知れば知るほど共通点? 大田区大森と「瀬戸内海」がそっくりに思えてならないワケ【東京23区ビーチの旅】
旅行に行かれなかったコロナ禍、東京都内にいながらリゾート地や有名景勝地に来たような気分を味わえるビーチを発見! 映像ディレクターの高橋弘樹さんがその魅力をリポートします。第3回目は「大森ビーチ」。都内に見つけた「瀬戸内」の景色 都内にあって、ふらっと行ける距離にあるのに人ごみが少ない、そんな穴場な海岸をたどる「東京23区ビーチの旅」。 これまで「葛西ビーチ」(江戸川区)と「城南島ビーチ」(大田区)を紹介。“東京のコート・ダジュール”感のあるビーチを取り上げてきましたが、最後はどちらかというと、コート・ダジュールより“瀬戸内海”感のある23区のビーチを取り上げてみたいと思います。 全3回シリーズの企画「東京23区ビーチの旅」。最後に紹介するのは大田区の「大森ビーチ」(画像:高橋弘樹)「なんだよ、コート・ダジュールじゃなくて国内かよ」と思い、画面をスクロールして、他の記事をクリックしそうになったかもしれませんが、それは早計です。 景観論の大家・西田正憲氏によれば、瀬戸内海は19世紀にドイツ人医師シーボルトが絶賛して以来、多くの西洋人がエモすぎると絶賛。 イギリスの聖職者ヘンリー・トリストラムは、 「長く曲がりくねった瀬戸内海の航海は完全に美と魅力のためにあるのであり、これに匹敵するものは世界にはない」 「春のナポリ湾、夏の朝のウェミス湾、ワイト島の1周旅行、デンマークの海の島めぐり、華麗なスマトラの海岸、入りくむサンゴのバミューダ諸島。お望みの風景を何でも思い出し、ほんの1、2時間待て。そうすれば瀬戸内海にそれに見合う風景を見いだすだろう」 と絶賛したと言います。 美しい海岸までの道のりも魅力美しい海岸までの道のりも魅力 少しハードルを上げすぎましたが、そんな瀬戸内海の魅力といえば小さな島々がいくつも連なる「多島美(たとうび)」。今回紹介する「大森ビーチ」(大田区)からは、真正面に昭和島、そしてその左に平和島を望みます。 目の前に広がるのは、美しい白砂の海岸(画像:高橋弘樹) そしてこのビーチの良さは何と言っても、そのアプローチにあります。 電車で行こうと思えば京急・大森町駅から迷路のような住宅街を抜けて行かねばならなりません。曲がりくねった小径は、容易にビーチにたどり着くことをゆるさない。だが道中、古びた神社や町工場、商店がポツポツとあらわれて飽きません。 車で行っても、駐車場からは公園を突っ切って、ひとつ橋を渡らなければたどり着くことができません。 そして道中、海苔の町・大森の歴史を展示する「大森 海苔のふるさと館」(同区平和の森公園)で、いかにして国際紛争が起きるかという根本原則を、大森と隣町・糀谷の、海苔作りにおける潮の流れの奪い合いから学ぶことになったり、子どもがいれば小高い丘にある巨大ローラースライダーに乗ると駄々をこねられたりと、容易にたどり着くことができません。 それゆえに、ビーチにたどり着いたときの感動はひとしお。南北300~400mほどのビーチは、美しい白浜。くしくも、この白砂は小豆島から運ばれてきたものだそうです。 大森と瀬戸内、いくつもの共通点?大森と瀬戸内、いくつもの共通点? 筆者(高橋弘樹。映像ディレクター)に言わせれば、完全にここ大森の“瀬戸内海化”を狙ったとしか思えません。 現在でもビーチのすぐそばに海苔棚があり海苔を作っているというのも、昭和島などに遮られて東京湾の相当奥に位置しているため波がほとんどないのも、瀬戸内海感がありますね。 筆者オススメのこのビーチの楽しみ方は、「お、これも瀬戸内海」と、自分なりに発見して遊ぶことだと思いました。これは、何も筆者が開発した新しい遊び方ではありません。 大田区大森から一転、例えば台東区の「上野の山」を歩けば、今でも京都・清水寺(きよみずでら)と同じく舞台を持つ清水観音堂、焼け落ちて顔だけになった上野大仏、池に浮かぶ不忍弁天堂があります。 じつはこれらには秘密があります。 上野の山は京都の比叡山に、薬師如来を本尊とする寛永寺は同じく薬師如来を本尊とする延暦寺(滋賀)に、そして清水観音堂は清水寺に、上野大仏は京都・方広寺の大仏に、不忍池に浮かぶ弁天堂は、琵琶湖に浮かぶ竹生島に見立てて造られたもの。 台東区にある、顔だけになった「上野大仏」(画像:写真AC) 人の移動が制限され、旅行が容易ではなかった江戸時代の人々は、この「上野全体」を「畿内(きない)」に見立てて楽しんだのです。 コロナ禍で人の移動が制限された2021年より先駆けること400年。すでに江戸の人々は、こうして「見立てによる旅」を発見していたのです。 想像力とともに行く「見立て旅」想像力とともに行く「見立て旅」「見立ての旅」は、ただ感ずるだけでなく、その先に必ず「思考」と「想像」を伴います。 江戸の人々も、ヘンリー・トリストラムも、この見立ての中に、大いなるイマジネーションをブレンドすることで、時に本家以上の「美」を、眼前に見出していたのかもしれません。 大森ビーチからのぞむ眼前の昭和島は、まるで尾道からのぞむ向島……。 「見立て旅」が教えてくれる、旅の楽しみとは(画像:高橋弘樹) コロナによって人流制限が解除されても、時間がないとき簡単に楽しめる、この見立て旅。 身近な旅であるということだけでなく、移動距離によって物理的に生じる文化的差異を味わいに行く旅よりも、時に魅力を放つこともあるものなのではないかと、「東京23区のビーチ」を歩いて思いました。
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