「ノンアル飲料×激辛フード」がブームの兆し? 酔わずに「ハイになれる」は本当か
唐辛子、辛みそ、タバスコ、ラー油…… お酒は控えたい、でも適度な刺激が欲しい――。そんな人たちの間で今、「ノンアルコール(以下、ノンアル)飲料」と「激辛メニュー」を一緒に楽しむ機運が高まっているようです。 ※ ※ ※ 荒川区在住で、動画コンテンツの音響監督などを務める男性会社員(41歳)は最近、健康に気を遣ってノンアル飲料を選ぶ機会が増えたといいます。 スーパーマーケットでビールテイストやサワーテイストの缶を買い、自炊の夕食で疑似(ぎじ)晩酌。そのとき決まって食べるのが激辛料理です。 「仕事が立て込んでいて翌日に疲れを残せないときは、ノンアル飲料と、唐辛子か麻辣(マーラー)、辛みそなどで味付けした料理です。激辛スナックのときもありますね」 もともと辛いものが大好きとのことですが、アルコールを飲めないときには代わりに辛さで“酔って”いるのだとか。 「毛穴が開くくらい辛いものを食べると、何だか爽快感を味わえるので」。 この日は市販のもつ煮込みを、一味唐辛子とトマト缶、ニンニクで味付けし直し、ノンアルサワーとともに楽しみました。 ノンアル飲料と激辛の組み合わせが人気の兆し。一体なぜ?(2021年4月22日、遠藤綾乃撮影) また都内の広告代理店に勤める別の男性会社員(33歳)は、もともとアルコールを受け付けない体質。 以前は飲み会でお酒を頼まないのは自分だけ、ということもしばしばでしたが、最近は同世代や年下の同僚たち数人で飲みに行くと、メンバーの半数近くが全く飲まないか1杯だけ飲んで、後はソフトドリンク、ということが珍しくなくなったそう。 「お酒を好きじゃない人や全く飲めない人の割合が増えたわけではないのでしょうが、今の若者は無理してお酒を飲まなくなっているみたいですね」 とはいえ、お酒に合うおつまみは皆好んでよく食べ、中でも激辛メニューはやはり人気のひとつ。 「辛いものって、食べると体があったかくなってテンションが上がりますよね。冗舌にもなる気がするので飲み会にはぴったりです。僕自身は自宅にタバスコやラー油、一味唐辛子をストックしていて、夜中にカップ麺に辛い調味料を思いきり加えて食べる、なんてこともしています」 「休肝日だから激辛」SNSに投稿が多数「休肝日だから激辛」SNSに投稿が多数 ノンアル飲料と激辛メニュー。近年、別々に注目を集めていた飲食物ですが、そのふたつを組み合わせて楽しむ人が増えています。 TwitterなどのSNS上には、 「今日は休肝日なので激辛麺をノンアルで」 「ハバネロを足したマーボー炒め、ノンアルと一緒にいただきます♪」 といった書き込みが数多くあります。 人気タレントの手越祐也さんは2021年4月、自身のYouTubeチャンネルで約2か月間の「禁酒」を宣言。その2日後には渋谷区内にあるラーメン店で激辛ラーメンに挑戦する動画をアップしています。 なぜ今、このふたつの組み合わせが流行しているのでしょうか。 ノンアル……あえて飲まない人が増加中 それぞれの人気ぶりを、あらためて振り返ってみましょう。 まずノンアルに関しては、大手ビールメーカー各社がこぞって商品を投入しているのはご存じの通り。 サントリーホールディングス(大阪市)が2020年10月に発表した「ノンアルコール飲料に関する消費者飲用実態・意識調査」によると、ノンアル飲料市場は6年連続で右肩上がり。2009(平成21)年からの10年間でおよそ4.5倍にまで伸長しています。 2020年10月に発表された、ノンアル飲料市場の推移(画像:サントリーホールディングス) 背景にあるのはやはり、アルコールを飲まない人の増加です。 レシピサイト運営などを行うシーザスターズ(渋谷区神宮前)が2020年11月、20~60代の有職者597人に行ったインターネット調査では、アルコールを「飲めない(下戸)」「飲めるが、あまり飲まない」と答えた人は合計59.6%とおよそ6割。 また、飲む量を制限したり断酒したりした経験が「ある」と答えた人は29.6%に上りました。理由は「健康のため」が各世代で最多です。 先に紹介した男性会社員(33歳)の話にもあったように、20代では「しらふでいるのが好きだから」との回答も目立ちました。調査結果を踏まえ同社は、「若者を中心に『ソバーキュリアス(体質に関係なく飲まない人)』が台頭している」と推測します。 消費者のこうした変化に大手メーカーも対応。アサヒビール(墨田区吾妻橋)は、アルコール度数3.5%以下商品の拡充などを盛り込んだ「スマートドリンキング宣言」を発表。2021年3月には度数わずか0.5%の低アルコールビールを発売し話題を呼びました。 市場の85%がビールテイストという現状市場の85%がビールテイストという現状 現在、ノンアル飲料市場のおよそ85%を占めるのがビールテイスト。それ以外のチューハイテイスト・カクテルテイスト飲料はわずか15%程度に過ぎません。 この“ブルーオーシャン”を目がけてサントリースピリッツ(港区台場)が2021年3月に発売したのが「のんある晩酌 レモンサワー ノンアルコール」です。 レモンの香気成分をノンアル飲料に封じ込め、焼酎由来のうまみをノンアルのエキスとして凝縮させる新製法を採用。「ノンアルということを伏せた試飲調査では、95.2%がノンアルだと気づかなかった」(同社)という味わいに仕上げました。 「のんある晩酌レモンサワー」の開発担当・松田さんは、「普段の晩酌にもノンアル、という新しい酒文化を創造したい」と話す(2021年3月、遠藤綾乃撮影) 開発を担当した同社RTD・LS事業部の松田直子さんは、 「ノンアル飲料は休肝日やお酒が飲めないときに飲むものとして、“消極的”に選択されることが多かったのですが、『のんある晩酌』によって、お酒好きが晩酌の選択肢のひとつとしてレモンサワーのノンアルを“前向き”に楽しむ、という新しい酒文化を創造したいと考えています」 と話します。 専門バーや輸入商材、飲めない人も満喫 こうしたビールテイスト以外のノンアル飲料への注目は、すでに広がりを見せているようです。 2021年4月には、渋谷・代官山や銀座といった流行感度の高い街のセレクトショップが、こぞってノンアル輸入商材の店頭販売に乗り出しました。 2020年3月、中央区日本橋にノンアル・ローアル(低アルコール)専門のバー「Low-Non-Bar」を開店したカクテルワークス宮澤英治社長は、 「カップルや若い女性客がほとんどで、バーにあこがれていたけどお酒が飲めないから入店する機会がなかった、と話す人もいます。バーはお酒を飲むためだけの場ではなく、いっとき日常から離れて疲れを癒やす場でもありますから、ノンアルしか飲めない・飲まないという人にもバーの機会を提供できる店にしたい」。 格調高い雰囲気が漂う「Low-Non-Bar」の店内。お酒が飲めずバーに行ったことがないという人も、バーが持つ魅力を体感できる(画像:カクテルワークス) 取材時に試飲したカクテルは、カンパリ、ベルモット、ドライ・ジンを使った「ネグローニ」を再現したノンアルの1杯。かんきつや薬草の香りが重層的に絡み合い、「ノンアル = ソフトドリンク」などといった先入観を一蹴する味わいでした。 激辛……2018年頃から第4次ブーム到来激辛……2018年頃から第4次ブーム到来 さて、もう一方の注目アイテム・激辛メニューは、2018年頃から「第4次ブーム」が始まったと言われています。直近で発売した市販商品を探してみると、 ・ペヤング「超大盛やきそばハーフ&ハーフW獄激辛」(2021年4月19日発売) ・ローソンストア100「スリルなカレーパン」(同年4月7日) ・日清食品「日清爆裂辛麺 極太激辛ラーメン」(同年3月29日) など枚挙にいとまがありません。 2021年3月に発売された「日清爆裂辛麺 極太激辛ラーメン」(左)と「日清爆裂辛麺 韓国風 極太大盛激辛焼そば」。見るからに辛そうなパッケージ(画像:日清食品) 2003(平成15)年頃からの第3次激辛ブームをけん引した東ハト(豊島区南池袋)は、激辛看板シリーズのひとつ「黄金暴君ハバネロ」を2021年2月にリニューアル発売。販路をコンビニ限定から一般ルートに拡大するなど、好調ぶりをうかがわせます。 コロナ禍の自宅で、気軽なストレス解消 入力したキーワードの人気度を調べられる「Googleトレンド」で、「辛い」「甘い」「うまい」といった味に関連する単語を比較すると、「辛い」は2011年前半以降に継続的な伸びを見せ、2018年3月以降、三つのワードの中でトップに位置しています。 青い折れ線グラフが示す「辛い」のワードは近年、人気度が上昇し続けている(画像:Googleトレンド) 港区内に勤める女性会社員(25歳)に話を聞くと、同年代の友人の間で今はやっている商品として「激辛ブルダック炒め麺」と「激辛ブルダックソース」を挙げました。 いずれも韓国発のメニューと調味料。「疲れているときには刺激のあるものを食べたくなるし、ちょうど良いストレス解消にもなるから。韓国ブームの影響もあるんじゃないかなと思います」。 上記のブルダックソースのように、普段の食事に辛い調味料をプラスして食べるパターンが多いと言い、長引くコロナ禍に自宅で気軽にできるストレス解消として楽しんでいるとのこと。 ちなみに彼女や友人たちもまた、ノンアルを取り入れる機会が増えたそう。「家で酔っ払いたくはないけど疲れを取るためにのど越しが欲しいときや、体調が良くないときに安心して飲めるのがうれしい」と話していました。 ノンアルと激辛メニューが好相性な理由ノンアルと激辛メニューが好相性な理由 ノンアル飲料と激辛メニュー。両者の相性は実際どうのでしょうか。 日本味覚協会(世田谷区羽根木)の水野考貴代表は、「ふたつを一緒に飲食することはある程度、理にかなっていると言える」と分析します。 ノンアル飲料にほぼ共通しているのが、炭酸入りという特徴。「辛みとは味覚ではなく痛みの一種です。辛い料理で感じる痛みを、別の痛みである炭酸で分散させることで相乗的な刺激を得る、という食べ方が好まれているのだと考えられます」。 ノンアルと激辛メニューの相性について、取材に答える日本味覚協会の水野代表(2021年4月16日、遠藤綾乃撮影) 辛みと炭酸の組み合わせによって、アルコールを少量飲んだときと似た感覚を味わっているのでは、というのが水野さんの見立て。 「今はSNS文化が発達して、新しい味や刺激の探求に熱心な人が増えています。アルコールを飲まない、またはアルコールの量を加減するというのも、健康面でのメリットは大きいでしょう。ノンアルでより刺激を得たいという人には、炭酸が強めのものを選ぶことをお薦めします」(水野さん) ※ ※ ※ 記者も試してみました。麻辣と辛みそをたっぷり入れた手製の激辛ラーメンと、「売り上げNo.1」とうたうノンアルビールの組み合わせです。 まずは激辛スープをどんぶりからグッとじか飲み。するとたちまち口の中がピリピリと痛み出し、体がポッポと熱くなります。そこにすかさずノンアルビールを流し込むと、炭酸のシュワシュワと麦の香りが際立って、まるで本物のビールを飲んでいるかのような刺激を感じました。 じんわり汗も浮かんできて確かに気分爽快、ハイになれそうです。 健康志向の高まりで注目を集める「ノンアル」と、在宅での手軽なストレス解消の一助として選ばれる「激辛」。それぞれの商品の充実とコロナ禍が重なったことにより、ふたつの組み合わせが注目されるようになったものと考えられます。 今後、コロナ禍が収束しても健康志向と在宅消費が継続していくとすれば、この“ペアリング”も新たな食の定番のひとつとなっていくかもしれません。
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