丹新宿店」(2022年8月17日~8月30日まで)と「銀座三越」(2022年9月14日~9月27日まで)の2ヶ所。

 コンセプトは「家から5分で台湾へ」で、ショップ内では「台湾×日本の昭和レトロ」といった林百貨店ならではの魅力を感じさせられる雑貨や銘菓、そして現地住民からも人気の「林百貨店×サンリオ」のコラボ商品、さらには社章の「林」があしらわれたバッグやキーホルダー(とくに日台の苗字に「林」が付く人たちに人気!)など、本来は林百貨店でしか買うことができない個性的な「MIT」商品が数多く販売されます。

社章「林」マークの雑貨は林さん・小林さんにもオススメ。(画像:株式会社谷商店 プレスリリースより)
台湾でお馴染み「漁師網バッグ」もデパートの手にかかればオシャレに。 独自の文化からヒントを得て新たな作品を生み出すことも「文創」の1つ。(画像:株式会社谷商店 プレスリリースより)

 海外旅行に行くことが難しい昨今。東京都心で気軽に台湾旅行気分を、そして「Made in TAIWAN」の魅力を味わい、そして日台の歴史に思いをめぐらせてみてはいかがでしょうか。

参考:陳秀琍(2015)『林百貨 台南銀座摩登五桟楼』前衛出版社(中文)

■伊勢丹新宿店
住所:東京都新宿区新宿3-14-1
TEL:03-3352-1111
営業時間:10:00~20:00
定休日:なし(まれに全館休業日たあるのでご確認ください)
アクセス:東京メトロ丸ノ内線 新宿三丁目駅より徒歩1~2分

■銀座三越
住所:東京都中央区銀座4-6-16
TEL:03-3562-1111
営業時間:10:00~20:00
定休日:なし
アクセス:東京メトロ銀座線・丸ノ内線・日比谷線 銀座駅より徒歩1分
東京メトロ日比谷線 東銀座駅より徒歩2分
JR・東京メトロ有楽町線 有楽町駅より徒歩9分

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