2.5次元ブームでさらに加速 都内で「ミュージカル専用劇場」が増えているワケ

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2.5次元ブームでさらに加速 都内で「ミュージカル専用劇場」が増えているワケ

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中村圭

文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナー

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近年相次ぐ都内のホール・劇場のニューオープン。その背景には一体何があるのでしょうか。文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。

年々増える開発ニーズ

 2019年から2020年にかけて都内でホール・劇場のオープンが相次いでいます。

 リニューアルした「LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)」(1956席、渋谷区渋谷)や「PARCO劇場」(636席、渋谷区渋谷)のほか、6月には国内屈指の規模を誇る有明ガーデン内の「住友不動産 東京ガーデンシアター」(約8000人収容、江東区有明)や、多目的な利用ができるOtemachi one内の「大手町三井ホール」(638席、千代田区大手町)がオープン。

ミュージカルでにぎわう東京宝塚劇場(画像:(C)Google)



 7月にオープンした「hareza池袋」(豊島区池袋)には「東京建物 Brillia HALL」(約1300席)、「としま区民センター」(500人収容)、「harevutai」(500人収容)など八つの劇場(映画館も含む)が導入されています。

 また、ウォーターズ竹芝内の「JR東日本四季劇場 秋」約1200席、港区竹芝)では10月24日(土)からこけら落としとして「オペラ座の怪人」を上演中、2021年には「JR東日本四季劇場[春]」(約1500席)のオープンも控えています。

 2020年7月に予定されていた東京オリンピック・パラリンピック前の4月~5月にオープン予定の施設が多かったのですが、ちょうど新型コロナウイルスが国内で感染拡大していた時期であり、すべて6月以降に延期されました。

 かつて、ホール・劇場は「2016年問題」が持ち上がっていました。

 2016年問題とは、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に備えたアリーナ・体育館の改築や、ホール・劇場の建物の老朽化・耐震性不足による改築や閉館が2016年に集中し、ホール・劇場が一気に減少。ライブエンターテインメントの受け皿不足が危惧された問題です。

 2016年問題では、国内のライブエンターテインメント市場の成長によって、ホール・劇場の開発ニーズが増していることが改めて認識されました。それ以降、大型複合施設開発におけるエンターテインメント機能としてホール・劇場が導入の選択肢が増えるようになっています。

注目を浴びるミュージカル専用劇場

 近年、都心の繁華街エリアでは都市のプレゼンス(存在感)を上げるために、改めて都市機能を見直し、それに伴う都市開発を推進しました。興味深いことに、どのエリアでもエンターテインメントシティーを掲げており、いずれもホール・劇場などライブエンターテインメント機能を充実する方向性をうたっています。

千代田区大手町にある大手町三井ホール(画像:三井物産、三井不動産)



 現代のアーバンツーリズム(都市観光)においてはエンターテインメントの提供が不可欠ということなのでしょう。東京オリンピック・パラリンピック前のオープンを念頭に、都心ではさまざまな大型複合施設開発が進行し、それにつれてホール・劇場開発もあちらこちらで一気に進展したと言えます。

 開発を後押ししたのはインバウンドの急増もあります。インバウンド(訪日外国人)は2019年までは増加の一途で、2019年は3188万人と過去最高を更新しています。

 中国、韓国、香港、台湾などのアジア圏からはFIT(海外個人旅行)やリピーターが増え、今はショッピングからコト消費(レジャーやサービスにお金を使うこと)への転換時期と言われています。

 元々わが国では都市部でのナイトレジャーが不足しており、新たなエンターテインメントが希求されていました。インバウンドはノンバーバル(非言語)なコンテンツが適していますが、翻訳機を導入する施設も見られ、また、言葉は理解できなくても日本的な雰囲気を楽しむ人もいるようです。

 現在は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によってインバウンド市場も消滅した状況ですが、コロナ収束後はアジア圏を中心にインバウンドの早い時期の回復が期待されます。

 ホール・劇場増加の要因には国内のライブエンターテインメント市場の成熟・拡大も挙げられます。

 音楽市場の拡大もありますが、ミュージカル人気が注目されるところです。ミュージカルはストレートプレイ(音楽などのない劇・芝居)と比較して、シンプルでドラマチックな内容が多く、幅広い層が楽しめる作品が多い特徴があります。近年は井上芳雄さん、山崎育三郎さん、浦井健治さんなど人気男優が多く輩出され、若い女性ファンが増えていることも特筆されます。

 人気ミュージカル俳優がTVドラマなどに起用されてブレークすることも少なくありません。そのため、ミュージカルに興味を持つ人が今後も増えていくことが期待されます。

 原作のミュージカルも増えており、より若い世代に訴求するようになっていると言えるでしょう、2016年には帝国劇場で初のマンガ原作のミュージカル「王家の紋章」を浦井健治さん主演で上演し、大きな反響がありました。2021年には「王家の紋章」が再上演予定です。近年はミュージカル専用、もしくはミュージカルを多く上演する劇場が増えています。

「Go Toイベント」が追い風になるか

 ミュージカルの新しいカテゴリーである2.5次元も一定の市場を形成してきています。

 9月~10月に「天王洲 銀河劇場」(品川区東品川)で公演したミュージカル「刀剣乱舞 幕末天狼傳」は原作の人気もあって大きな話題になりました。都内ではそのほかに、11月13日(金)から「東京ドームシティホール」で公演予定。さらに2021年には「IHIステージアラウンド東京」(江東区豊洲)で新作2部作「大阪冬の陣」「大阪夏の陣」の上演を予定しています。

 ミュージカルと言えば、2014年に100周年を迎えた宝塚も根強い人気を維持しています。宝塚では「ベルサイユのばら」に代表されるように早い時期からマンガの原作ものを扱っています。そのほかにも今までにはゲームが原作の「逆転裁判」など、さまざまなコンテンツがミュージカル化されていますが、「東京宝塚劇場」(千代田区有楽町)では11月15日まで花組の「はいからさんが通る」を公演中です。

 もちろん、現在のミュージカル人気の火付け役である劇団四季も新たな劇場ふたつをオープンして、今後の動向が期待されます。このように、多彩な人気カテゴリーがあることも、ミュージカル市場が活性化している要因と言えるでしょう。

 ライブハウスやホール・劇場は新型コロナウイルス感染拡大によって深刻な打撃を受けた施設のひとつ。休業要請が解除されてからは一定規模があるホール・劇場でも感染対策を徹底して徐々に営業を再開しています。しかし観客だけでなく、舞台上の出演者やスタッフの感染予防にも気を配らなくてはいけないので、その苦労がうかがわれます。

 経済産業省が管轄する文化・芸術やスポーツに関するイベントの消費喚起策「Go Toイベント」も11月4日(水)から実施されており、2割相当のチケット料金の割引か、もしくはチケットを購入した際にチケット代の2割相当分の会場等での物販購入などに使えるクーポンが付与される予定です。対象は音楽コンサート、スポーツ観戦、伝統芸能、演劇、美術館、博物館、映画館、遊園地、テーマパークなど。

「Go Toイベント」のウェブサイト(画像:経済産業省)



 コロナ禍でホール・劇場とは疎遠になっていましたが、これを期に足を運んでみてください。

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