360°花に包まれた新体感、過去最大にイマーシブに進化
ネイキッド(NAKED.Inc 東京都渋谷区)が手がける花のイマーシブ(体感型)イベント「FLOWERS BY NAKED 2019 ー東京・日本橋ー」が、日本橋三井ホールで2019年1月29日(火)から開催されています。
「FLOWERS BY NAKED 2019 ー東京・日本橋ー」が開催。写真は作品のひとつ「茶室 ー調心の間ー」(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)。
五感で楽しむ「日本一早いお花見」をテーマとするイベントは今回で4回目。「花、そして伝統と革新」をコンセプトに据え、360°桜に包まれるアート空間や、いけばな草月流、志野流香道との伝統文化コラボレーションなど、「過去最大にイマーシブに進化した」とするコンテンツを楽しめます。
作品のひとつ「一人一首 〜古今の円窓〜」のインタラクション(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
作品のひとつ「春の小径」のインタラクション(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
開催前日にはオープニングセレモニーと内覧会が行われ、同社代表の村松亮太郎さんも来場。今回の楽しみどころや作品への想いなどについて、話を聞きました。
クリエイティブカンパニー、ネイキッド代表の村松亮太郎さん。プロジェクションマッピングの第一人者でもある(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
センシングやプログラミングを駆使、スマホアプリで個々の体験も
エントランスには、花に囲まれた大きな本「BIG BOOK」。一面に花の香りが漂い、FOLOWERS BY NAKEDの物語が始まります。
エントランスで迎えてくれる「BIG BOOK」。春風に煽られるようにページが進んでいく(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
「BIG BOOK」の脇を通り過ぎて花が映し出された「花絨毯」を歩き、アートフラワーで飾られたアーチをくぐり抜けて進んで行きます。その先に、煙くゆる3つのつくばい(手を清めるための水鉢)が現れます。つくばいに花を浮かべて楽しむ風情をインタラクションのコンテンツにした「花蹲(はなつくばい)」です。
「花蹲」のインタラクション(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
香りの漂うつくばいに手を入れて映像の花びらをすくうと、花が咲き、散っていきます。そのすぐ向かいには円窓のプロジェクションマッピング。手をかざすと窓が開き、花の情景と共に12種類の和歌のなかからその人に合った歌が詠まれる「一人一首 〜古今の円窓〜」のインタラクションが展開されます。
「一人一首 〜古今の円窓〜」。障子の前に立って手をかざすと窓が開き、花の情景が出てきて和歌が詠まれる。志野流香道の次期家元、蜂谷宗苾(はちやそうひつ)さんとのコラボ作品(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
来場者の心拍数や呼吸をセンサーで測定、映像に反映する「茶室」
次に竹林が現れ、竹に耳を当てるとナレーションが聞こえてくる作品「竹林の風音」です。
竹に耳を当てて声を聞く「竹林の風音」(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
ここから案内人に導かれて、「茶室 ー調心の間ー」へ。バイタルセンサーを使って、部屋にいる人たちの心拍数や呼吸を拾い、映像に反映します。3D音響技術を取り入れており、聴覚を研ぎ澄ませながら体感する茶道を表現しています。
「茶室 ー調心の間ー」。約300本の竹に、しだれ柳、ぼけ、椿、流木などを使用した、いけばな草月流の家元、勅使河原 茜(てしがはら あかね)さんとのコラボ作品(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
「茶室 ー調心の間ー」では来場者によって異なる映像が現れる(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
茶室を出ると、菜の花をモチーフにしたインタラクション「菜の花の回廊」が現れます。近づくと菜の花が幻想的な雰囲気で光り輝きます。
幻想的な雰囲気「菜の花の回廊」(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
近づくと光る菜の花(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
そこから絨毯一面に桜の花が映し出された「春の小径」に足を踏み入れると、水面に浮かぶ桜の上を歩いているかのような音と視覚の演出が展開。その先では、いくつもの鏡が桜の花びらを映し出し、万華鏡の中に迷い混んだような空間「Reflection of Spring」が迎えてくれます。
水面の桜をイメージしたプロジェクションマッピング「春の小径」とその先に万華鏡のような空間「Reflection of Spring」が現れる(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
「Reflection of Spring」を抜けると、メインエリアに到着。当イベントの目玉である360°の桜空間「大桜彩(おうさい)」が広がる空間です。その手前にリプトンとのコラボによる「Bar “The Secret of Secret Garden”」を設置。紅茶をベースに、日本一早いお花見をテーマに開発されたしたドリンクや、桜をイメージしたスイーツが販売されています。
「Bar “The Secret of Secret Garden”」ではリプトンがイベント用に開発したドリンクや、スイーツを販売。ここで購入した飲食物片手にお花見を楽しめる。BARの裏には「秘密の実験空間」も(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
インスタ映え抜群、川床で360°桜に包まれて富士を望むファンタジー
「大桜彩」は、テーマとなっている「日本一早いお花見」を五感で楽しむインスタレーションです。AIが来場者の性別や年代、表情を分析して会場内の音楽が変化。また、川床を模した舞台では、屏風に見立てた横幅8mの壁面に、葛飾北斎の『富嶽三十六景』とコラボしたプロジェクションマッピングが映し出されます。
「大桜彩」の川床をイメージした舞台。同エリアには山形の啓翁桜(生花)も飾られ、コンセプトとしている「花、そして伝統と革新」をスケール感と共に味わえる(画像:NAKED.Inc 村松亮太郎)
このお花見空間は、昼と夜が15分交替で訪れてそれぞれに演出も変わります。昼は太陽、夜は月が出現。夜は、シャボン玉が飛んできて、弾けると花の香りが広がります。たんぽぽの綿毛に息を吹きかけると、綿毛が舞い上がるインタラクション「Dandelion clocks」では、アプリを使った個々の体験も。
息を吹きかけると、綿毛が舞い上がるインタラクションを楽しめる「Dandelion clocks」(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
以上が、今回の作品概要です。花みくじ(有料)やスイーツを楽しめる露店もあり、物販コーナーではハーバリウム他、花にまつわるオリジナル商品が販売されています。
物販コーナーのハーバリウム(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
ネイキッド代表・村松氏本人が語る、楽しみどころと狙い
AIやAR(スマホのアプリ)を使い、来場者それぞれに異なる体験ができる。それが大きな進化ポイントといえる今回の「FLOWERS BY NAKED 2019-東京・日本橋-」。村松さんに話を聞きました。
ネイキッド代表の村松亮太郎さん(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
ーー今回の制作において、一番大変だった点を挙げていただけますか。
毎回そうなのですが、曖昧なものを織り込んでスケールの大きなものを感覚的に作るので、その「具合」をどこに置くのか。それを全くの異業種の人たちも一緒になって決めていくのがすごく難しい点です。逆にだからこそ、他の人には真似できないものが生まれるのですが。その大変さを一番感じたのは、今回の作品で言えば、草月さんとコラボした茶室ですね。
ーー具体的にいうと、茶室のどの部分がそう感じられたのでしょうか。
茶室とは何かを伝えるために「調身、調息、調心」というテーマを設け、心を平穏にし、かつ閉鎖的な空間で、この出会いによりどうコミュニケーションできるかを表現したいと考えました。そこで、バイタルセンサーを使い、居合わせた来場者の呼吸や心拍をとって、その結果によって異なる映像が現れるという手法を取っています。
「調身、調息、調心」にしても、バイタルセンサーにしても、その本人にはわからない知覚を超えた部分が多いので、「わからない」だらけのものをどうわかるものとして作りあげるかその「具合」が本当に大変で。でも、それを一番面白くできたのもこの作品だと思います。
居合わせた人たちによって異なる映像が現れ、光に包まれる「茶室 ー調心の間ー」(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
ーー「大桜彩」のところでも、来場者の属性で音楽が変わるといったインタラクションがありました。
AIと音楽の融合をしていて、性別、年齢、表情、それを拾ってそこからAIでDJが曲をセレクションしていくという作りです。これも普通に音楽が変わって流れていくだけですから、来場者には「見えない化」しています。
目に見えないところのテクノロジーが高度になればなるほど、ナチュラルなことと境目がなくなるように思います。それをどう認知してもらうかという、難易度が高いところに今、足を踏み込み始めた感じがありますね。
ーー今回、一番上手くいったところはどこと感じておられますか?
今、アート自体が変わってきていて、体験そのものがアートだったり、コミュニケーション自体がアートだったりして、アートにも形がなくなってきています。今回、「お花見」という伝統文化を、アートに閉じ込めた表現が割とうまくいったと感じています。
人合わせになっている部分も面白いと思います。「一人一首」のコンテンツは窓に触れるとその人に合った和歌が詠まれ、花も咲く。その辺りは凝ったものになったのではないでしょうか。「Dandelion clocks」では、スマホのアプリをかざすと自分の花が出て、吹くとその花びらを飛ばすことができます。
手前右が「花蹲」、左の円窓が「一人一首 〜古今の円窓〜」、その奥に「竹林の風」(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
村松氏、狙いは「ただ人々にグッときてほしいだけ」
開催前日のオープニングセレモニーでの村松さん(前列中央)。当イベントのために曲『華mist』を書き下ろしたSOLIDEMO with 桜menのメンバーとトークセッションが行われた(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
ーー村松さんの理想とする革新とはどういったものなのでしょうか。
音楽で例えるとわかり易いと思うのですが、MP3になりました、1万曲持ち運びができます。でも、その圧縮データで聞くヨーヨー・マの音楽に感動できるか? という話。必ずしも今のデジタルが、アナログのときに伝わっていたものを超えたものになっているとは言えません。レコードで聞く音を圧縮音源が超えていなければ、いくら便利であっても、本当の意味での進化や革新とは言えないと思うんです。
今、私はビンテージオーディオに凝っています。デジタルも最先端の機器を使って聞くのですが、どうやっても針でなぞって出る音の方がいい。デジタルの音は綺麗でも表面しかない、パシャン、と壊れそうな感じの音。レコードは、その厚み分のある音なんですよね。
ーーそこを超そうとしているのが、「革新」の部分ということでしょうか。
果たしてそれをデジタルが超えられるのかは定かではありませんが。じゃあ、なぜこんな仕事してるの、って言いたくなりますよね(笑)。
僕は別に先進のことをやりたいわけではなく、人類を進化させたいわけでもないんです。ただ、人びとにグッときてほしいだけ。感動してほしいだけ。ローテクでもハイテクでもそれは方法論にすぎなくて、ただグッとくるものを追い求めてるにすぎないんです。
ーー「大桜彩」で葛飾北斎の絵を使っていますが、村松さんが北斎の好きな部分と、どういった演出効果を狙ったものなのかを教えてください。
幅約8mの巨大屏風を模した壁面には、葛飾北斎の『富嶽三十六景』とコラボレーションした作品が映し出されている。4つの原画を高精細にデータ化することで、肉眼では見えなかった版の陰影などが浮かび上がっている(2019年1月28日、宮崎佳代子撮影)
北斎の富嶽(富嶽三十六景)は版画なんですよね。「これ、どうやって作ったの?」という次元の技術を駆使していて、そのこと自体がすごく面白いと思います。それと比較したら、プログラムがちょっと書けるだけでアーティストと言われるのは、「ちやほやされすぎだよ」って思いますね(笑)。
富嶽は版画だから厚みがあって、よく見るとインクの「層」が載っています。だから、デプス(深度)がある。それを拡張して考えた映像を作って、これは平面の絵ではないことを強調しています。さらに4つの富嶽からミックスして展開を作っているので、1枚だけだったらひとつの見方しかできないけれど、4つ使うことで「富士の見方が多面的に変えられる」ということを織り込んでいます。
それが僕の解釈で、そこをわかってもらった上で、見た人の解釈とどうコネクトして、どんな感覚、感動につなげていけるかという所を狙っている感じですね。
ーー作品において、村松さんが感じて欲しいことを来場者に感じて欲しい、というのとは違うわけですね。
微妙に違います。別の解釈をする可能性もあるわけじゃないですか。僕が制作した映画でもそうで「このシーンが、○○でよかった〜」と言われても、「あれ、それ俺の狙いと違うんだけどな……」って思うこともあって(笑)。
でもそれはその人の経験とか、置かれた状況とかがあってそう受け止めたわけですから、それを僕はコントロールできません。解釈が違うのがアートですし。でもだからと言って、その人任せというのも違っていて、両方が上手くリンクしてグッときてもらえたら嬉しいですね。
※ ※ ※
村松さんの「解釈」は、どんな世界観を見せてくれるもので、それがどんな感動を呼ぶのか。会場へ足を運んで、ぜひ体感してみてください。
●FLOWERS BY NAKED 2019 ー東京・日本橋ー イベント概要
・場所:日本橋三井ホール
・住所:東京都中央区日本橋室町2-2-1 COREDO室町1・5F(エントランスは4F)
・日時:2019年1月29日(火)〜3月3日(日)10:00〜20:00 ※入場は閉場の30分前まで
・アクセス:各線「三越前駅」A6出口直結
・定休日:無休
・入場料:平日 大人1600円、土日祝 大人2000円、全日 子供1000円
・主催:FLOWERS BY NAKED 製作委員会