中野駅から徒歩5分 昭和と令和をつなぐ異空間「中野新仲見世商店街」、純喫茶からアバター立ち飲み店まで その魅力に迫る

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中野駅から徒歩5分 昭和と令和をつなぐ異空間「中野新仲見世商店街」、純喫茶からアバター立ち飲み店まで その魅力に迫る

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黒沢永紀

都市探検家・軍艦島伝道師

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JR中野駅の北口から徒歩で5分ほどの場所に、まるで映画のセットのような「中野新仲見世商店街」があります。都市探検家・軍艦島伝道師の黒沢永紀さんが解説します。

中野北口に位置、発足は1949年

 JR中野駅の北口から徒歩で5分。サンモール商店街を抜けて少し東にある「中野新仲見世商店街」(中野5。以降「新仲見世」)は、まるで映画のセットのような空間に、ノスタルジーとカオスとフューチャーが混在する、ちょっと不思議な商店街。今回は、中野にぽっかりできた異空間のお話です。

 中野新仲見世商店街は、戦後の1949(昭和24)年に発足した、中野北口の中では新しい商店街で、隣接する「ふれあいロード」が、その昔は仲見世商店街だったことから「新」と名付けられました。

映画のセットかジオラマのような中野新仲見世商店街(画像:黒沢永紀)



 しかし、ほかの商店街が時代に即してそれなりに変化する中で、新仲見世には発足当時の雰囲気が色濃く残り、今では最も古い商店街の印象です。

私有地に隣接する公共地に桜の木

 一本の通路の両側に商店が建ち並ぶのが一般的な商店街だとすると、新仲見世はちょっと複雑な路地の造りが特徴です。おおよそ25メートル四方の土地の中央に、島のように建物が建ち、その周りをぐるりと囲むように路面店が軒を連ねます。

赤のポイント部分が中野新仲見世商店街。南には中野駅(画像:(C)Google)

 ほとんどの土地は私有地の新仲見世ですが、島のように建つ建物に隣接した小広場だけは、なぜか公共地。これは、江戸から受け継がれた、防火を兼ねる集会場所としての役割を維持するための措置ではないかと思います。

 小広場の端には、昭和40年代の後半に植樹した桜が育ち、春には花見、夏には流しそうめんなどが、商店街の行事として行われていたようです。

夜になると、浮かび上がる映画セットのような光景

 1975(昭和50)年頃、小広場が突然陥没した事件がありました。さまざまな噂が飛び交う中、戦中をご存知だった人の一声で、かつての防空壕の崩落が原因と一件落着。しかし、その真相は未だに謎のままだとか。

商店街の中央にある小広場と大きく育った桜の木(画像:黒沢永紀)



 2019年現在、22軒ある路面店は1店舗を除いてすべて飲食店で、しかもチェーン系は一切ありません。開店当時の店構えで営業する老舗が何軒もあり、また新参の店舗でも建屋はほぼ戦後すぐの看板建築のまま。夕暮時、お店に明かりが灯ると、映画のセットのような光景が浮かび上がります。

 北西の奥に店を構える「PEP(ペップ)」は、近年オープンしたワインバル。しかし入口の上を見ると、なぜか「中華料理 北京亭」の看板が。北京亭は1954(昭和29)年創業の町中華。ファンも多い人気店でしたが、ご主人がお年を召して数年前に閉店。看板は名残を惜しむように、その歴史を伝えています。

 現役の古参は、小広場の東にある1966(昭和41)年開業の「武蔵野そば処」。数々のグルメ雑誌でも取り上げられる、本格手打ちそばの老舗です。そばの旨さはもちろん、ネギとワサビ以外に4種も添えられる色とりどりの薬味が目も楽しませてくれます。特に菊の花は、そばとの相性抜群。

 少し遅れて創業した串焼きうなぎの「川二郎」や、元力士の二子竜さんが切り盛りするちゃんこ鍋の「力士」、そして焼き鳥の「仲野」など、いずれも純和風な装いで、新仲見世のノスタルジックな風景に貢献しています。

店舗からあふれ出る、オーナーたちの新仲見世愛

 また、絶滅危惧種となりつつある純喫茶も健在。お洒落なネーミングの「マロ カフェ」は、完全な昭和の喫茶店で、各種ドリンクとカレーやナポリタンなどの定番の軽食を供する業態も、45年前の開店以来変わっていません。ただし、当初あった「マロドリンク」というオリジナル・ドリンクがなくなってしまったのは残念です。

 飲食店ではない1店舗は、なんとレコード屋さん。「文化堂」という屋号が、商店街の発足はおろか、昭和モダンの香りを漂わせます。マホガニー色の扉や石膏の彫像が睨みをきかす店内など、開店当時から何も変わっていないのには、ただ驚くばかりです。

 そのほか、ラムパクチー餃子がやたらとおいしい「やまよし」や、女性シェフがきりもりする洋食酒場「カラフル」などの新参のお店も、あたかも昔からあったような店構えにしているのは、開店するオーナーたちの、新仲見世への愛の表れ(改装費の問題もあると思いますが)でもあるのでしょう。

 そして、新仲見世の最奥に鎮座するのが、平成の初めに「ワキ毛の女王」自殺未遂事件で話題となった「ワールド会館」。もともとホテルとして開業し、その後ビジネスホテルと飲食店を併設する雑居ビルに。

中野の魔窟ともいえるワールド会館(画像:黒沢永紀)



 バブルの時代にはきらびやかな看板がひしめきましたが、その後いくたびも店舗が入れ替わり、今では「アニソンカラオケバーZ」や特撮を観ながら一杯呑める「空想科学」、そしてお坊さんの説教が聞ける「坊主バー」など、個性的すぎる店舗がひしめくさまは、オレンジ色のタイルが貼られた外階段の異様な雰囲気と相まって、中野の九龍城ともよばれています。

アバターと会話をしながらお酒を楽しめる店も

 そんな新仲見世で最も新しいお店は、2019年の春にオープンした「アバスタンド」。なんと世界初!? アバターの立ち飲みです。1坪くらいの極小店舗で、路面に張り出したカウンターの奥に設置されたふたつのモニターを通して、アバターと会話をしながらお酒を楽しむ店。

世界初!? アバターと会話しながら呑める「アバスタンド」(画像:黒沢永紀)



 アバターの先には業務提携した会社のスタッフが空き時間で自宅などに待機し、通常のウェブカメラと同様のコミュニケーションですが、お客さんが見るのは通信先のリアルな本人ではなく、動作や表情が対応したアバターです。

 広告会社出身のオーナーは、もともと独居老人の対話ツールとして、アバター・コミュニケーションを開発。しかし、医療系などへセールスをしていくうちに、アバターとの対話がまだまだイメージがしにくいと感じ、プロモーションを兼ねて開店したとのこと。

 現在は、スタンディング・バーの形態ですが、ゆくゆくはスマホなどの端末アプリで、アバターとのやりとりができるようにしたい、と抱負を語ってくれました。

 リドリー・スコットの名作『ブレード・ランナー』に登場するロサンゼルスをも連想させる、アジアンチックなカオスと近未来が同居した映画のワンシーンのような中野新仲見世商店街は、ぜひ、夕暮れ時から夜に訪れることをお勧めします。

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