えっ、本当に東京? 70年前の風景にタイムスリップ、足立区・堀切周辺を歩く

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えっ、本当に東京? 70年前の風景にタイムスリップ、足立区・堀切周辺を歩く

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カベルナリア吉田

紀行ライター、ビジネスホテル朝食評論家

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東武スカイツリーライン「浅草駅」から5駅目の堀切駅周辺は、昭和レトロファンにはたまらないスポット。紀行ライターのカベルナリア吉田さんが歩きます。

駅前はまさかの、土手と川!?

「列車とホームの間隔が、広く開いている箇所がございます」

 グワンと大きくカーブを描くホームに、列車が滑り込みます。アナウンスの通り、大きく開いた隙間に足を取られないよう、エイヤッとまたいでホームへ。

堀切駅。ここは本当に東京23区?(画像:カベルナリア吉田)



 狭い改札口を抜け外に出ると、駅前は……え、土手? 
土手の向こうを、広い川が流れています。ロータリーも全国チェーンのコーヒー屋も、ここにはありません。

 そして振り返り、いま出たばかりの駅を見ると、さらに驚きます。すさまじく年季の入った、一軒家を思わせる簡素な駅舎。浅草からここまで10分強。今どき都内に、それも都心の近くに、こんなひなびた駅と駅前があるなんて。

 その駅は東武スカイツリーライン――伊勢崎線といったほうがわかりやすいでしょうか。浅草から5駅目の、堀切駅です。

1902年に開業

 堀切駅は1902(明治35)年開業、110年以上の歴史を誇る駅です。その所在地は東京都葛飾区堀切、ではなくて足立区千住曙町。駅名と同じ葛飾区堀切は、駅前を流れる荒川を渡った向こうにあり、そこには京成線の堀切菖蒲園駅があります。

堀切駅前は土手(画像:カベルナリア吉田)

 もともと荒川は、利根川の氾濫を防ぐため人工的に掘削された放水路です。掘削工事に伴い、今よりもっと東側にあった堀切駅は1924(大正13)年に、放水路の西側である現在地に移転されました。

3年B組生徒が駆け抜けた土手

 一方で1931(昭和6)年、放水路の東側の葛飾区堀切に、堀切菖蒲園駅が開業しました。そんなわけで元祖・堀切駅は、堀切ではない場所に、今もポツンと立っています。あまりにも簡素な姿で、時間の流れに取り残されたかのように。

赤い目印の場所が堀切駅(画像:(C)Google)



 それでも東京らしからぬ堀切駅と駅前は、郷愁を呼び起こすのか、たびたび映像のロケ地に選ばれました。有名なのがドラマ『3年B組金八先生』。オープニングに登場するのは堀切駅前の土手です。また駅の裏手に立ち「桜中学」として登場した足立二中は、閉校したのち東京未来大学(足立区千住曙町)となり、今も多くの若者でにぎわっています。

70年以上前の東京の風景

 そして『金八先生』より遥か以前、小津安二郎監督の代表作『東京物語』のロケも、ここ堀切駅前で行われました。映画の公開は、戦後間もない1953(昭和28)年。驚くことに、モノクロ映像に登場する土手ほか駅前の風景は、今とあまり変わっていません。

堀切駅の東口。背後の建物は『金八先生』の桜中学。旧足立二中、現東京未来大学(画像:カベルナリア吉田)

 劇中では復興が進む皇居周辺の大都会ぶりと対比して、堀切駅前のひなびた風景が描写され、当時すでにこのあたりが「東京らしからぬ田舎のような場所」であったことが覗えます。映画の公開は66年前。その当時すでに「ひなびた場所」だった堀切駅前は、今からさかのぼれば70年くらい前の、いやもっと昔の東京の風景が残っている場所なのかもしれません。

 ほかに作家の永井荷風も、堀切駅前の荒川の風景を好み、たびたび訪れては自著で紹介しています。昔ながらの風景が、奇跡のように残る駅と駅前。モノクロ映画の主人公気分で、ブラリと歩いてみました。

高さ1.7mの低い高架も

 まずは駅周辺をぶらぶら。住宅街にある小さな公園「柳原千草園」は、緑がいっぱい。木道を配した池もあり、まさに「都会のオアシス」と呼びたい雰囲気で、くつろげます。近くに延びる商店街「柳原千草通り」も、枯れた味わいの下町風情が漂い情緒満点。以前は「柳原銀座」と呼ばれていたそうです。

昭和の香り漂う商店街、柳原千草通り(画像:カベルナリア吉田)



 界隈は住宅の隙間を縫って、東武鉄道と京成線、首都高の高架が交差する「高架銀座」でもあります。中には高さ1.7mの低い高架もあり、身をかがめてくぐるのも一興です。近くに古い食堂があり『金八』の武田鉄也さんほか出演者も、ロケの合間によく利用されたそうですよ。

堀切菖蒲園を横目に……

 千草園の周辺を歩いたら、荒川に架かる堀切橋を渡り、対岸の葛飾区堀切へ。堀切橋は長さ500m強。堀切駅から堀切へ行くのに、なんでこんなに歩くのかと思いつつ、橋から見下ろす荒川の風景は空が広くて絶景です。

堀切橋から荒川を眺める。台風明けの撮影のため川の水が濁っているが、普段はもっときれい(画像:カベルナリア吉田)

 堀切に着いたら最大の名所、堀切菖蒲園へ……といいたいところですが、菖蒲の見ごろは6月が中心。今回は菖蒲園を横目に、堀切菖蒲園駅方面に向かいます。ちなみにボクシングの亀田さん一家は「勝負(菖蒲)に」「勝つしか(葛飾)ない」という理由で、堀切に移り住まわれたとか。

 商店街「菖蒲園通り」が延び、道沿いに店が連なりだします。そして京成線の高架が見えてくる頃には、辺りは店がいっぱい! 駅を三角形に囲む道はすべて商店街で、戦前の昭和1ケタの頃から続く、古い店も多いそうです。

散策のゴールは町中華で

「ラッキー通り」「クローバー商店会」と商店街が続く中で、気になるのが駅の西側に延びる堀切中央通り。やけに「ラーメン」の4文字と、年季が入ったいい感じの中華料理店が目につきます。

 ここは通称「ラーメン街道」と呼ばれ、ラーメン好きが多く集まるそうです。そして個人経営の古い中華屋、いわゆる「町中華」も多く、中には24時間営業のお店もあります。チェーン店じゃないのに24時間って、すごくないですか?

堀切中央通りで、好みのラーメンと中華を見つけよう(画像:カベルナリア吉田)



 入ってみました町中華。時刻は午後3時。ビールと餃子と、レバニラもくださーい。

「ハイお待ち、ビールと餃子とレバニラ!」

 目の前のドンと置かれた瓶ビールをコップに注ぎ、一気にグビリ。プハーッ、うまい! 平日昼間に飲むビールの、なんと後ろめたくてうまいこと! そんなことをしているのは僕ひとり……じゃなくて、お客はけっこういて、皆さん餃子や野菜炒めをつまみつつビールを飲んでいます。昼酒が似合う気取りのない下町、それが堀切なんですね。

 商店街にはほかにも、ハイボールが濃くてうまい「ボール酒場」(ハイボール、と全部いわない)が数軒と、シベリアが人気の洋菓子店、ハンバーガーの自販機があるパン屋など個性豊かな店がズラリ。居酒屋看板が連なる脇道も歩いたら街の鎮守、天祖神社の七福神と、近くに立つ十二支神へのお参りもお忘れなく。計19の神様が、ひとつ場所に並んでいて壮観です。

 というわけで葛飾区堀切の最寄り駅は京成線の堀切菖蒲園駅ですが、ぜひ東武線の堀切駅から歩いてみてください。かなり歩きますが、やっとたどり着いた町中華で飲むビールは、ひときわおいしいですよ。

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