「40代以上の男性を泣かせたい」 都内開催の“涙活セミナー”に記者が参加、会場で見た意外な光景とは?

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「40代以上の男性を泣かせたい」 都内開催の“涙活セミナー”に記者が参加、会場で見た意外な光景とは?

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社会の上下関係で勝たねばならない。人より多く成果を出してさねばならない――。そうした価値観の全てを否定することはできませんが、それらに付随してしばしば言われる「男なら泣くな」はどうでしょうか? 男性にとっても、女性にとっても、泣くことは本当に悪いことなのか。東京都内で開かれた「涙活セミナー」を取材しました。

泣くというのはネガティブな行為か

「男のくせに泣くな」
「いい歳して泣くなんて恥ずかしい」

 はたまた、

「涙は女の武器だから」(2002年1月、小泉純一郎元首相の発言)……。

 とかく現代社会において泣くことは、どちらかといえばネガティブな文脈で語られることが多いと言えるでしょう。

 なかでも男性にとって、人前ではおろか周囲に誰もいないときでさえ、涙を流すという行為はめったにしない非現実かもしれません。

しばしば耳にする「男のくせに泣くな」というフレーズ。そんな世間の“常識”を疑ってみたい(画像:写真AC)



 しかし、泣くのは本当に悪いことなのか? 泣かないことは美徳なのか?

 世間の“常識”に疑問を投げかけ、むしろ「いい歳した男性」こそ涙を流そうと呼び掛けるセミナーが2021年7月、東京都内で開かれました。

 参加したのは中年期を中心にしたおよそ30人の男性たち。果たして彼らはセミナーで涙するのか。流した涙の向こうには何が待っているのか――。

管理職の男性社員たち約30人が参加

 東京23区内、とあるオフィスビルの会議室。

 この日開かれていたのは、東証1部上場の大手企業と同社関連企業を対象にした管理職向けの講習会。重要ポストを任されるだけあって参加者は皆、熱意と責任感をたたえた表情で各席に着いています。

都内23区のあるオフィスで開かれた「涙活セミナー」の様子※プライバシー保護のため画像にぼかし加工を入れている(2021年7月9日、遠藤綾乃撮影)



 男性向け、と限定されていたわけではありませんが、この日はたまたま全員が男性という構成でした。

 管理職業務に関するさまざまな講習が行われた後、最後にストレスマネジメントなどの一環として設けられたのが今回の「涙活(るいかつ)セミナー」。

 講師は、2013年から現在の活動を行っている吉田英史さん。

 感涙療法士という肩書を持ち、中高生向けの授業や大人を対象とした講習、テレビなどのメディア出演も数多くこなしてきました。今回のような年代の社会人を対象とした講演の依頼も少なくないのだそう。

 始めにお断りしておくと、管理職講習という性質上、またプライバシー保護の観点から、参加者が実際に泣いている表情やセミナーの感想を直接取材することはできませんでした。

 しかし、同じ会議室内で話を聞き、場の雰囲気に浸るだけでも、涙活の“効能”をひしひしと感じることができたのでした。

「泣ける動画」に参加者たちは……

 まず吉田さんが説明したのは、泣くという行為のメリットについて。

 ほんの2~3分だけでも能動的に涙を流すことによって、ストレスなど心の負担をデトックスできるのだと言います。

 吉田さんいわく、涙の種類は三つに分けられます。

1. 反射の涙:玉ねぎを切った際などに出る涙
2. 基礎分泌の涙:目が乾いたときなどに出る涙
3. 情動の涙:喜怒哀楽という感情に伴って流す涙

 涙活は、3番目の涙を能動的に流してみよう、というのが狙い。

「ひと粒の涙で1週間のストレスを解消するほど効果があるのです」と吉田さん。会場の男性たちは、どちらかといえばまだ半信半疑といった様子。

 続いて吉田さんは5本の動画をプロジェクターとスクリーンで上映しました。YouTubeなどでも見かける、いわゆる「泣ける動画」というものです。

吉田さんが流した「泣ける動画」に真剣な表情で見入る参加者たち(2021年7月9日、遠藤綾乃撮影)



 5本のジャンルは実にバラバラ。

 女手ひとつで育ててくれた母への感謝の手紙。定年退職を迎えた上司に向けた部下たちからの感謝のサプライズ。兵役を終えた欧米人男性が恋人と果たす感動の再会、死んでしまったペットの犬が嘆き悲しむ飼い主に伝えるメッセージ。結婚式当日を迎えた父親と娘のやり取り――。

 雰囲気を盛り上げるドラマチックなBGMも相まって、会議室内はしっとりした空気に包まれます。先ほどまで硬い表情で講演を聴いていた男性がひとり、ふたり、そっと自分の目元をぬぐうのが、最後列の見学席からも見て取れました。

「泣きのツボ」の見つけ方とは?

「どうでしたか? 皆さん。泣けましたか?」

 動画が終わり、吉田さんが会場の参加者たちにマイクを向けると、

「そうですね……。少し泣いてしまいました」
「最後の結婚式の動画で泣きました」

といった感想がちらほらと。

「『泣きのツボ』は人それぞれ違って、個々人のこれまでの人生経験や成育歴に関係しています。友情、親子、恋愛や結婚、ペットや動物、師弟関係など、ご自身がどんなジャンルにグッとくるかを知っていただくために、今回いろいろな動画を紹介しました。ぜひ自分の『泣きのツボ』を探って、1週間に1回泣いてみる、というのを試してみてください」(吉田さん)

涙活セミナーを開催している「感涙療法士」の吉田さん(2021年7月9日、遠藤綾乃撮影)



 今回のセミナーには盛り込まれませんでしたが、グループを作って自分の心の内をそれぞれ吐き出し合い、互いに涙を流すワークショップなどもあるのだそう。

「このワークショップを職場で開くと、上司の涙を見た部下が以前より親近感を覚えるようになるといった変化も生まれます。互いの距離が縮まることは、仕事におけるチームビルディングにも大変に有効なのです」と言います。

中高年男性にこそ泣いてほしい理由

 この活動を10年近く続けてきた中で、吉田さんが「最も泣かせたい」と考えているのは、今回の参加者たちのような40代以上の男性なのだそう。

「仕事などで特に強いストレスを感じているであろう世代なのに、涙を流すことはめったにない。涙活によって少しでもストレスが軽減されれば、より生きやすく働きやすくなるはずだと考えているからです」

 30年以上、泣いたことがなかったというある60代の著名人男性が、こうしたセミナーを受けたことで頻繁に泣けるようになったという例もあるそうです。

 吉田さんいわく“泣くコツ”は、

・部屋の明かりを暗くする
・アロマやお香をたいてリラックスする
・朝や昼より夜に試みる
・斜に構えず、あえて感情移入するようにする
・ティッシュやハンカチを目の前に置く
・いろいろなジャンルを試して、自分のツボを知り、増やしていく

 言うまでもなく涙活は、中年期の男性に限らず老若男女に向けたもの。あらためてなぜ、涙活は私たちに必要なのか?

「たとえば人類の歴史を振り返ってみると、4足歩行から2足歩行になって、体毛が薄くなって……と、さまざまな進化を遂げてきましたが、涙が出るという機能は残り続けました。生きるということはストレスがたまるということです。つらいときに涙を流すという行為には、必ず意味があるはずです」

 心が少し、あるいはとても軽くなる泣く行為。今夜は部屋の明かりを暗くして、自分の好きな動画や小説、漫画に触れて、そっと涙を流してみませんか?

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