コロナ禍でも奮闘 リトルヤンゴン「高田馬場」のミャンマー料理店主と魅惑のテイクアウトメニュー

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コロナ禍でも奮闘 リトルヤンゴン「高田馬場」のミャンマー料理店主と魅惑のテイクアウトメニュー

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室橋裕和

アジア専門ライター

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新型コロナ感染拡大で注目される飲食店のテイクアウト。高田馬場ではそんなテイクアウトでミャンマー料理が楽しめます。アジア専門ライターの室橋裕和さんが解説します。

絶品ミャンマー炊き込みご飯

 スプーンを差し入れると、鶏肉はほろほろにほぐれていきます。なんと柔らかなのでしょうか。口にするとスパイスの風味とともに溶けていき、バターたっぷりの炊き込みご飯にもよく合います。

 ミャンマー料理の定番のひとつ「ダンバウ」。ミャンマー人がたくさん住み「リトル・ヤンゴン」と呼ばれる高田馬場では、これもテイクアウトで楽しめるんです。

「スィゥ・ミャンマー」の一番人気、ダンバウ950円。バラチャウンという干しエビのふりかけを混ぜるとまたいける(画像:室橋裕和)



「ダンバウはお祝いの席でよく食べられますが、手間も時間もかかるので自宅ではあまりつくらない料理です。だから専門店がたくさんありますね」

と教えてくれたのはタン・スィゥさん。

「リトル・ヤンゴン」でも有名なレストランのひとつ「スィゥ・ミャンマー」(新宿区高田馬場3)の店主です。日本に来てもう30年以上、お店をオープンして9年になりますが、これほどにお客さんが来ないのは初めてだといいます。コロナウイルスのためです。

 緊急事態宣言以降、飲食店は「三密」に当たるとして避けられ、また東京都の要請により営業時間の短縮を余儀なくされています。

「テイクアウトにも対応していますが、お客さんが誰も来ない日もあります。多くても5人か10人か。それでも、家賃の支払いもありますし、ひとりでもふたりでもお客さんが来てくれるなら、と店を開けています」

そうタン・スィゥさんは言います。

生活苦に直面しているミャンマー人たち

「日本に住んでいるミャンマー人は、飲食関係で働いている人が多いんです」

と話すのは、やはり都内でレストランを経営するミャンマー人のアウンさん。まさにコロナ禍の直撃を受けているのです。

「店が営業中止になって解雇されたり、営業時間が減ったりして働ける時間が少なくなって給料が激減しているミャンマー人が増えています」

 飲食店の従業員や、やはり飲食店のアルバイトで生計を立てていた留学生たちが、いま生活の危機に直面しているといいます。ただでさえ少ない給料から故郷に毎月仕送りをしていた人々は、はじめから手元にお金がないのです。

ミャンマー最大の都市・ヤンゴンの街並み(画像:写真AC)



 コロナで収入を絶たれ、わずかな金でどうにか食いつないできましたが、そろそろ家賃の支払いができなくなってきています。

「友達の家に転がり込んだり、みんなで集まったりして一緒にごはんをつくって節約してしのいでいる人も出てきています」(アウンさん)

 家賃を待ってほしいという交渉をしても、大家や不動産屋もまた苦しい状況のため、なかなか応じてもらえないし、そもそも込み入った話し合いを日本語で行うのはなかなかに難しいのです。

 アウンさん自身も区の窓口に、緊急融資や給付金の相談に出向く毎日ですが、書類やウェブでの申請フォームは、日本人だって手こずります。日常生活やビジネス上でも使わない漢字の専門用語の羅列は、日本の大学院を出たアウンさんでもかなりハードルが高いそうです。

コロナとの戦いの最前線にもミャンマー人たちが

 首都圏で働くミャンマー人の技能実習生たちも、やはり仕事が減っています。

「ホテルなどは稼働率が低くなり、自宅待機になっています。給料の60%は保障されますが、生活はきついし、家族に仕送りができず困っています」

と話すのは、実習生の通訳をしているミョーゾーさん(仮名)。

 いつ社会が元通りになるのか見通しが立たないので、帰国したいという実習生も増えてきているそうです。しかしいまは航空便が激減し、そのぶん価格が上昇。実習生を雇っている会社によっては、そのお金を支払うことに難色を示しているといいます。

 本来は会社負担であるはずの帰国便のチケットを、自己負担で賄うように求められ、そんな蓄えもなく困っている実習生もいるそうです。

 それにいまは、介護現場でもたくさんのミャンマー人たちが働いています。介護施設がクラスターになったケースも多く、感染リスクの高い高齢者がおおぜい生活しているだけに気を使う職場です。

介護現場のイメージ(画像:写真AC)



 そこで入居者のケアをしているミャンマー人たちは、とにかく感染を避けるために細心の注意を払い、自分たちよりも高齢者のことを心配しながら働いているといいます。スーパーマーケットやコンビニなども同様ですが、コロナとの戦いの最前線で働く外国人は本当に多いのです。

時にはミャンマー料理をテイクアウトしてみよう

 そんなミャンマー人たちが暮らし、また近郊からも集まってくる街として、高田馬場は知られています。

高田馬場駅の駅前の様子(画像:写真AC)



 本格的なミャンマー料理レストランは十数軒あるでしょうか。コロナ禍によってしばらく閉店となってしまったところもありますが、まだまだ元気で営業している店もいくつかあります。テイクアウト対応している店も出てきました。

 あの人気テレビ番組「孤独のグルメ」に登場した「ノング・インレイ」(新宿区高田馬場2)は、ミャンマーでも北部のシャン料理の専門店で、こちらもテイクアウト可。ミャンマー人経営の油そば屋としてラーメンマニアにも知られた「油そば 力」(同区高田馬場3)にはミャンマー風のビーフンもあり、こちらも持ち帰りできます。

「スィゥ・ミャンマー」ではダンバウのほか、ミャンマー名物のお茶の葉サラダ「ラペットウッ」など全メニューが持ち帰りできますが、試してほしいのは国民的な麺料理である「モヒンガー」でしょうか。

 日本ではあまりなじみがないですが、なんとなまずで出汁を取って玉ねぎやハーブ、にんにくなどを加えたスープに、米の麺を加えて食べるもの。こちらは麺が伸びないよう、スープと別々にしてパックしてくれます。ダンバウも炊き込みご飯と煮込みチキンは分けて包んでくれたりと、ミャンマー人の細かな心遣いが感じられます。

 自粛生活の中、テイクアウト・グルメに関心が集まっていますが、どうしても単調になりがちです。そんなときは高田馬場のミャンマー料理をお持ち帰りしてはどうでしょうか。それがこの非常時に、どうしても弱い立場になりがちな外国人を支援することにもなると思うのです。

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